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折り重なる頁は不測

 本流であるクローゼの(ページ)を飾るのは、何も人智――人の地で起こる事ばかりではない。

 魔を理解する者達の地である魔解でも、相応に彼を彩っていた。


 その彩りを放つ場は、魔解で獄炎が上がる場所になる。凡そ、洞窟と思わしきを抜け、炎々と上がる炎の光が、その主たるを照していた。


 その彼は、サイクロプスの名工――卓越した鍛冶技術を有する単眼で四本腕の大男、ブロスになる。


 そして、彼の座る背に声が掛かる。


「ブロス。頼んでおいたものは出来ていますか?」


「ああ、貴女か? それにヴァニタス。なるほど、それ故か。まあ、今暫くまて」


 ブロスを振り向かせたのは、長い黒髪が美しい、妖艶なる羨獄(イルディラ)だった。

 そして、その妖艶に付き従う如くな、朧気(おぼろげ)頭巾付き上衣(フード)虚無なる無獄(ヴァニタス)もいた。


 ただ、ブロスの声に別の場所から、言葉が上がる。


「ヴァニタスだと! 貴様、消えて無くなったでは無いか? いや、お前もか……」


「イジェスタ。何を驚いて……お前もかとは。なるほど、お前も消えたのか」


 獄属の 欲然なる烈獄(イジェスタ)は、ヴァニタスが消えたのを見ていた。それ故の驚きとイルディラを見て納得出す。

 その様子に、ヴァニタスの『お前も同じなのか』が出ていた。


 一応に、四者共が神の眷属になる。勿論、今の立ち位置は獄の側だった。その中で、違う部類のブロスがイルディラの様子を伺う。


「ところで、貴女は。いや、天命を御す原初の・(カース・レムディア)様が神意は何処に?」


 些か抽象的な言葉を、ブロスはイルディラに向ける。それに、朱色が浮き立つ唇が答えを返した。


「異なる薔薇の方。その跪く姿を御所望ゆえ」

「神滅の魔導体か? それ故、擬神威を起こす?」


擬似的等(まねごと)とは、不敬。アーロウラウム(あれ)ごときに成せるなら、私妾(われ)に出来ぬ等有り得ぬ」

 

 ブロスに答えたのはイルディラか? の会話に、ヴァニタスが口を挟む。


「至獄の意あれば、造作も無いのは明白だと。既に極北はおろか極東まで、種をばら蒔いてありますので。如何様にも」


 ――後は傲然たる豪獄(アロギャン)六本腕(アスラ)だけか? と、ヴァニタスは言葉の最後に思い、笑みらしきを殺す。


 ノルトスヴィア王国、ファルリンド王国、スーウェルデール連合王国の中枢には、獄属の甘い囁きと、多数の魔造従者(サーヴァス)をヴァニタスは放っていた。


 また、極東の大国、ボルードランド皇国までその手を広げ、神威が如くな争乱の演出に動いている。


「存外に、あの髑髏(どくろ)の男が使えなかったが、仕方ない」


 殺した笑みらしきに続き、ヴァニタスは最後に呟く。それに、イルディラの笑みが続いた。


「薔薇に行き当たっては、致し方無いでしょう。それに所詮は人。ただ、対となる戯れ言な魔王や勇者では無く、不死なる魔王も、天命を御す原初の・(カース・レムディア)様の意にはありますゆえ、その似非な者は不要」


 不死王(イモータル・キング)タトナス。復活の魔王オルゼクスに魔解で敗れ、秘匿していた龍装甲天獄(アーマードプリズン)を奪われた魔解の王。


 それが、穴を通り人智に潜み、天命を御す原初の・(カース・レムディア)様の意に触れられ、天命なる不死の魔王として、その姿を変容する最中であった。


 凡そ、彼らが話すのは、極と獄の争いの再発を予見するものになる。

 元は、天界御二の極神である天命を御す原初の・(カース・レムディア)に出来ぬのは、隔てを越える事だけだった……。





 そんな、天界の争乱や獄属らの暗躍を、テレーゼが知るよしもなかった。

 だが、彼女が自身の境遇――戦場では、彼女を守る為に命を捨てる者や、矜持を捨て不遇と甘受する者がいた事を握りしめ、彼女は「憂慮を」とフリーデに告げた。


 その事で、フリーデは自責する事になるが、現実として、テレーゼの懸念当たっている。



 極氷壁の彼地(ポレアイスベゲン)では、刻を前後して、フリーデのお忍びの口裏を合わせられていた彼女の侍女達が、その不在を抱えきれず、露見し騒然とした。


 その流れで、長老らの叱責と追及が、宮殿の広間らしきで起こり、その場の雰囲気は険悪になる。また、集まるイスフェアは、神の眷属らしからぬ様子だった。


 そこに、容姿勇麗なイスフェアの男が、遅れて現れる。白銀の支柱が複数見える、その広間らしきに映える男は、 当然と声を一閃と出した。


「――彼女達に非などない。その責はいずれ、我が姉上ご自身が明らかにするだろう。だが、この地に守護者不在など、由々しき事。それ故、早急に手を打たねばならぬ」


 騒然が一言で収まる。その者の名は、エイナル=オーズ・アルヴルフォルクである。

 静まった場に、彼は続けて声を発した。


「異論はないな。ならば、激氷河の精霊(フェンリオル)の名において命じる。直ちに、捜索隊を組織し、女王陛下を探せ」


 自らが契りし、第九階層の精霊の名を出し、有無を云わさぬ雰囲気で、そのまま長老らに激しい表情を見せる。


「私が最果ての氷河に行っている間に、なんという失態だ? 長老らの責は然るべきに問うが、不測の事態故、戦士の召集をせよ」


「しかし、それは……」

「いや、その様な!」

「女王陛下の……」


 長老達のざわめきを、エイナルは一瞥し、まとめて投げ捨てる。


「精霊の女王が戻らぬのだ。相応の事が起きた筈。それに、さらわれる同胞が、自己の責任と甘受するには、人智は愚か過ぎる。清らかな雪解けの水を当たり前だと思うのが、愚かだと分からせる!」


 エイナルの言葉通りに、氷壁を越えたイスフィアが、さらわれる事例はあった。そして、極北の地(ノーデン・サイド)に恩恵と調和の水を与える彼らを蔑ろにする風潮が、確かに人智にはあった。


「ひ、飛躍し過ぎだと。もっと冷静――」

「我らの綴りは永劫を受け入れた。繰り返し戦乱を起こし、その度に我らの恩恵と調和で繋いだものを、人智の人は自らの力と勘違いし、あまつさえ、女王陛下にまで、手を出すとは笑止!」


 長老の「冷静に」を、エイナルは更に越えて行く。動の激しさが、言に力をあたえていた。


「皆はどうだ!  精霊の女王を足蹴にし、我らを愚弄する。そんな、馬鹿げた者らに、無償で恩恵を与える必要は無い。陛下をお助けする。力を貸せ!」


 激しい屁理屈で、エイナルはその場を押し通した。最後は、激氷河の精霊(フェンリオル)の名を挙げて、半ばの歓声を引き出し、それを波及させた。


 ただ、彼は知っていた。フリーデが奴隷として売られる事を。厚手の衣装に秘した、胸板に埋まる紫色の竜水晶によって……。


 ――あの女言った通りだ。ならば、我らが不遇を甘受する必要はない。


 そう、無理矢理起こした歓喜の中で、彼は南を見つめる。





 おおよその流れは、繋ぎ合わせれは一点に続いて行く。その事態をヴァニタスは、自身と魔造従者(サーヴァス)を使い極北の地(ノーデン・サイド)に浸透させていたのだった。


 当然、クローゼはそんな事は、知るわけも無く。テレーゼの的確で、些かの雰囲気のフリーデに、指にはめた支配の輝きを見せて、訳も分からない事を告げて行く。


「テレーゼの言う通りだな。居れもセレスタには、自覚を持てとずっと言われていたよ。まあ、乗り掛かった船だ。何が起こっても何とかする。で、さっき言ったやつ、やってみて」


(おまえ)は、やはり下衆な男……くっ、うう、己れ……」


「クローゼ様、それは――」

「クローゼ君、それ返しな――」


 エイブリルとジーアの遮りの最中に、フリーデは両手で猫の真似をする。そして、抵抗が切れた様に声をつけて手を動かした。


「――ニャン、ニ……ャン。ぁ、はっ、くう、(わらわ)をここまで辱しめて――」

「やばい、可愛い。あっ、でも凄いなこの指輪。やばいだろ。何とかなるのか?」


 単なる好奇心で、フリーデそうさせたのでは無く、その恐ろしさを体感したかったのが、クローゼの本音だった。


 たた、「貴様――」から始まる罵倒で、クローゼが、得意な全力片膝跪きを見せるまで、然してかからなかった。そして、求める意味が違う頭を撫でられるに至まで、周りの女性からも、相応な非難を受け入れていた。


 そして、クローゼは、真っ直ぐにフリーデを見つめ、謝罪をする。


「悪かった……です。もう、しません。許してフリーデ」


「気安く呼ぶな! (そなた)はなんだ? あっ、なんだその真似は……やめよ、もう、ああ、分かった赦す」


 謝罪のあと、クローゼはフリーデにやらせた通りに口パクで猫真似をした。それも、彼女に迫る息づかいで。それで、フリーデは折れて見せた。


 だが、フリーデの重苦しい雰囲気はなくなって、改めて、クローゼが「任せてください」と言ったのに、僅かな笑顔を見せる。


 そんな茶番を挟み、クローゼはエイブリルから、『何とかなるのか?』について説明を受ける。エイブリルは、ジーアの見解と転写で情報を送り、早急な次第を付け加え、結論を受けていた。


 そして、その最後に首飾りの騎士の名をだした。


「ローランド殿の首輪の件で、恐らく対処は可能だと。北壁の情報が無いゆえ、同時に対処を願ったところ。魔導師をフリーダム経由で派遣して頂けるそうです」


「おお。で、誰がくるんだ?」


「ルベール卿とアレックス殿です。あ、後は護衛にシュラク卿が一隊連れてお越しになります」


 若干、クローゼは難しい顔をする。


「アレックスとユーイン殿にベイカー殿か。ああ、陛下が選んだなそれ」


「クローゼ様、あまりその様な物言いは、お止めになったほうが宜しいかと。確かに、その様に聞いておりますが」


 そう言われたクローゼは、突然、両手で頬を張った。


 ――バチン! ――


「ふうっ、ローランド殿のおかげか。それに、暴れるつもりはないよ」


 結果的に、従属の首輪(サブジュゲーション)に至った過程で、古の魔導具が。それも、精霊の女王たるフリーデを拘束する程の物を、早急の体裁で何とか出来る所にある事を、クローゼは色々な事を含め思い反した。


 ただ、ある種の思いが、別の流れに続くのを、この刻、彼はまだ分かっていなかった。



いきなりの修正失礼致しました。

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