動乱の兆し
物語の流れとは些かずれるが、当然、エイブリルからの報告で、クローゼは三人の夫人から怒られる事にはなるが、それは後々の事になる……
ただ、今の物語の頁も、当然と綴られて行く。
やり過ぎな状況から、転位型魔動堡塁に戻ったクローゼは、再会の感涙を見る事になった。
一応に、フリーデに抱きつかれ、たじたじのラシェル=ガルドの絵図らを挟んでいたが、彼女の懇願は達成された事になる。
残る問題は、フリーデ不在による極氷壁の彼地の動向だった。
当然、ヴァンダリアの名を出した、クローゼが手をこまねいている訳もなく、彼は、獄の入りから極に回るのを待ち、早々に動き出す。
フリーデの首輪を解除する魔導師達を待つのに合わせて、クローゼ自身が、ジーアの記憶を共有する力を使い、目印の設置を兼ねて彼女の転移魔動術式飛んだ。
いく先は、フリーデの見た景色で、彼女が捕らえられた街の近くの安全な丘の上になる。
ただ、そこで、クローゼらが見たもは、その街が燃え盛る光景だった。
「クローゼ君! どうなってるの?」
「ああ、ジーアさん。見たまま、襲われてる。だろう、シャケ? それと、あの白い狼に乗るの者達はあれか?」
「左様かと」
慌てる感じのジーアが見たのは、単純な話で言うと、万にのぼるスフィアが、召喚した氷牙狼に跨がりその街を襲撃していたと言う事になる。
――いきなり実力行使なのか。でも、どうして?
光景に、クローゼの握る手が顎あたりに触れていた。クローゼのな思考に、ジーアの不安げな表情が被さっていった。
「ねぇ、どうにかならないの。幻影出そうか? えっ、でも、何を出したらいいの?」
「ジーアさん、落ち着いて。残念だけどもう遅い」
慌てるジーアに、クローゼは客観的な事実を向ける。そして、そのまま次の行動にでる。
「シャケ、この辺りに来たことあるか?」
「……ここより、南に一〇〇リーグ程の街なら」
「結構あるな」
「元は、ボルードランド皇国辺りの出なので」
クローゼは振り返りもせずに、キュトラに確認を入れたが、一〇〇キロ程先だと、思った答えは出てこなかった。
――色々と仕方ないが、目の前のスフィア達はこれからどうなるんだ? それに、あのデカいのは?
そんな疑問をクローゼは持ち、難しい顔をする。彼の経験から、こう言った場合は両極端なものだと理解していたからだ。
簡単に言えば、彼の皇帝の様に意識を明確に持つ者が統率者か、囁きを向けられ煽動された者がそれなのか? の何れかであるの認識になる。
核心を言えば、その両方ではある。勿論、クローゼには分からないが。
「シャケ、目印は一つで良い。残りはお前の記憶の街あたりにする。ジーアさん出来る?」
「出来ると思うけど。このまま、ほっとくの?」
「何とかしようと思えばだけど、それだけの魔力を使ったら、きっと俺が暴走する。準備が足らないんだ。許してほしい」
軽く拳を握るクローゼの言葉で、ジーアは何かを諦めた様子なる。そして、クローゼに言われたままを、始めていた。
勿論、目印を設置するだけに、『行って帰る』程の気持ちで、ここにやって来たクローゼだった。
やる気ならやれるは、嘘でも何でもないのだが、最低限な装備の様相である。
――それで、暫く光景を押し付けられる空気が、クローゼ達に流れる――
ジーアが、光景を見詰め黙り込むクローゼに「大丈夫? 準備出来たわよ」と言ったあたりで、彼は大きなため息をついた。
「はぁっ。仕方ないが飛ぶ。シャケ、行った先からで良いから、エイブリルに連絡して、この後の対処を考える様に伝えろ。ジーアさん転移?」
ジーアの頷きで、クローゼは首を鳴らす仕草をして「じゃあ、お願いする」を出していく。
相応な魔方陣の展開となった場で、クローゼら三人はその残光を後にする。
刻を前後するが、入れ代わりで拠点にしていた転位型魔動堡塁に、王国仕様のそれが、並ぶ光景になっている。
勿論、フリーデの首輪をどうにかする為に、魔導師達がやって来たのだ。
そして、オリジナルの堡塁の中には彼らがいた。
目立つのは、可愛らしい女の子が、フリーデの前に立ち何かをしている光景。既に、首輪は外れる寸前であった。
「後は、これでよし、と」
「ああ、外れたのじゃな。汝には、なんと言って感謝すれば良いか?」
「いや、殆んど、ユーインさんがやってたよね」
フリーデから古の首輪を外し、手に持つのは、一見して可愛らしい女の子風な魔導師、アレックスになる。その彼の促しは、ユーインと言う魔導師が、大方をなしたと示していた。
促しを向けられた、頭をかくその魔導師は、イグラルード王国で魔装術師と魔装技師の統括をしている。ただ、お喋り好きな彼らしくなく、大人しい様子ではあった。
ただ、促す感じは、彼にとって渡りに舟の様で、当然と彼自身の存在感を出す。
「まあ、師兄が殆んど手順を整えてくれましたので、然して難しくは無かったかと。本当は、別の目的がありまして、それが功を奏したかと。ああ、そう、手伝いならジャンコラさんもですが。それと、なかなかに、厄介な刻みと封印があって、手順を間違えると大変な事に。そうですね、最初のと、次のが――」
「――ユーイン! 長くなるか?」
「あ、いや、大丈夫です、はい」
フリーデに、徐々に近付きながら、話すユーインに、クローゼが戦闘型魔導師と呼ぶ、ベイカーがそれを遮った。
彼らにとっては、普通な雰囲気だったが、その光景に、フリーデは目を丸くしている。しかし、たじろぐ様子はなく、彼女はユーインに近付いた。
「ああ、ルベール殿であったか、汝にも感謝する。そうじゃ、こうするのだったな」
そうフリーデは、ユーインに向かい両手を広げて見せる。当然、向けられた彼は困惑を見せていた。
僅かに、その場の空気が固まって、フリーデは首をかしげる。
「人智では、感謝を示す折り、その対価で抱き合うのではないのか?」
「……いいえ、女王陛下。どうして、そう思われたのかはわかりませんが。その様にするというのは、些か違うかと」
ベイカーの困惑からの訂正に、フリーデは眉を潜め周りを見る。
「クローゼ殿はそう言った。違うのなら、アッシュにしたように、頭を撫でるべきだったか? そう言えば、クローゼ殿にもそうしたな」
ベイカーはフリーデの言葉に、クローゼ付きの彼女達に視線を通し、その話題から目を背けたアッシュを見た。
「君達、それにお前もだが、ガーナル辺境伯のペースに巻き込まれるな。それと、女王陛下に変な事を教えては駄目だろう」
然して広く無いその場には、主要人物だけがいる。スフィアの二人以外は、それぞれの立ち位置があるが、この場では、名実共にベイカーが最上位だった。
誤解の部分をフリーデに説明し始めた、その戦闘型魔導師な彼は、楯魔王の麾下にあると言える、魔族達にも一目を置かれていた。
勿論、魔族の法的な『力関係』によってもである。
魔術を使えるアッシュらが窺い見た、獄神の具現に浴びせた一撃は、強者たるを彼らに押し付けるには十分だった。
そうベイカーを見る、フリーデに近しく呼ばれたアッシュが、頭をかく仕草をしたのに、テレーゼが笑顔で何やら言っている。
そのあたりで、エイブリルの通信用の魔動器が共鳴する事になった……。
相応の刻を重ねて、クローゼは拠点になるこの場に戻り、彼はそのまま、狭い感じな中に顔を出す。
クローゼ付きの者はそれと入れ代わりに、外にでて何かしらの協議を始めていたが、クローゼは何事も無い風で、フリーデに一礼の後、ベイカーら魔導師達にも礼を述べ、唐突な話題をベイカーに向けた。
「ベイカー殿、新婦を置いてこんなところまで申し訳ありません」
「また、その話か。仕方ないだろう、陛下にも、ヴァンリーフ卿にも頼まれたのだからな」
クローゼの振りに、ベイカーは難しい顔をしてイグラルード王国の国王アーヴェントと、クローゼの義父になるグランザに『手綱を絞めろ』と言われて来たと暗に向けていた。
それを重々分かつているクローゼは、話の方向を唐突なに引き戻して行く。
「いや、でも夫人とは幾つ違います? なんなら、犯罪ですよね」
ベイカーの夫人は、彼らが師兄と呼ぶようになった兄弟子、タイラン・ベデス伯爵の養女ドーラの事になる。その会話中、可愛いい女の子風な魔導師の彼、アレックスが口を挟む。
「あの三人をみんな一番だっていう、クローゼも大概犯罪だよね」
「それは仕方ないだろう。ああ、そう言えば、ロレッタが、シエラとずいぶん仲が良いと言ってたが、もしかして、そうなのか?」
今度はこっちか? な雰囲気を返すアレックスに、ベイカーとユーインのクローゼを見る感じが、やれやれと言った感じなる。
その雰囲気から、ため息混じりのベイカーが話を本題に戻す雰囲気をみせた。
「ところで、女王陛下をお送りする件は、我らも同行しろと陛下の命がでた。その件で早くから席を外していたのだろう。色々とある。出来れば、早急に……どうした?」
爵位的な物で言えば、伯の部類で立ち位置に差があるが、二人の関係で言えば、クローゼと対等以上で話が出来るほど、関係性が深い。
そんなベイカーは、クローゼの様子がおかしいのに気が付く。その様子に、クローゼは軽く首を鳴らす仕草をした。
「あ、極光樹の地時は大変でしたよね。先手が打てて良かったですが」
「突然、何を言い出すのだ?」
「いいえ、思い出しただけです。でも、あれを止められなかったら、どうなってたんですかね」
突然、意味不明な話題にベイカーも困惑を見せた。
確かに、アルフ=ガンドが、ウルジェラにたぶらかされて、暴走し覇を狙ったのは確かである。そして、精霊王たるハイエルフでエルフの王が、風の旅団を動かそうしていたのを知っていた。
「今さらその話か……とは言わないが、本気のあの方なら、人智も只ではすまなかっただろうが、それがなんなのだ?」
「現実にそうなったら、我が王はどうしていたでしょうか?」
「それは、やむを得ない選択を……なんだ?」
ベイカーも返事の途中で、エイブリルがクローゼに耳打ちをしたのにベイカーは怪訝をみせて言葉を止める。
その光景の先のクローゼは、僅かに仰ぎ見る仕草をし、突然、フリーデの前に片膝を付き頭を下げる。
「女王陛下。私が至らぬばかりに、争いの兆しを止める事が出来ませんでした。今後、最善尽くします故、しばし、お心を騒がす事をお許し下さい」
スフィアの襲撃は、クローゼのせいなどではない。たた、その事実を伝えようとした上で、フリーデの心情を勝手に推し量っただけだ。
当然、意味不明を向けられは、フリーデに困惑以外の様子はない。その一連で、エイブリルから委細を耳打ちされたベイカーは納得と懸念の表情をした。
本流は、クローゼの私情。繋ぎ会わせれば、片方には届く状況だった。しかし、乗り掛かった船であり、ただ、格好をつけたいだけで、魔王と対峙するのがクローゼである。
彼がいるところがそうなのか、たまたま、綴る物語が、そう舵を切ったのかは何れ分かる。
そして、極北の地は動乱の揺れるに向かう……




