鉄の腕は得意満面
アッシュとキュトラを送り出したクローゼは、本来の目的の場所に、エイブリルと二人で来ていた。
当然に、自分達がそうする様に、フリーデが街中で狙われる事も考慮して、ジーアへ支配の指輪と共に託し、転位型魔動堡塁に残している。
そして、ある意味目立ったテレーゼを護衛を兼ねて彼女達の側におき、ジーアの得意分野である、幻覚術式――幻術魔法で厳重に偽装までさせた。
ただ、同行しているのが、クローゼ直属の特殊異装甲部隊――特殊部隊さながらの装備と様相な――の小隊、黒い盾である。
また、移動する砦な様相の転位型魔動堡塁の武装に、多身式回転連続竜擊筒――箱型弾倉式のガトリング砲――等があるのを考えれば、然して問題無いように思える。
その雰囲気のまま、クローゼは、ブルロアの夫である鉄の腕商会の主、カバルと対面していた。カバルは、見たままに鋭い目が印象的で、ブルロアと対照的な細身の男。何処と無く落ち着いた感じを出している。
その印象もだが、クローゼ自身も、警戒心を抱える事になった別件で些かな雰囲気があり、挨拶を終えた後、長椅子に座る二人の間には、僅かに固く重たい空気が漂っていた。
それを、二人が対面するローテーブルの斜め後ろに立つ、ブルロアが当然と越えて、笑い声を見せる。
「はっ、はははっ、はぁ。なんだい二人とも、男同士のお見合いかい?」
それで、ブルロアに二人の視線がいったが、クローゼは、彼女を『あの感じだな』の風に、カバルは、若干怒った雰囲気をだした。
「はっ! お前。もう少し、らしい雰囲気を出させろ。折角、それなりな大物感出したんだぞ。台無しだ!」
「ははっ、らしくないね。小物のくせに、見え張るんじゃないよ。そう、それとあんたも、難しい顔しなさんな」
「あんたも」と言われたクローゼは、声を出したカバルのそれらしい雰囲気が、何と無く『その辺のおやじ』に変わるのを感じる。
――はっ? なんだよ。
と、クローゼは、カバルとブルロアを交互に見た。それで、難しいと言われた顔が困惑に変わる。かろうじて、仮面で紛れてはいたが、それすら、ブルロアは踏み越えていった。
「想像以上の更に上を行くような男に、いくらあんたが良い男だからって、張り合うじゃないよ」
「はぁあ? お前の前で格好付け無きゃ、どこでつけるんだ? まあ、良い男の雰囲気は分かったか」
「ああ。だから、雰囲気じゃなく『無駄足はさせない』って言ったあたしの顔を立てな。兎に角、あの子には、聞きたい事が山ほどあるんだ。さっさとしな」
「あの子」とまで言われたクローゼは、明らかに困惑する。全く状況が読めない雰囲気だった。
「と言うか、何だよ」
「あ、悪いな。こっちの話だ。いや、あいつが、あんまり、あんたを『凄かった』って言うからな。取られたら不味いと思って、ちょっと張り合って見ただけだ。気にしないでくれ」
困惑を向けたクローゼは、更に困惑の要因を向けられる。カバルの雰囲気が、クローゼには分からなくなる。ただ、意味不明には否定をだした。
「い、いや、取らない……し」
「それこそ、『違う』だろう。あいつが惚れたら困る。まあ、あれだ、今日のあれは確かに凄かったからな。最後に暴れてくれたら、それで底が見えたんだが」
カバルが、若干前のめりになり、クローゼの否定を否定した。その顔から囁く様に「ブルロアほどいい女が迫ったら……」がもれている。
「いや、違わないし。と言うか、何の話だ」
「ブルロアの話だ」
クローゼの問いかけに、話の先をカバルが変えた。些か、拘り過ぎではあるが、カバル自体はブルロアが『取られるかも』の話の延長だった。
そこに、ブルロアの一言が入る。
「あんた! いい加減にしな。人を探す話しだよ。全く、後できちんと相手してやるから、話をしな。見つけたんだろ、手掛かり」
「はっ、俺を誰だと――」
「いいから、もったいぶらずに、言いな! これ以上ふざけたまねするなら、乗り換えるよ」
ブルロアの一言で、カバルは「はぁぐっ」となって咳払いをしていた。ただ、クローゼはその訳の分からない様子から、『手掛かり』の単語を拾う。
――はっ? 確かに、始めの話しより会うまで日にちは掛かったけど、早すぎるだろ。
そう、クローゼは全体の流れをバッサリ切って、その言葉に乗る。
「手掛かりって、早すぎるだろ」
「あ、いや、あぁ悪い。ここからは、真面目に仕事の話しだ。兎に角、うちのやつが言った通り見つけた。結論から言うと、南に向かってる筈だ……」
――いや、早すぎるだろ。流石に。
そんな、クローゼをおいて、カバルはクローゼの目の前に、手紙を差し出した。クローゼから見ても手紙である。
「まあ、本命の名前を聞いて、見つかる訳が無いと思ったよ……」
そう始まったカバルの話は、単純だった。当然、探す相手は、ノルトスヴィア王国の現王の側近であった。いなくなった後、使用人らも含め関係するとこには、尋問から拷問の類いまで、それも多方面からあって然るべきな事。
そして、問い掛けは単純に、『ウェルター・ワイトベアは何処にいった?』になる。当然、答えは『分からない』で皆が揃う。
ワイトベアであるジェネシスも、そんな痕跡等残す筈も無く、現状に至っている訳だが、クローゼ、いや、正確にはレニエもそのあたりまで手繰った上で、ウルジェラの捕捉を踏まえて至らずである。
「まあ、一応は俺も『商会』の看板出している訳だから、その手の流れには詳しいんだ」
そうカバルが手紙を指し、行商人の話を始めた。要するに、貴族諸侯の封印――魔法的な封蝋した手紙は違うが、一般的な人々の手紙のやり取りは、普通は小行商人が行う。
――逆に言えば、手紙を運ぶ往来の許可証等を得た者が、行商をしていたと言っていい――
当然、許可以外の物を街に持ち込もうとすれば、格好の課税の対象になる。特に封建的な色合いが強い極北の地では、領主や街によっては法外な所もあった。
それを上手くしてやっているのが、鉄の腕商会の大きな生業の一つになる。
明らかに非合法だが、「無駄なもん払う必要ないよ」なブルロアの勢いではある。
その上で現状まで、極北のノルトスヴィア王国、ファルリンド王国、スーウェルデール連合王国の国境が入り組んだ地域に近いこの街で、キュトラの後押しを受けて、合法非合法に関わらず、鉄の腕商会は力を伸ばしていた。
「まあ、狙う所は知人や使用人では無く、その先だ。それも所在不明な者のな」
話の途中で、カバルは自慢気にだが、今までの感じとは違う雰囲気でクローゼにそう言った。
続く、カバルの話では、貴族レベルの使用人であれは、隸属的も含め、ある意味合法――隸属民の売〇や農奴的な困窮の末また、口べらし等含む――なら、唯一の拠り所な家族との繋がりを規制する領主は少なく、執事らの代筆や一括手筈など、配慮の黙認――正確には無関心――は、当然にあったという。
その上で、あからさまに誰かの癇癪で殺された者も含めて、往来を調べさせたと。
「それで、おかしな奴を見つけたんだよ」
更に、真剣な顔をするカバルに、クローゼは少し身体を前に出してその続きを聞いた。
自慢気では無い、当たり前なガバルの雰囲気から出たのは、飼い葉係の男の話だった。
「名目はな」と続くカバルの説明では、その男の独り暮らしの母親の処に、ここ一年で数回手紙が届いたそうだ。
たまたま、彼の手の届く範囲だったのは幸運だったが、いつも行商人に「息子に手紙を届けてやるから、証明に」と一通借りたのが目の前の物 。
その内容は、凡そ母親気遣う言葉に、場所は言えないが、元気だから心配しないで等の内容が書かれいた。そして、最後に暫く帰れないと、南へ行くと暗に示唆した文章が書かれている。
ただ、クローゼはそこに、ウズウズを突っ込む。
「と言うか、情報早すぎるだろ。それに全部憶測だろそれ」
一応に、クローゼは、手紙以外の連絡手段があるのかの意味の風になる。それにカバルは首を傾げる。
「早い?」
「そう、俺がブルロアさんに話してから、そんなにたってないが?」
雰囲気は、前のめりな風のクローゼに、座り直すカバル。それで、自信満々な顔をする。
「うちのやつからの連絡なら『愛』だ」
「馬鹿かい! 全く。あたしらは動物使いさ。連絡なら翼の付いた奴を使うのさ」
カバルの斜めな言葉を、完全にスルーしたブルロアの説明に、カバルが座ったまま振り向き訂正を入れる。
「俺は、魔術師だ。間違えるなよ」
「はい、はい。魔術師擬きな動物使いだったね」
ただ、それすらブルロアには、いつもの事とあしらわれる。その中々の光景にとブルロアの言葉に、クローゼは一応の納得を見せて、結論を促す雰囲気をだした。
「まあ、それなら裏は取れてるとして、飼い葉係の話がどう、繋がるんだよ」
「まあ、待て。手紙は全部で四通あってな。行商の奴を逆に辿ると、始めはそいつの屋敷がある街、二と三は最後まで、手が届かなかったが、そこより、北からだ」
言葉を区切る様、カバルは座り直してクローゼを見る。それに、クローゼは首を鳴らす仕草をした。
――てか、まどろっこしいな。いい加減!
とクローゼが、しびれを切らす前にカバルがどや顔で、声を出した。
「最後のは、なんとこの街の行商人だ! それに、手紙の出た時期と場所は、探してる奴らが右往左往してた逆をはっ……何だその顔?」
カバルは、どや顔の最初にブルロアを見て、取って置きの情報を彼女に告げる前にこの場で出した。
一瞬、難しい顔したブルロアが、子供を見るような優しい顔になったのを確認して、クローゼに憶測か? を返して、クローゼの半笑いに行き着いた。
「飼い葉係の顔が知りたい。その行商人にあわせてくれ」
その笑い顔から、カバルの予想を越える言葉がでてきた。――飼い葉係の顔? 行商人に聞いても見えないが……と、カバルは単純な顔をしたまま、クローゼを見る。
カバルは、ブルロアに凄い男が来た事と経緯を知らされて、抗うでは無く、取り込んで利用した方が良いと即座に判断した。そして、全力でブルロアの顔を立てる為、動いた。
結果、正解であるかカバルには分からないが、的外れではないと思える所に行き着き、出した情報に、その男は意味不明を言っている。そして、カバルは出せる問い掛けをした。
「似顔絵でも書くのか?」
「いや、たまたま、確実に記憶をさぐれる人がいるんだ。だから、そのまま飼い葉係の背格好まで分かる。兎に角、その行商人を呼んでくれ」
そう、切り返したクローゼは、カバルの困惑をよんでいた。ただ、クローゼの言葉は正しい。彼の元に来た、お抱え魔導師はそれが出来る。
――クローゼの転生者たる知識を具現化する、その根幹に、王国史上最高の魔術師といわれるマリオン・アーウィン大魔導師がいる。
その弟子で、歴代最年少魔導師の記録をもつ、『魔術の天才少女』と当時そんな呼び名を持っていた彼女――
現在は、可愛い普通な、自身をおばさんと普通に言ってしまえる、ジーア・シップマンはである。




