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終わりと始まり

「魔王オルゼクス! ニナ=マーリット・フィーナ・イースティア王女の名において、王国に破壊と恐怖を振り撒いた貴様を倒す。覚悟しろ」


「……相変わらずの男だな。構わぬ……殺れ」

「ああ、言われるまでもない」

 

 男が『倒す』を向けた魔王は、既に満身創痍(まんしんそうい)だった。

 周りを人智(じんち)の側に囲まれ、自身に双剣で向かい来る男に『殺るのならお前が』と要求する。無論(むろん)、男の返しに「殺れるものならな」と魔王の覇気は続く。


 しかし、男は押される事無く、自身が(まと)う魔力の流れ――魔体流動(またいりゅうどう)を術式に合わせ、無詠唱で起動呪文に繋ぐ。



―― ≪操作可能型(アクティブ)自動防護式プロテクション≫ ――



 特種な魔体流動展開術式――所謂(いわゆる)魔術。その発動で、男は自らを絶対防護の領域に引き上げる。当然、明確に魔王を越える為。


 男は「行くぞ!」と敢えてを見せ、自身が展開した盾魔方陣を砕き、衝撃盾の弾性(シールドインパクト)の瞬発で、魔王との距離を消し去る。――瞬発で飛び込んだ間合いで、神の眷属が作りし『極剣の二振り』を(ふる)い、魔王が持つ、獄神の龍装神具が残余(ざんよ)と強振を起こした。


 激突で、かん高い衝撃音が響き、歓喜が続く。


「それでこそ貴様(きさま)だ!」

「脱け殻でも魔王は魔王か――オルゼクス!」


 叫び返す男は、黒い軍装が煌めかせ、重なる剣を引き(さば)き、更なる弾奏(だんそう)の音色と火花を散す。


「獄神は不覚だったが――(たぎ)るのだ!」


 魔王は、引き振り抜いた男を追い「貴様となら」と続け、末期(まつご)と思えぬ魔力を発動する。――放たれた閃光が男を捉え、当然と盾魔方陣の輝きが連続する。


「俺もだ! お前は特別だオルゼクス――」

「我もだヴァンダリア。 いや、クローゼ!」


 それに続く、苛烈な剣と魔力の応酬は、周囲で見守る強者らに、壮絶さよりも美しさを()せていく。


 ただ、満身創痍と明確から始まった共演は、双剣が剣勢を(ふる)い、魔王の肢体(したい)と刃を削り終焉(しゅうえん)に向かう。――剣撃の連続に(ひるがえ)す黒い裾を煌めかせ、覚悟の応酬に魔方陣の輝きの末、男は魔王を打ち倒した。


 終焉の場面で、崩れ行く魔王を見据える男に、見開いた瞳が合わさっていく。


「……獄神の言、成る程。我が魔力を、持つ、か」


「ああ、そうだオルゼクス。もし俺が勝ったら『待っている』と伝えてくれと」

「……そうか……」


 死に際に、僅かな会話を交わし、魔王オルゼクスは、魔解(まかい)の者が死して至る『天獄の地』に(いざな)われる。

 当たり前に、その場には勇者もいた。しかし、魔王を倒した男は勇者では無く、どちらかと言えば魔王だった……。





 ……獄神を退けるを見た神々の一つ(わたし)が、至極神に当てられた『刻』の(ページ)。そして、彼の(ページ)は綴られていく……





 魔王(ぜん)な黒い軍装の彼は、クローゼ・ベルグ・ヴァンガーナル。ヴァンダリアを冠し、ヴルムとヨルグの称号を持つ。


 その彼は、天極と天獄の間の世界(ドラゴニアード)の凡そ真ん中辺り、ヴァンダリアと呼ばれる地に生まれ、その地を治める侯爵家が仰ぐ国で、領地を持つ辺境伯である。


 ただ、もう一つの名は、黒瀬武尊(クロセタケル)


 彼は、日本という国で生まれ育ち、この世界に召喚された母親を持つ。そして、彼の母親がこの世界で産んだ息子、クローゼに死に変わった――特殊で異質な転生者だった。


 そんな『特異なる者』のクローゼが、今在るのは、この異世界で極北の地(ノーデン・サイド)と呼ばれる場所。その列国の一つ、ノルトスヴィア王国。


 そこは、彼が属する六国同盟の一国で、クローゼの出生地であるイグラルード王国の北側、越えられない山脈『竜の背』の頂きを挟んだ地になる。



 そして、獄天の刻――深夜零時――間近。


 ノルトスヴィア王国南部にある伯爵領で、路地を照らす魔動器の街灯を避け、彼は伯爵の屋敷を(うかが)っていた。


「ここか?」


 クローゼの振り返りに、朧気(おぼろげ)な黒装束が膝を着いたまま頷く。その後ろには、紫色の瞳が幾つも輝きを見せていた。


 振り返る(そば)には、青みがかった金髪(アッシュブロンド)で、少女の雰囲気を残す胴衣装甲鎧クロージュコースリットの様相と、同じ年頃とは思えない、栗毛色の短髪で、秀麗な美少年とも取れる女性が並ぶ。


 そんな彼女達は、意味ありげに顔を見合わせる。


「言うだけ無駄だと、思うけれど」

「言わないでおく訳にはいきませんから」


 僅かに揺れる青みがかった金髪(アッシュブロンド)の彼女に、『責務だから』と返す、知的で秀麗な無表情がクローゼに見えた。


「テレーゼ、無駄ってそれはないだろ。それに、エイブリルもそんな顔するなよ」

「閣下。『そんな』と云われましても、元々こういう顔なので。それよりも――」


「分かってる。裏を取るのに大分掛かったったんだろ。滅茶苦茶な事はしないよ」

「この間もそう言っていたと、思いますけど」


 何と無くな彼に、青みがかった金髪(アッシュブロンド)に掛かる髪用の装身具(カチューシャ)に触れ、可変装甲半兜(クロージュヘルム)の様相を見せた彼女が追撃をする。


「今回は違う。ああ、分かってる起因の吸血鬼オリジナル・ヴァンパイアだ。妖艶なる羨獄(イルディラ)に繋がる、大事な情報だろ」


「屋敷の中はそれらですが、屋敷の周りは人です。衛兵などが集まっては問題がありますので、予定通り、秘匿で速やかに願います」


「そうですよ。この間みたいに、違ったからと言って、アジトごと吹き飛ばすとか無しですから」


「やる気満々な雰囲気で言われてもな。それに、奴らがふざけた事言ったからだしな」


 秘匿とは遠い雰囲気の会話の先は、ある目的の為、彼らが伯爵の屋敷を襲撃すると言う事だった。


「今回は男爵夫人にも、きつく云われておりますので……心して下さい」


 念押しを小さな声に変えながら、エイブリルは周りを静寂に誘った。


「あぁ、分かってる」

楯魔王(じゅんまおう)、行くなら行きましょう」


 一応な承諾のクローゼに、ゆったりとした服装の男が歩みで出る。


「そうだな。全員、≪対象防護(ターゲット)≫でロックする。見た感じヤバそうな魔力魔量の奴はいないが、抜かるなよ」


 クローゼは、自身が着ける可変装甲仮面(クロージュマスク)の目尻あたりに一体化した、流動可視化魔動器(ビジュアライザー)の成果を出した。


 そのクローゼに、小声で「楯魔王(じゅんまおう)」と呼び掛けた男は、擬態を解き獣人化して人狼の様相になる。それで、ゆったりとしていた服装が、はち切れんばかりになっていた。

 また、それに追従する様に、紫な瞳の一団が魔力の動きを上げる。彼らは「全員を」の対象の内で、吸血鬼(ヴァンパイア)である。



 息を整える間をあけ、クローゼが『行け!』と手振りで号令する。それに幻影の速度で、城壁かと思われる塀を吸血鬼(ヴァンパイア)達、二〇程が乗り越えて行く。


 静寂に断続的な音が起こり、門の前にある衛兵が狼狽え始めた。その様子に、クローゼは術式を起動する。


―― ≪硬化機動楯(マヌーバ)≫ ――


 ≪操作可能型(アクティブ)自動防護式プロテクション≫を待機状態(アイドリング)にしていた彼は、それを無詠唱で発動し、空気を魔力で固めた盾を作る。


 その無色透明な盾を遠隔で操作して、そのまま衛兵に叩きつけた。それ――機動盾の打撃(シールドバッシュ)――を受けた衛兵は昏倒する。


 状況は不可思議だが、残る者達は当然と受け入れていた。そして、僅かな空白で門が内側から開く。


「テレーゼ、アッシュ、行くぞ」


 クローゼは、そう小声と仕草を向けて、唐突に瞬発で塀を飛び越えた。その行動に『またか?』な雰囲気の二人が続く。


「やっぱり、飛び越えるのか」

「予想通りだけど」


 行くぞと言われた二人は、当然と塀に飛び乗りクローゼに追従する。――人狼の男は力業で、彼女は紋様が具現する、魔力の翼を足掛かりにしていた。



 二人を送るその場には、多数が減り、場違いな紫黒色の夜会服(イブニングドレス)を着た女性が現れていた。

 そして、その女性が「エイブリル様、我らも参りましょう」と促し、それに頷くエイブリルの仕草が見える。


 それを切っ掛けに、残された者達が開け放たれた門に向かう場景が、続いていった。




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