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対策は人任せ……それが最善

 極北の地(ノーデン・サイド)に衝撃を走らせたスフィアらの襲撃は、クローゼが遭遇した街だけでなく、ノルトスヴィア王国北部全域に及んでいた。

 また、その地域に拠点を置く、ビキンガーと言われる集団の集落も多数が襲われ、多くの住居が焼かれ相応の被害がでることになる。


 救いが有るとすれば、『誘拐された女王を探す』と言う名目で、無抵抗な者には危害が加えられ無かった事だろう。

 ビギンガーの集落は、多くが傭兵を主な生業にしており、適齢な男達が不在の為、逆に被害は少なかったと言えた。


 ただ、襲われた事実は変わらない。もっと言えば、氷壁(イスベグ)がある故の平和が覆された事実の方が、痛手だったのかもしれない。


 その状況を把握する前に、クローゼは見たことを柔らかくフリーデに伝えたが、当然、大きな落胆と自責がフリーデを襲い、悲しむ表情を引き出す。


 その為か、三人の魔導師を除く主要な者が集まる中で、クローゼの全力なノープランを、エイブリルが止めると言う一幕を見る事になった。


「先ずは、状況の確認を。既に各所には連絡済みです。情報を把握するまで、暫く自重願います」


「いや、このままだとまた。兎に角、俺が女王陛下を連れて極氷壁の彼地(ポレアイスベゲン)に乗り込む!」


 悲しい顔をするフリーデと不測な状況で、クローゼは苛立ちを見せる。それにも、エイブリルは職責を全うする。


「事は既に、女王陛下を御戻しするだけで済む話ではありません。形式上、いいえ、心情からも争いは避けられない筈です。それゆえ、無策で赴いても混乱を――」


「黙れ! 俺がヴァンダリアの名を出して受けたんだ。今どうするか言えないなら――」


 突然、彼女の言葉を大声でクローゼが遮った。それが、転移型魔動堡塁(フォートレス)の中で響き、驚愕の表情が並ぶ。


 それをまともに受けたエイブリルが、全身を震わせるかの様子も見え、場に緊張が走る。

 ただ、その雰囲気とクローゼを遮る、唯一残っていた魔導師ベイカーの鋭い声がした。


「――怒鳴るな! ……ガーナル卿。いや、クローゼ・ベルグ殿。現状をと言うなら、彼女の言は間違ってはいないと私も思うが?」


 その言葉で、更なる緊張が走り、クローゼとベイカーは正面で顔を見合う様子なった。

 ただ、ベイカーは自身を見たクローゼを確認すると、直ぐ様、恭しくフリーデに一礼する。


「御見苦しい所を御見せ致しました、女王陛下。何分、勢いで魔王を倒す男ですので、懸命が故の憤りと御理解下さい。それに、女王陛下の前で、職責を全うしようとする家臣を、無下にし威圧するなど言語道断……とガーナル卿も十分分かっていると思うますので、御許し下さい」


 物言い自体はわざとらしいが、クローゼは彼の言葉に、自身の王や義父の影をみていた。


 ――熱くなりすぎたな。でも、どう言ったら……。


 勿論、ベイカーの「怒鳴るな」は素直にクローゼは聞いて、冷静になった。ただ、それでエイブリルの驚愕から震える雰囲気をもて甘し、僅かに沈黙が流れる。


 そこで、フリーデはそのエイブリルに優しい表情をした。見た目は、清楚なあのフリーダだが、エイブリルは直接その姿を知らない。


「そうか。なら、(わらわ)もクローゼ殿がそうなら、そう理解しょう。それと、エイブリルとやら、(そち)にも(わらわ)の為に余計事をさせた。近くに……握手とやらか、せめてもの気持ちだ、してくれ」


 恐らく、エイブリルも呆然だったのだろう。言われるままに、入り口付近から声の先に向かった。そこで出されたフリーデの手に、自身の手をを合わせる。


「あっ、じ、女王陛下?」


 出した声の感じに、エイブリルはフリーデに引き寄せられ抱き締められる。フリーデの後ろに立つラシェル=ガルドも僅かに驚きを見せた。


「良い。余計な事をした礼じゃ。それと、クローゼ殿。人は声を出さずとも気持ちが通じ合うものなのか? それなら、我らと精霊の絆も存外特別では無いのかも知れぬの」


 わざとらしいにわざとらしいが乗って、クローゼの反省ができるを引き出した。一度その場が出来れば、クローゼのそれは全力である。当然、エイブリルは困惑する事になったのだが……。




 ……温もりを感じたからと言って、エイブリルの能力に変わりが有るわけではないが、彼女の全力が今までの副官に、勝るとも劣らないのを示す事になる。


 ――使えるものは全て使った――


 鉄の腕商会は勿論、実働部隊として当然に使い。キュトラが持つ知識と僅かながらのつてまでもかき集め、彼らの監視から北方に飛ばした影の者(シャテン)の情報と、ゴルダルード帝国を経由したノルトスヴィア王国の動向を確認を含め、状況の把握をしていく。


 それと、当然フリーデやラシェル=ガルドの情報も、状況を構築する糧とした。


 また、中央と西域の龍翼神聖霊教会に協力を要請し、アウロラとコーデリアら龍の巫女の協力で彼女らの名を使い、北域と極東の教会からも情報を得て、事後の取り成しまでの絵図を了承させていた。


 更に、その終息を見据えて、双方に影響力を持つであろう、精霊王アルフ=ガンド・アールヴの名前までを……いや、本人の立ち合いまで視野に入れた構図をクローゼに具申し実行させている。


 勿論、状況は厳しいが、暗躍が得意な虚無なる無獄(ヴァニタス)の蒔いた動乱の種を僅かな刻で、彼女は、凡そ一つのテーブルにまとめて見せた。



 その上で、最善をエイブリルは提示して、現状、何故か女吸血鬼(ヴァンプ)のカルーラが軽装なドレスのまま、クローゼの隣に立つフリーデの前で、膝を突き頭を下げていた。


「拝謁の栄誉賜り、恐悦至極にございます。事情は十分に御聞き致しましたゆえ、男爵夫人の意向により、出しうる最精鋭をこの場に。事が成った暁には、女王陛下……には、フリーダムに御越し願いたいと、男爵夫人より言伝てをお持ち致しました。それゆえ、御一考のほどお願い申し上げます」


 少数精鋭で内政に干渉せず、身元も伏せたままに、情報の上で言えば大きな戦いが起こる前提で、その前に極氷壁の彼地(ポレアイスベゲン)をフリーデに掌握させ、和議の道を探る。


 アウロラが納得し得る条件を模索出来れば、二人の龍の巫女も、その場に立つとの約定もあった。


「ドレスが汚れる立たれよ……カルーラ殿。それは有り難いが……アッシュ、この者達は……お前と同じ者らか?」


 ほぼフリーデ専用にと呼び寄せた、新たな転位型魔動堡塁(フォートレス)の狭い内部に、人狼が好んで着る、ゆったりとした服を着た男が四人並んでいた。


「そうですね。ちょっとあれですが、俺くらいはできるので、まあ、です」


 そう、彼らはアッシュを始めとした、ザッシュ、ロッシュ、マッシュ達になる。彼らはアッシュの声で、黙って立っていたから、声を漏らし始める。


「すげぇ、フリーダ様だ……」

「驚いた……そっくりだぞ。薔薇の大将のおかしくなってなかったんだな」

「れ、冷静……フリーダ様……」


 フリーデに向けていた彼らの視線が、驚きから僅かに懐かしむ雰囲気になった。ザッシュの「おかしく」にはクローゼも少し反応したが、彼らの思いのところも分かるので追及はしなかった。


「だろ、初めて見た時はびっくりした。でも、撫でられた頭はなんか懐かしかったな」

「あっ? 撫でて貰ったのかよ……」


「はっ、良いだろう。二回もだぞ」

「なんでだよ。えっ、俺は?」


 アッシュとマッシュに、カルーラが「やめなさい」が出て、フリーデの僅かな笑顔に繋がる。


「良い。撫で欲しいなら、今出来るのはそれくらいゆえ。順番にしてやってあるぞ」


 そんな、フリーデの雰囲気に、ロッシュが当然と歩みでて、彼女に頭下げていた。


「おまっ、って、ザッシュ並ぶのかよ。あっ、アッシュ! お前も行くのかよ」


 ……遅れを取ったマッシュが、最後に満悦な表情をして、現状からはずれた雰囲気ができたが、クローゼから見ても、フリーデの様子は穏やかになっていた。



 ――ただ、実状は当たり前に良くはない――



 当然に、ノルトスヴィア王国の国王は、国内に動員を掛けており、北部では大規模な避難が始まっていた。

 また、ノルトスヴィア王国だけでなく、ファルリンド王国やスーウェルデール連合王国でも、諸侯の動員と氷壁(イスベグ)に対する防備が鮮明になって、大規模な戦の様相は避けられないかに見えていた。


 更に、悪い事は続けて起こるもので、ノルドスヴィア王国の要請により、ゴルダルード帝国の北部を守るらルーベック辺境伯 フランツ・シュタールが、皇帝ライムントに連絡を送った上で、援軍を派遣する事にしたのだ。


 隣接するノルドスヴィア王国と国境を警備する上で、独立した軍権と行政権を持つルーベック辺境伯の判断は、クローゼの思惑を無視すればおかしな事ではない。


 もし、自国国境に脅威が迫った場合は、最前線はルーベックの領域になるので当然であり、単独で対処をまでを想定し、正式な要請を踏まえて機動兵力の大半を派遣すると決め、自身の三男であるフォルカー・シュタール準伯に、動員数一万以上の兵を預け早々に出発させていた。


 フランツ・シュタール・ルーベック辺境伯は、元々前皇帝の側近で、ライムントの一連には参加していない為、潜在的に敵勢かの様子もある。

 だが、逆に沈黙していた故に、ライムントは一連を成せたとも言えた。


 それは現状でも同じであり、当然牽制と取り込みの対象にはなる。


 その為、実力は定かではないが、彼の私兵は練渡においては間違いなく最精鋭であり、想定される状況において決定打になりえる存在だった。


 そう言った事情を含めて、エイブリルが試算し想定する状況は、北壁と呼ばれる氷壁(イスベグ)の正門に当たる、最果ての氷河からの恩恵が脈々と続く大河近郊での会戦だった。


 勿論、スフィアらに、外征能力が乏しいとの前提ではあるが、おおよそ間違った見解ではない。


 その前提で、単純な戦力比としては、人智の側がノルドスヴィア国王軍を主力に、諸侯と恐らく大半が傭兵団になるが、実兵力で七~八万。

 それに、各国の援軍を合わせて十数万までが戦力的最大値として、ラシェル=ガルド見解から、 スフィアら数万の戦力との対峙と思われる。


 そして、恐らくこの挙に至ったのは、エイナル=オーズ・アルヴルフォルクであるの認識は、その場には出ていた。



  そんな難しい雰囲気に、主要な者が集まる中で、エイブリルの説明から最後の見解が続いている。


「以上の点を踏まえて閣下には、会戦開始前に女王陛下を極氷壁の彼地(ポレアイスベゲン)の拠点に御連れして、事態収拾に尽力をして頂きます」


「まあ、大っぴらに出来ないのはわかったが、何故、この四人なんだ?」


 大方の事情を把握した、クローゼは何故か人選に拘りを見せた。それには、当然と答えは返ってくる。


氷壁(イスベグ)を転位で越えられ無い為です。正門からは入れないので、登って頂くしかありません。それゆえ、それが可能かつ、不測の事態に自力で撤退出来る者と、お三方に打診した結果。シュラク伯爵とキュトラに加えこの四者になりました」


「女王陛下と彼は……ああ、あの白い狼か」


 人選については聞いたクローゼは、納得を見せたが、エイブリルは若干な懸念があるといった雰囲気になる。


 それに、クローゼはそのまま問いかける。


「どうした?」


「些か状況把握に刻がかかりましたので、想定する会戦までに刻がありません。転位先から氷壁(イスベグ)までと、それを越える事に加え、極氷壁の彼地(ポレアイスベゲン)も相応に障害が……」


 珍しく、正攻法で困った顔をするエイブリルに、不謹慎だが、クローゼは好奇心を向ける。当たり前に、散々謝って出て行かれるかの心配をしたことも忘れてだったが……。


「いや、掛かりすぎでは無いぞ。ああ、それはいい。で、どうすればいい?」


「出来れば、会戦開始を遅らせる事ですが。私の届く範囲では……」


 クローゼの問いに、エイブリルは僅かに視線を、話の流れを聞いていたテレーゼに向ける。それにクローゼも気が付いたが、少し首を鳴らす仕草をした。


「あっ、そうか」


「『あっ』て、何ですか。ええ、聞いていて思いました。あの、全体の指揮をするのでしょう副官……いえ、エイブリルに、相応な護衛を誰か呼んで頂ければ、私がルーベック辺境伯の軍に行って会戦開始の邪魔をして来ます」


 クローゼの思い付きは、エイブリルの促しな視線からだが、テレーゼは途中で気が付いていた。


「いや、流石に大っぴらには……」


「いいえ、私の婚約者の実質初陣ですから、私が『ヴェッツェル』の家名にふさわしいか見に行くのはおかしくありません。……それに、逃げてばかりもいられませんから」


 振り切った雰囲気のテレーゼに、クローゼは逆に不安になる。


「いいのか?」


「良いも何も。皇帝陛下にも、伯父上にも、父上にも、ヴェッツェルの家名にも良い事なので、本当は嫌々と言える立場でも無かったです。それに、不細工でも、気持ち悪くても、変な嗜好があっても我慢するつもりですが、馬鹿で無能ならきっぱり断りますから、いい機会です!」


 流石に言い過ぎだろうと、クローゼは思った。一応にクローゼも一度は結界の件で、フォルカーには会っていた。


「なら、良いが。一応な、不細工では無いと思うぞ。逆にいい男は記憶から消す事にしてるから、そうだと思う」


「どっちでも良いです。では、早急に合流の手配を願います。それでは準備しますので、失礼します」


 颯爽とその場を後にするテレーゼに、クローゼは僅かに思う。


 ――邪魔するってどうやるのか? ……と。


 ただ、やることは決まったと。後はクローゼらしく行くだけなのだろう、である。



若干逃亡中です。投稿間隔は開くと思います。

宜しくお願い致します。

※誤字脱字等2020/07/05

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