非日常の余興・弐
2020/06/02 修正
遅れてきた男の登場で、クローゼは、見て思ったままに流動可視化魔動器に魔力を通し、無詠唱で起動した。
それで、異能の戦士では? の男の魔体流動を数値として可視化する。
一応に半裸の様相で、強靭な肉体を晒す男には、魔力防護の刻みがある魔装具の類いは、見当たら無かった。
また、例え有ったとしても、クローゼの魔力魔量なら、一瞬で飽和するのは明白で、無属性な彼の魔力に反応出来る魔装具は、少ない。
その上で、クローゼは仮面の目の部分の先で、自身に向け、小さく展開する魔方陣に映された【魔力三八五/魔量一九二四】の数値を僅かに思う。
――意外とあるな。まあ、魔力が二割位なら、人智の人か。雰囲気で期待したが、普通にこの世界の住人だな。
そう、グンナルの雰囲気に『召喚者か転生者』かの期待を持ったのは別にしても、反応は些かでになる。
一般的な成人男性が【魔力一/魔量一〇】程度で、その魔力魔量が、その十倍程で『騎士』と呼ばれる水準に達する事を考えば、おかしな反応と言えた……。
その状況で、存在感を出すグンナルを見る、クローゼの所に戻ったテレーゼと隣のアッシュが、結果の催促する様子を見せる。
二人とも、ようやく連れ出された先ほどの剣士と、グンナルが、明らかに違うのを感じていたからだった。
二人がその様子に至った、一連の動き自体は短い間だった。そこから更に間をおいて、クローゼは僅かに首を鳴らす仕草をする。そして、二人の催促に答えた。
「ああ、聞きたいのか。まあ、意外とあった。正確に言うと【魔力三八五/魔量一九二四】だ」
「私より上か……。ああ、雰囲気はあるけど」
「へぇー、人の癖に魔量は俺と大差無いのか」
登場から、若干の雰囲気は流れたが、グンナルがこの場を理解する前に起こった三人の会話は、周囲には聞かれ難くはあった。無警戒では無いが、仮に聞かれても、何の事だか分からないだろう。
その状況でクローゼは、二人の言葉に「数字じゃないからな」を出して、マッツ・ライネンに向いた。
「で、そいつが極北熊の傭兵団の最強か?」
「看板通りはこの男だ。それで……」
クローゼはライネンの言葉に、「う~ん、そうだな」と考える仕草を見せた。
――これくらいなら、俺も結構出せそうたし、知らない相手は面白そうだから、やってみたいのはあるな。それに、この前、レイナードに試合うで負けてあれだし。
と、困った風は一応に装っている形に見える。
ライネンは、そのクローゼの様子に平静を見せながら、その内は難しい雰囲気だった。
ある意味、少女の様なテレーゼに、最強の看板を出して瞬殺され、傭兵団の看板には傷が付いた。
勿論、黙認はしたが、ライネン自身がそれを指示した訳では無い。ただ、それではそれである。
もっと言えば、情勢は安定しているとは言い難い極北の地で、傭兵の需要は高い。その上で、競売絡みで方々から来た貴族らがいる中、遠方であるとはいえ、このまま流れるだろう『噂を』放置出来なかった。
それに、ライネンが現状までを黙認していたのは、グンナルが最強であると、彼にも確信があったからだ。そして、ライネンは、思案な風のクローゼが確認した「最強か?」あたりをついて、それを向けた。
「勿論、極北の地でも一番だと思っている。当然、怪我をさせる様な真似はさせないつもり――」
「――だったら。何でもありの真剣でなら、俺が受けてやる。こっちが勝ったら、十倍位は貰おうか。ああ、当然、怪我なんてさせるつもりは無いぞ」
ライネンの言葉にクローゼは、即応で半笑いを返す。それと共に、クローゼが投げ返した言葉で、ライネンはたじろぐ様子になる。
ただ、クローゼはライネンを気にすることも無く、一番の言葉に揺れる。
――極北の地で一番か。そそるね、なんてな。テレーゼには悪いけど、憂さ晴らしには丁度良い。
と、些か思考で、テレーゼに「譲ってくれ」と、同じ表情に、嬉々とした雰囲気を、付け加え見せていた。それで、テレーゼの了承とエイブリルの頷きを挟み、クローゼが双剣を腰に戻し、いつも雰囲気になる。
そのあたりで、思案するライネンでは無く、グンナルが声を出した。
「団長が良いなら、俺はかまわない」
珍しく、ライネンの歯切れの悪い様子が、グンナルには不思議に思えていた。
貧乏小領主のライネンは、傭兵稼業に活路を見い出し、相応の統率力と手腕により、極北の地でそれなりの成功をおさめている。それがグンナルには、ライネンの凄さと勢いだと思っていた。
ただ、グンナルの目に、今のライネンは裏腹な感じに入っている。そんな、ライネンはグンナルの声に答えた。
「ああ、頼む。こんな所でつまずいていられない」
そう、躓きは何れかだが、これまでの成功は、絶対的な強さを見せるグンナルがいた。
ライネンには、これからもだったのだが……。
見物人が、通りの端いっぱいまで下がり輪を作っていた。当然、往来は止められている。
余興とは言っても、真剣で試合うなど、この様な場で暇潰しをする、物見遊山な貴族諸侯には、そうそう見られる物でもない。
そして、彼らはグンナルの強さを知っていた。
これまで散々に、連れ来た身近では強い筈の者達を、沈黙させるほどの圧倒的な光景。見るからに出していない力。そして、改めて実感したその名。
それが、真剣で本気なら確実に血が流れる。残念なのは、然して体格も良くない男に、相手が変わった事だろう。
「さあ、ごたくは良い。掛かってこい」
「あ~じゅ……いや、そいつ何も言って無いと思いますよ、クロセ様」
「まあ、言ってみたかっただけだ」
そうクローゼは、出した言葉を遠巻きから否定するアッシュに、彼は軽く手をあげる。
そして、そんな周囲の 『お前じゃなく、先ほど女騎士をだせ』な視線を幾つか受け、対峙する平静なグンナルの雰囲気を見ていた。
――筋肉量が違うが、背は俺くらいか。と言うか太ももの筋肉、ヤバいな。でも、その格好は、一発屋の芸人みたいだぞ。
クロセのクローゼから見ると、短パンで、この世界ても一般的な『ゴム質な獣皮の靴ぞこ』を使った、所謂グラディエーターサンダルに、羽織風な熊の毛皮で、両手に両刃の握戦斧を持った姿になる。
――先ずは、素で行ってみるか。
グンナルの様相の認識をおいて、クローゼは双剣を抜き放つ。
剣身に複雑な術式が刻まれた、全長六〇セーグ――六〇センチ程――の異質な短い剣を二振り構える姿は、それまでの雰囲気から変わり、剣士然とした相応の様子を見せる。
それで、グンナルもその域の心持を持った様に見えた。
「良いぞ。こい!」
冗談めいた雰囲気出なく、低く良く通る声に観客も固唾をのんで見守る感じに変わる。その場景で、クローゼが僅かに、足で砂を咬んだ。――その瞬間、グンナルは微かに呟き、太もも筋肉の躍動で相対の距離を跳びだした。
一瞬で詰まる距離と同等長さの得物が、交錯の金属音を場に示した。一撃目の――カン高い音に続き、「グワァン――」の湾曲の風切り音と交錯する衝撃の奏でが起こる。
足を止めて打ち合う剣と斧四つが、見る者に呆然を促して行く。そこに迫撃の双剣が声を放つ。
「まだ、こんな物では無いだろう」
「くっ!」
向けられた言葉に、グンナルは回転を上げる。ただ、クローゼもそれにあわせて『勇傑なりの目』を使い捌きを魅せた。
――なかなか! まだ、ありそうだな。
グンナルの上がる覇気に、クローゼの止めていた足が動く。勇気なりの刹那的な視線で動きを、培った経験でグンナルの魔体流動の流れを読み、自身の行く気をチラつかせ、クローゼは場を制御した。
いつもの鍛練の様子と、テレーゼに思わせるそれは、クローゼの本来の姿であり、依然として抑止された素に近い状態だった。
その状況に、グンナルは表情を一段上げる。斬撃主体から、蹴撃に肘と変則的な動きを魅せた。
ただ、グンナルの倒す気も、クローゼは既に経験済みと言わんばかりに、自身を一段解放する。
――ふっ、それで良い。まだ、行けるだろう。
総魔量は、既に眷属神の具現化した五体を凌ぐ、四〇万が見えるクローゼは、自身を併せ、七つの纏う流動の静寂を絡ませるまでをみせる。それで、場景を織り成す空間が広がった。
――合わさり奏で跳び開き、行く気と誘いで再びの奏で、相対が相応に現実を理解する――
それが見物客に、双剣の連れの者があり得ない程下がったのに合わせたのが、正解だったのが理解させていた。
僅かが正しい刻の間に、十数合の打ち合いあたりで、クローゼは『ここまでか』を思った。――そして、グンナルが追従出来ぬと思う域まで、魔力魔量の抑止をほどく。
その瞬間で、グンナルの表情は固まった。さながら――まだ、先が!……の勢いだった。
しかし、グンナルは止まらなかった。迫撃の双剣が攻撃の剣勢に変わる中、跳び、反り、捻り、それをかわす。そして、クローゼの口角を僅かに上げさせた。
上がる口角で、奮う双剣の連鎖が到達点に届き、空白と息吸うがグンナルに刻を与えた。
その刹那――グンナルは、眼を見開きクローゼを見る。そして、違和感な対魔力防壁の発揮をクローゼは感じた。
――ふっ、特異・か、面白い!
恐らく、何らかの能力。ただ、魔改造を繰り返した六楯の魔動術式は、それすら弾き無力化した。
そして、それは、グンナルに驚きをもたらす。
起こるべき結果をクローゼは踏みつけて、一息の後、グンナルの気勢をそぎおとし、衝撃の剣身で弾き飛ばした。
グンナルが飛ばされる先で、砕ける馬車が砂ぼこりを誘発する。あらかたはの予感は『死か?』だったが、グンナルは何事も無く立ち上がった。
観客から驚きが上がり、更にその先がの期待な雰囲気に、グンナルは飛ばされても離さなかった、両刃の握戦斧を捨て、両手を上げる。
そして、グンナルは、自身が何かに包まれた不思議感覚に困惑していた。




