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第九話 ジャックされたダブルベッド

 激変の昨年が過ぎ、新しい年を迎えた。


 ダイニングテーブルには、昨日届いたネット注文の三段御節(おせち)がテーブルの主役とばかりに座っている。


 台所では、二人でキャッキャッと騒ぎながら、タブレットと睨めっこしながら雑煮を作っている。

 朝食にしてはかなり遅いタイミングだ。

 良い年になるであろう元旦の姦しい風景だ。

 今年の元旦は三人ともお寝坊さんの幕開けとなった、去年までとは一寸違う。

 

 俺は、そんな二人を微笑ましく横目で見ながら、昨年喪中の挨拶を送らなかった法人等から届いた年賀状を見ていた。

 その中の一枚に書いてあった添え書きが気になった。

 齋藤税理事務所からの年賀状であった。

 印刷されたありきたりの年始文の隅に『今度ゆっくり、是非お話ししたいですね』と手書きで書いてあった。

 確かに齋藤さんとは『会社に勤めていた時面識があったな』と思っていた。



 そのとき、

「お父さん」「パパぁ」ほとんど同時だった。

 その後は合唱だ。「餅何個食べるぅ」


 俺は「三個頂きます」と低姿勢で答えた。





 妻の雑煮には敵わないが、中々おいしかった。

 そして凄く幸せな気分になった。



 午後から三人で、全国区ではないがこの地では有名な神社へと初詣に行った。

 三人で車に乗るときはいつも、俺は運転手兼お財布、二人は後部座席のお客さんである。


 それぞれお願いをした後、又二人の合唱が始まった。


「お父さん」「パパぁ」その後、「何をお願いしたのぉ?」


「それは秘密」と答えると


「ダメ、教えて」今度の合唱は少し輪唱気味になっていた。


 俺は

「言わなくても分かるだろう、みんなの仕合せを願ったよ」

「あと、追加で史絵の大学合格と彩夏の料理上達も」

「だから、お賽銭奮発したよ」


 最後の台詞を言い終わらないうちに、彩夏が喜んで史絵に言った。


「わぁー、お姉ちゃん、パパが彩夏の事を、『彩夏』だって、嬉しい」


 史絵は、

「よかったね!一歩前進だね」

 と意味不明の言葉を発していた。


 

 そんな和気あいあいとした正月も三日目を過ぎようとしていた。

 明日には史絵が札幌へ帰ると言う。

 いよいよ大学受験の年が来て、間もなく来るセンター試験を皮切りに、大学は札幌の大学を二校受ける様だ。


 史絵は高校では、バド部一筋で道大会ではそこそこの成績だったが、全国大会に行くと壁は厚かったみたいだ。

 実業団からの勧誘は一企業だけ有ったそうだが、色々悩んだ末にバドミントンを諦めたみたいだ。

 勿論俺にも相談はあったが、元スキー選手としての経験の話はしたが、史絵の参考に成ったかどうかは判らない。

 結局、実業団に入るのは北海道を離れる事なので、北海道残留を選択した。

 その理由の中には離れたくない人の存在も有る様だ。


 史絵の学業は申し分なくて、スポーツ特待生で入った高校なのに、進学クラスにも引けをとらない成績、いや、それ以上だった。

 だから、受験に関しては全く心配していなかった。

 そういう訳で、初詣でも追加のお願いになった次第だ。


 明日は札幌まで送らなくていいと史絵は言っている。

 JRで帰るそうだ。

 どうも、札幌駅で誰か待っている様だ。




 一月三日の夜、

 昼頃から降り続いていた雪は、夕方には吹雪になり、風の音が(すさま)ましかった。

 夜には、稲光から少し遅れた雷鳴が鳴り響いていた。


 ベッドで眠りが深くなりそうなその時、部屋のノック音がした。

 返事をする前に二人がパジャマ姿で枕を抱えて入って来た。


 史絵が、

「彩夏が雷怖いんだって」

「私のベッドで二人寝てみたけど、狭くて寒いの」


 俺が返事をする間がないうちに、俺の両側に一人ずつ滑り込んで来た。


「わー、怖くない、安心、しかも気持ちいい」

 と彩夏が言った。


 史絵も

「ダブルベッド、三人でも余裕だね」

「今日だけお願いお父さん」と続いた。


 俺に拒否権は無いみたいだ。

 仕方なく、その状態を受け入れて寝ることにした。

 雷鳴の中、三人ともそのまま寝入った。


 夜明けの少し前、俺は何か柔らかい感触で目が覚めた。

 外は雷鳴も吹雪も収まっていた様だった。


 うーん、両側を見ると、二人とも体の右側を下にして寝入っている。

 おれの右側には史絵、左側には彩夏、そんな体制では、史絵は俺に背を向けているが、彩夏は体の前側を俺に向けている。

 柔らかい感触の正体は、彩夏の、史絵より年下なのに史絵より豊かな双丘だった。

 しかもブラは付けていないみたいだ。 


 俺は、焦りの心と幸せの心が同時に沸いた。

 逃げ場を史絵に塞がれていたので、仕方なく俺も右側に体を向けて、背中でその圧を受け止めてその後は一睡もできなかった。


 そして、何事もなく朝を迎えた。


 そして史絵は札幌へと戻って行った。


 大切な人がいる街へと。



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