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第七話 Xmas

 マンションへの引っ越しは、一旦延期にした。 

 引っ越し先のマンションは、俺と史絵の部屋は有ったが彩夏の部屋が無いし、彩夏が自分の家に戻るのも、そんなに先では無いと思っていたからだ。


 彩夏と一つ屋根の下で暮らし始めてから、一週間が経った。

 もう少し経てば、史絵も冬休みで帰省する。

 史絵と彩夏は相変わらず、毎日連絡しあっているみたいだ。

 その内聞に俺の入る余地は無い。


 彩夏は早起きだ、六時半に起きて自分の身支度を済ませてから、台所に立って自分の弁当を作る。 

 彩夏は、ご飯は多めに炊いて、炊き上がったご飯は一番先に仏壇の紗枝にあげる。 

 そして、紗枝に手を合わせる、決して俺がお願いした訳では無い。

 弁当の残りが夕飯の分となる、おかずは少し多めに作ってその余った分が二人のトースト朝食の添え物になる。

  

 それから八時過ぎに高校へ向かう。 

 雪道でない季節ならチャリで五分ほどの距離だが、今は徒歩なので十五分位かかる。 

 彩夏が学校へ行っている間は主夫になった様に、掃除洗濯を済ませる。 

 勿論洗濯は自分の物だけだ。 


 昼食は、必然的に俺一人だ。

 彩夏が来る前は、インスタント食ばかりだったが、夕食の残り物を細工して別品にして食べるが、そのままレンジだけの時もある。 


 夕食は二人で作る。 

 料理の腕は素人同志だが、ネットを見ながら作る姿はまるで親子の様だ。 

 独り暮らしになってから、コンビニに頼り切っていた(すさ)んだ食生活も、妻がいた時の様な規則正しい風景に近づいてきた。 

 それがまた結構楽しい。

 

 夕食の時は割と二人とも割と無口になる。 

 片付けが終わると、俺はソファーに座ってテレビを見る事が多い。 

 すると彩夏も横に座って来る。 

 しかも割と近い。 

 彩夏が興味の無い番組の時でも、俺の横にいる事が多い。 

 黙ったままスマホを触っている。 


 日に日にソファー上の俺と彩夏の間の距離が短くなって、テレビの中で一寸怖い場面の時を境にその距離はゼロになってしまった。 

 しかも左腕に両腕を絡めてくる。 

 彩夏が小学生の時にも同じ状況は有ったが、いやその時は両側だった、でも今は俺の左の腕に彩夏の柔らかい右側の丘が当たってしまっている。


「ちょっと! 彩夏ちゃん近過ぎじゃない?」


「あ―― でもおじさんが嫌でなければこのままでいいですか?」

「えーと、それと…………おじさんの事…………パパって呼んでもいい?」

「なんか、同棲……いや、同居、長引きそうだから?」

「おじさんの事、お姉ちゃんは『お父さん』と呼んでいるし、私も天国に行ったお父さんには『お父さん』と呼んでいたの」

「だから『パパ』と言う言葉に憧れているの」

「それにお姉ちゃんの公認も取っているよ」


「呼び方は、彩夏ちゃんがそう呼びたいのなら構わないけど、家の中限定でね」

「それと、密着するのは一寸……」


「あっ、パパ、もしかして、彩夏を大人の女性として見ている?」

「彩夏嬉しい、パパ」

「それと、家の中限定で良いから、彩夏の事呼び捨てにして欲しいな、パパ」

「うーん、パパ」「パパ」

 と言って、又腕に絡みつかれた。


 仏壇の紗枝の写真が睨んでいる様に見えたが、一寸嬉しかったのも事実だ。


 そんな生活は慣れてきた頃、史絵が帰省すると言うので、札幌まで車で迎えに行く事にした。 

 彩夏が一緒に行くと言い張ったので行きは二人のドライブになった。

 高速道路で事故が発生したみたいで途中のインターで降ろされて史絵に少し到着が遅れると彩夏が電話していた。


 要件が終わっても長々と女性特有の長電話が続いていた。 

 そして会話の中に『パパ』と言う言葉が何度も出てきた。 

 予定より四十分ほど遅れて着いた。 

 お世話になっている老夫婦に挨拶をして、お歳暮を渡した。


 老夫婦は、

「史絵ちゃん、本当に出来た娘さんですね、勉強もバドミントンも、それは頑張っていましたよ」

「大変だと思うけど、一切それを口に出した事はありませんでした」

 と、史絵を褒め称えてくれた。


「また来ます、あと少しだけど又お世話になります」

 と言って史絵は私たちと帰省した。


 帰りの車の中は、俺は完全な運転手、二人の会話には入っていく隙が無い。

 そして、高速に上がる前に美味しいと有名なケーキ屋に寄らされた。

 史絵が予約していた様だ。勿論支払いは親である。


 ――あっそうだ、今日はXmasイヴだった――


 彩夏が舞込んで来てから、すっかりペースが狂ってしまい、曜日だけでなく日付音痴にもなっていたみたいだ。


 二人はすっかりXmasモードに入っていた。

 高速を降りてからは、今度は、地元の〇〇タッキーに寄らされた。運よくその隣にあったデパートはまだ閉店前だったので、プレゼントを用意していない俺はKYモードから脱出する為に、宝石売場へ二人を連れて行き上限金額を言ってネックレスを選ばした。


 選んだ品をラッピングして貰って、『これ、後で渡すから』と二人に言って、デパ地下へ向かい、出来合いの食品を見繕って急拵えのXmas パーティ用を調達して、家に向かった。

 家に着いたのは夕方と言うには一寸遅い時間だった。


 家に着くと二人そろって紗枝の前に座って、ずいぶん長い間手を合わせていた。

 一周忌も済んでいないので、ツリーは飾らない様にして、三人で晩餐をした。

 ずいぶんと賑やかな宴だ、又紗枝を思い出して瞼が滲んだ。




 そして今日は大晦日。除夜の鐘が微かに聞こえてくる。


 激動の一年をしみじみ振り返り、一人涕涙に暮れて、年は明けて行った。


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