氷壁の向こうへ
いきなり、誤字脱字修正しました。申し訳ありません。
氷壁……極氷壁の彼地と人智の地を隔てる天届くかの氷の壁。
人智の者は北壁と呼ぶそれは、際限無く広がる世界の一つ区切りだった。
氷雪が降る中で、その壁を見上げる一団がある。当然、相応な刻を掛けて目的の為にやって来た、クローゼ達である。
その中で、鉤爪を装備し防寒着を着こだ、擬態の人狼達は、越えるべき壁の高さが分からないのに……困惑していた。
「これ登るんですか?」
「すげぇ……高い……」
「れっ、冷静……だ」
アッシュ、マッシュ、ロッシュが続けて感想を述べたのに、ザッシュは空中に立つクローゼを指して、見たままを声にした。
「薔薇の大将の盾に乗ってけば……良いんじゃねぇか?」
ザッシュは、クローゼの硬化機動楯で、ニュアンス的にエレベーターの様に運んで貰えばと言っていた。
その案に、ここぞとばかりにアッシュが乗る。
「お前意外に頭良いな。なら、そうしましょう」
「アッシュ! 普通に登れ……面倒くさい」
その案を一刀両断したクローゼに、食い下がるアッシュの愚痴が続く。
「あ、いや、楯……クローゼ様は瞬発使うでしょう。ベイカーさんは普通に飛ぶし。それに、キュトラの大鷲はなんですかって……」
呆れた感じのアッシュの立ち位置に、大きな影が被さる。それは、フリーデ=ノルニル・アルヴルフォルクが跨がる 氷壁の極狼の遮蔽だった。
「アッシュ。最精鋭と聞いたぞ。妾も登った事は無いが、汝らなら出来る」
「あ、簡単に言わないでください。それに乗れたら楽なのに……」
「登れたなら、妾が……抱擁してあるぞ……」
フリーデの優しい笑みに、側で聞いていたザッシュが擬態を解いて人狼になる。防寒着はパンパンになり、肉体的飛躍したのを示していた。
「薔薇の大将。さっさと行きましょう」
「行くのか!」
「そりゃ、行くだろ。……すげぇご褒美だぞ」
呆れ声を張ったアッシュに、腕を回して見せるマッシュ。それより先にロッシュが、本来の姿で壁の氷を削る。
その様子に肩を揺らすアッシュは、フリーデを見上げた。
「これ……どれくらいあるんですか?」
「竜の背よりは低い筈ゆえ、どれ程かは分からぬ」
フリーデの答えに、アッシュはため息をついた。
――流石にアルも……抱擁とか怒るだろうな……。ばれたら絞め殺されそうだよ。
「いくぞ、アッシュ!」
「あっ、分かりましたよ。行きます!」
よじ登る三体。駆け上がる二匹。飛翔と羽ばたくに飛び上がるクローゼが、遅れたアッシュを呼んだ。
――先ず、あの人が黙ってない。ああ、頭で我慢しとこ。
呼ばれたままに、アッシュは擬態を解いて人狼になり壁を削る。
一応に、『アル』について記すなら、名をアルビダといい、彼の恋人でアリッサの侍女をする、人魔系の妖蛇の種になる。
擬態を解けば、半人半蛇の様相で『絞め殺されそう』なのは、当然アッシュより強いと言う訳ではない。
そんな残念そうなアッシュを最後尾に、一団は氷壁に挑んで行った。
彼らとは別に、氷壁の向こう、極氷壁の彼地を目指す者達もいた。
それは当然、屈服させる、いや、征服する意を持つノルトスヴィア王国とそれに同調した、ファルリンド王国に、スーウェルデール連合王国らの軍になる。
氷壁の正門を攻略する為に、そこから一〇〇リーグ(百キロ程)南にある恩恵の大河の両岸に拠点を持ち、進行ルートの選定から各国がその場に集結しつつあった。
勿論、ノルトスヴィア王国の呼び掛けに応じた、ゴルダルード帝国も、ルーベック辺境伯領より、フォルカー・シュタール準伯麾下、動員数一二〇〇〇。兵力八八〇〇――騎兵二八〇〇が恩恵の大河の岸を北上し、集結ポイントに向かっている。
開戦時期は明確ではないが、進軍の足は早すぎず遅すぎない 。そんな、形式なのか本気なのか微妙な雰囲気が、ゴルダルード帝国にはあった。
そこには、クローゼの意を汲み、テレーゼ・ファング・ヴェッツェルが、最も信頼するカミル・フェヒナーを連れて既に合流していた。
表向きは、テレーゼの婚約者フォルカーの初陣の陣中見舞いではある。
ただ、多方から連絡を入れてやって来たテレーゼに、フォルカーも困惑した。当たり前に初見の挨拶を儀礼的に済ませたあと、フォルカーがこんな言葉を出した。
「まさか、こんな所に来ていただけるとは思ってもいませんでしたよ」
「婚約者殿の初陣と聞いて、ヴェッツェルの武名にかなうか見極めに来た」
ほぼ単身で、『自分を値踏みしに来た』という『婚約者の女性』テレーゼに、彼は苦笑いをして見せる。
「なかなか手厳しいですね。見た目なら様似なっていると……思ってはいますが」
「……見た目の……問題ではない。実際の働きを……」
「そうですか。なら頑張ってみます。でも、嫌われていたかと思っていましたから、嬉しいですね」
「いや、そんな問題では無い。大体、絵では人となりは分からないから。……でなく、ゆえ」
厳しい表情をしたままのテレーゼが、僅かに素を出したのには、フォルカーも優しい表情になった。
また、今現在、行軍の中央で馬を並べる、美男美女の雰囲気を見せる、テレーゼとフォルカーの会話はこんな感じになる。
「……そもそもこの様な無益に、お父上はよく兵を出されたましたよね」
「まあ、無益とは少し違いますね」
「違う?」
テレーゼに、砕けた感じが出ていたが、『開戦を邪魔する』前提で、軍権に参加したい旨を、当たり前な顔で副将待遇な客将の地位を提示されたのに、彼女は少し機嫌が良かった。
ただ、打ち解けたと言うよりは、テレーゼが彼を『だいぶ年上』と言う認識して、フォルカーに上から厳格な態度をしていないが正しいのだろう。
しかし、実際には一〇も離れてはいない。
「う~ん。テレーゼ様でも分かりませんか」
「どういう意味ですか?」
「そうですね。まあ、簡単に言うとどちらが勝っても帝国には不利益。と言う事ですね」
フォルカーの結論じみた答えに、テレーゼは不満げな表情をする。当然、彼女はそう言う意味で聞いた訳ではなかった。
「その事を聞いたのではないです。卿の意地悪ですか?」
「いや、意地悪してる訳では……そんな可愛い顔で言われると困るな。拗ねてますか?」
「しっ、してないです。それに、拗ねても無いです。純粋に――」
可愛い顔をしてるだろうの雰囲気は、フォルカーにはあった。ただ、それを露骨に出すこと無く、真面目な顔を見せる。
「――そうですね、スフィア達は強い。その彼らが勝っても負けても、その強さが脅威と言う事です。う~ん、彼らが勝てば兵站を手に入れ、負ければ強さを提供する。何れにしても――」
「――ノルトスヴィア王国の存在が、脅威になると言う事ですか? あっ、この戦い自体が……」
馬上から前方に視線を向けたフォルカーに、テレーゼの瞳が向けられる。それに、思った通りだなの様子にフォルカーは、口角を上げた。
「正解。最初のはもう少し大きな目で見る必要がありますが、この戦いについて皇帝陛下も辺境伯も同じ意見です。なので、私は勝敗が着かない様に助力しに行くのです」
フォルカーの言う通り、皇帝ライムント・ファング・ゴルダルードとルーベック辺境伯フランツ・シュタールはその見解で、一致していた。
たた、テレーゼは、『皇帝陛下』という言葉に、少し安心した様に見えた。
「あっ、なら私もその為に来――あっ!」
「そうですか、それは奇遇ですね」
慌てて口を抑えるテレーゼに、フォルカーの笑みか向けられた。それに、彼女達の後ろで馬を並べる、それぞれの側近の男女二人は、苦い顔をする。
「フォルカー様。そのあたりで」
「シュタール卿。委細の補足は私から。まさか、お嬢様がこれ程早く――」
「カミル!『お嬢様』はやめて。うっかりしたのは謝るけど……あっ……シュタール殿?」
そんなテレーゼの乗る馬に、フォルカーは馬体を寄せて彼女の顔を覗き込む。クローゼの基準では、容姿から見れば良い男が、美少女的なテレーゼに迫る感じだ。
「通信機と言うものは便利だね。一応ガーナル辺境伯夫人から『私に会いに来るだけではない』というのは聞いているよ」
「はぁ、……始めから知ってたのですか?」
手筈をクローゼに頼めば『結局そうなるのか』と、テレーゼは何と無く理解したように、ため息交じりでフォルカーの顔見る。
「目的は奇遇だけれどね。まあ、婚約者と言っても、間違いなく政略でしょう。テレーゼ様の後ろに――」
「――私はシュタール殿の後ろは見ていません。格式がどうと言われるなら、お断りします」
フォルカーが前を向き、形式的な話をし始めたのを、テレーゼは彼の騎乗姿勢を改めて見ながら、その言葉を遮る。
それに、フォルカーは驚いた顔をして、僅かに空を見てから、テレーゼに笑顔を向けて頷いた。
「なら、私はフォルカーだ。君の気持ちは理解しておく。でも、単純に政略だと思っていたから、嬉しいよ、テレーゼ」
「フォルカー殿?」
「テレーゼ、フォルカーだ。そう呼んで欲しい。勿論、断らせるつもりは無いから、君に男として認めて貰える様に最善を尽くすよ」
「えっ、あっ、その」
たじろぐテレーゼの乗る馬が、意図してフォルカーの馬に寄せた様にみえる。彼女が乗る馬は、彼の愛馬だった。
「私は……帝都シュテルグランツで、英雄と賞される君を初めて見た時、ときめいた。この話を父からされた時、頑張って平静を装ったよ」
改めた様にフォルカーは、前を向いてテレーゼの困惑を作り出した。それが収まる前に、改めて向き直りテレーゼの瞳を見つめる。
「政略では無く、私の妻になって欲しい。勿論、君をかごの鳥にするつもりはないから安心して。……そうか、私を見てくれるのか。よし、さっさと片付けて帰ろうか……」
よく分からない展開に、テレーゼは固まっていた。それをお構い無しに、フォルカーは側近の女性、ザーラ・グリューネヴェラーに、行軍を速める指示をしていた。
当然、テレーゼも手綱を合わせた。予想外の事に困惑を乗せて……勿論、向かう先は氷壁である。
その氷壁の正門と呼ばれる場所には、エイナル=オーズ・アルヴルフォルクの元に、多数のスフィアがあった。
その中の天幕らしきの内で、エイナルは椅子に座り、後ろから顔を寄せる妖艶な女性の黒髪に、彼は触れていた。
「妖艶なる羨獄。その二人はなんだ?」
「我妾の忠実な下僕。人ではありますが、宿す者ゆえ力は相応――」
「――俺では不足か?」
「斯様な事は……ただ、一軍と戦うなら、相応な『知略』は役に立ちます。それゆえ……」
憤慨を見せたエイナルに、耳打ちで朱色の唇を動かし妖艶なる羨獄は呟きを向けた。
「その様な者は不要……くっ……」
「至獄神天命を御す原初の・様が神意……お受けください。さあ、二人とも、極氷壁の彼地の王に膝を着けよ」
エイナルの長い耳にイルディラの唇が触れて、彼の表情が厳しくなる。それに続く彼女の言葉で、二人の男が跪く。
そして、ボルードランド皇国訛りで、自身をエイナルに名乗った。
一人は、バイール・バーブブランク。もう一のは人は、ウォルド・グレムスターシュ。何れも壮年の頃あいで、血気盛んな雰囲気と冷徹な表情と対照的な者達だった。
それを見下す感じがエイナルにはあったが、一応に声をだした。
「妖艶なる羨獄が、神意と言うなら、使ってやる。我らに軍略など不要と思うが、我が許す。好きにやってみよ」
エイナルの言葉に、下を向いたまま「御意」と声を合わせて答える二人を置き去りに、妖艶なる羨獄はエイナルの耳元で、「今宵は我妾と共に……」と囁いていた……
明確な絵図が、極北の地に描かれ、氷壁をめぐる争いが現実味を帯びていく。
恐らく、開戦は間近である。
突然の投稿申し訳けありません。間近と続けましたが、今ノ〇ターンに逃亡中なので、頻度は察して頂きたいです。終わりが先過ぎて、気力が……なのと、異世界で男女が……なら云々と。どうでも良いですね。流して頂ければと。 ありがとうございました。




