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第六話 同棲?

俺は、居間で朝を迎えた。時計に目をやると、七時を少し回っていた。

荷造りの途中で眠ってしまったみたいだ。

何故か、掛けた覚えの無い毛布が身体の上に掛かっていた。


「あっ、そうか」


 昨夜の事が蘇った。

 きっと彩夏が掛けてくれたんだろう、二階の様子を階段下から察すると、彩夏はまだ寝ているらしい。

 俺は一階の自分の部屋から着替えを持って風呂場へと向かった。


 一人暮らしになってから、家のいろんな場所が独身仕様になっていたが、浴室は、いつもよりすっきりしていて奇麗だった。

 昨夜、後から俺が使うと思って彩夏が気を使って掃除してくれたのだろう。


 シャワーを済ませて居間に戻ると、彩夏がいた。


「おはようございます!おじさん」

「昨夜は有難うございました!」

「久しぶりのお姉ちゃんのベッド、気持ちよかった」

 と、明るい表情で捲し立てた。


 続けて

「お礼に朝ご飯作りますね。」

「あ、おじさんちの台所は、よくお姉ちゃんと一緒にケーキとかクッキーとか作っていたから解っていますから」

 と言って、空に近い冷蔵庫から卵とハムを見つけ台所収納に有ったツナ缶を合わせてフライパンで炒めた。あっという間に料理名が判らないが、一品が出来た。


 俺の朝は、いつもパン派で、それは、(にぎ)やかに三人で食卓を囲んでいた時代からそうだった。

「彩夏ちゃん、ご飯無いんだけどトーストで良いかい?」

「あっ、彩夏もいつも朝はトーストだから、大丈夫です」


 ――そういえば昔泊まった時は、いつも朝はトースト食べていたかも?――


 そして、角食を、冷蔵庫に有るものを乗せて焼きながら、いつもの様にコーヒーメーカーで念のため多めに煎れた。


「そういえば、毛布掛けてくれたの彩夏ちゃん?」


 俺の問いに

「あっ、そうです、勝手におじさんの部屋から持ってきました」

「おじさんの部屋、一寸びっくりしたけど、直ぐ毛布有りましたよ」


 俺は、

「余りにも部屋が散らかっていたからね」と言うと、


 彩夏は、

「そうじゃなくて…えーと、ダブルベッド」

「見るの、初めてなので」


 そう言われて、そのベッドで、毎日子作りしていた事を思い出した。

 思い出すと瞳が潤んだ。

 彩夏が作ってくれた品はそれなりに旨かった。


『高校生にしてはと』言う但し書きを心の中で言ってから、

「すごく美味しいよ ありがとう」と言った。


 彩夏は、少し頬を紅潮して笑った。

 その時は、紅潮の訳が解らなかった。


 朝食を二人で食べながら

「彩夏ちゃん、そういえば学校は?」と尋ねると


「何言ってるのおじさん、今日は土曜日だよ」


「あっそうだよね。」

そう言えば、最近無職に成ってから曜日の感覚が無いのを再確認させられた。


「あとで、お母さんと話し合うよね」

「おじさんも一緒に行くから」

 と言うと、彩夏は、

「母さん、飲んだ次の日だから、多分十一時近くまで寝ていると思うよ」

「それと、あの男はパチンコに行くと思う」

「男の車、居なくなったら、お願いします」


 窓から、彩夏の家を見たら、車が二台止まっていた。

 赤い軽が前から有った智恵さんの車で、軽の隣に黒いRV車が止まる様になったのが最近だったのを、思い出した。


 俺と彩夏は十一時に黒い車が無いのを見届けて向かいの彩夏の家に向かった。


 ―ピンポーン―


 彩夏がインターンホンを押した。


「彩夏じゃないの!家に居なかったの?」

 智恵さんの声が玄関に響いた。


 智恵さんが玄関ドアのロックを外して内側からドアを開けた。

「どうしたの?彩夏、あっ!北島さんも居たのですか」


 家の中へ入って、彩夏が昨夜の事件を、ガス漏れブザーから始まって俺の家に泊まった事を、一部始終報告していた。


 そして続けて、

「お母さん、あの男に直ぐ出て行ってもらって!」


「………………」


「私、あの男が家に居たら、この家には住めない!」


「………分かったわ、彩夏に辛い思いをさせてごめんね」


 続けて俺も、

「あのー、私が言うのもなんですが、昨夜の彩夏ちゃんは、かなりパニックな状態でした、私も出て行って頂いた方がよろしいかと」


 智恵さんは少し考えて、

「北島さんにはご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と謝ってきて、

「彩夏、お母さん一寸北島さんとお話するので、二階の部屋に行って頂戴」

 と彩夏を席払いした。


「わかった!絶対出て行ってもらってね」と言って、階段を上がって行った。


 智恵さんは、順を追って話し始めた。

 そして、最後にあるお願いをされた。要約するとこうだ。


 彩夏は、戸籍上は実子だが嫡出子でない事、亡き夫と友達の由梨と言う女性の間に生まれた子の事、そして彩夏は、中学生になった頃父の残した手紙でその事を知って、高校生になった時、彩夏からそれをカミングアウトされて、感謝されて、二人は前にも増して親子の契りが強まった事が話された。


 そのレイプ魔の名前は、前山紘一と言って、智恵さん達の若い時の遊び仲間の一人で、彩夏の父小野寺幹士、彩夏の産みの親白井由梨、そして育ての親中居智恵を含むグループの中に、あと数人いて、その中の一人が前山だった。


 一年前に行きつけのスナックで偶然再会して、昔話で盛り上がって親しくなったそうだ。

 前山は、去年離婚して独り者の身だったそうだ。

 前山の浮気が原因で離婚したそうで、子供はいなかったが、慰謝料とかで蓄えが底をつき、その上浮気相手からも別れを言われて、心の拠り所が無くなっていた時に、智恵さんと再会したそうだ。

 今の生計はプロのパチスロらしい。

 

 グループで遊んでいた時、前山は由梨さんに一方的に好意を持っていて、ある日、由梨さんに強制的に手を出そうとして、その時に幹士さんに助けてもらったそうです。

 元々お互い口には出していなかったのが、その時に二人は両思いを確認し合ったそうです。


 前山は、最近事情があって住む処もなくなって、この家に転がり込んできたそうです。

 其処で見たのは、由梨さんに生き写しの彩夏ちゃんだったそうです。

 智恵さんも、前山の昔を知っていて、そして彩夏を見る目が普通じゃない様な気がして、『もしかしたら彩夏に危害が』と思ったそうです。

 でも、智恵さんの身体を慰めてくれるのも前山しかいなくて、つい家に入れてしまったそうです。


 この後、智恵さんは俺に言った。

「前山には出て行ってもらいたいと思います」

「私も会わないようにしたいと思います」

「でもこの寒空に今すぐ出て行って住む処も急に決まるとも思いませんので、なるべく早く出て行ってもらいますので…………」


 続けて智恵さんは、

「北島さん、お願いがあるのですが、奥さんがあんな事になって大変な時に言うのもなんですが、少しの間でいいのですが、彩夏をお願い出来ないでしょうか?」

「北島さんなら、彩夏が小さい時から家族同然みたいにお世話になっているので、彩夏も安心だと思います」

「ご迷惑でなければ、お願い出来ないでしょうか?…………」



「………………」

 少しの間を置いて俺は、

「分かりました、彩夏ちゃんさえよければ、喜んでお預かりします」

「それと、その男には彩夏ちゃんが私の家に居る事は言わないで欲しいのですが」


「あ ありがとうございます」


 そう言うと二階に声を掛けて彩夏を呼んだ。

 そして、今決まった事を彩夏に報告した。


「分かりました。おじさんよろしくお願いします」

 と言って、何故か、頬が染まった様に見えた。


「今、お姉ちゃんとスマホでやり取りしていたけど、お姉ちゃんも『その男が出て行くまで、うちにいなさい』と言っていたよ」


「彩夏ちゃん、史絵とはよく連絡取り合っているの?」

 と、尋ねると、


「うん、ほとんど毎日だよ」と(かえ)ってきた。


 父である俺でさえ良くて週一位なのに、やっぱり仲の良い姉妹だなぁと思った。


 それから、一寸遅い昼食を小野寺家でご馳走になって、三人で引っ越し作業に取り掛かった。

 本当に必要最小限の荷物を向かいの家に運ぶ作業だったので三十分で終わった。

 そして、コーヒーで一息ついていると、向かいの家の前の駐車スペースに、黒いRV車が止まった。

 彩夏の話によると、いつもより早い御帰還だそうだ。

 間一髪で、鉢合わせを免れた。




 我が家の二階には二部屋有る。

 あと、トイレと洗面所も一階とは別に設置している。

 史絵の部屋の隣の部屋は史絵の兄弟用にと予定していた部屋だった。


 今は、引っ越しの為の段ボール箱が置いてある。

 一寸前までは物置部屋状態で雑然としていたけど、引っ越しの効能で段ボール箱以外は片付いていた。

 備え付けのクローゼットの中も空で丁度良かった。


 俺は、段ボール箱を一階の物置部屋に移して、一階の客間から客用の簡易ベッドと寝具一式、俺の寝室から折り畳みディスクを二階の部屋に上げて設置した。

 それから彩夏の荷物も二階の部屋に上げて彩夏の部屋が完成した。


 暫くして、彩夏の部屋をノックすると、

「はーい、おじさん入って」と嬉しそうなこえが聞こえた。


「はいこれ、家の鍵とWIFIのパスワード」と言って渡した。


「あっ、ありがとうおじさん。私の家のWIFI届いていたけどすごく弱かったの」と言って喜んでくれた。


「今日の夕飯だけど、歓迎会を兼ねてファミレスに行こうか?」と誘うと、


「ありがとう、おじさん。じゃ、御馳になりまーす」と反ってくる。


 なんか暫くぶりの懐かしい会話に、俺の瞼が緩んだ。

 それを彩夏に悟られないように下へ降りた。

 

 外食の後スーパーに寄って、明日からの食事の買い出しをする事を彩夏に伝えて車を出した。


 以前は、後部座席が指定席だったが、今は助手席に座っている彩夏。


 暫くすると、燥でいた彩夏が小さい声でポツンと言った。


――――――――――(同棲生活、始まったね)


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