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第四話 小野寺家 其の一 お姉ちゃん

 ――小野寺彩夏――


 私の名前です。

 父が名付けたと聞いています。

 

 初夏に生まれた事と、これから始まる人生で、私の周りの人達に彩りを与える存在に成って欲しいとの、父の願いがこもっていました。


 私の家は、父 小野寺幹士 母 小野寺智恵 そして私、三人家族です。


 物心ついた時から両親がいたので、普通の家族の認識がありました。

 父は、小さな建設関係の会社を経営していた事は、社員の方が父に対して『社長』と呼んでいた事から幼少の私でも理解出来ました。


 母は普通に私に接してくれていました。

 只、叱られた記憶が余りなくて、幼稚園に通っていた頃、友達の口から『お母さんに叱られる』と言う台詞を聞く度、心の中で『私は幸せだなぁ』と思っていました。

 後で、それは勘違いだったのかも知れないと思う様になりました。


 父は私が小学校に入学する少し前、家を新築してそれまで住んでいたアパートから、今の家に引っ越しをしました。

 何もかも新しくて、当時私は嬉しくて舞い上がった記憶は、不思議と今も鮮明に心に焼き付いています。


 ある日、新しい家に住んだ記念と小学校に入学する記念と言って、父が私に、一枚の円盤みたいな物が入ったケースを可愛いキャラクターの模様の布袋に入れて、私の真新しい勉強机の大きい方の引き出しの奥の壁に何個かの鋲で止めました。

 それと同じように小さい引き出しの奥の壁には、近くの神社の御守りを同じように止めました。


 付け終わると父は、

「これは、彩夏を守ってくれる御守りだよ」


 父は続けて言葉を重ねました。

「彩夏が成人になるまで付けたままにして置いてね」

「それと、この事は絶対お母さんに言ったら駄目だからね、二人だけの秘密だよ、でないと神様は約束を守ってくれないからね」

「もし、彩夏が大きくなった時にお父さんがいなかったら出しても良いよ」

「でも彩夏の成人式の日に、これはお父さんが引き取りに来るよ、効目が無くなるからね」


 私は、当時父が何を言っているのかよく解りませんでした。


 私が小学校へ通い始めた年の初冬、初雪が降った日、授業中に母が学校へ来ました。

 教頭先生と二人で廊下に居ました。

 教壇の山下先生が先に呼ばれ、教室に戻って来ると私の所へ来て、「直ぐお母さんと一緒に帰りなさい」と言われました。

 その時の先生の顔が悲壮だったのは今でも覚えています。


 母は私を抱きしめて、涙ぐんでいました。

 そして病院に連れて行かれました。

 何故か母は、病院の階段を地下の方へ降りて行きました。


 そこには、大人が一人ベッドに寝ていて、その顔には白いハンカチが被せてありました。


「…………お父さん…………天国に行っちゃった」

 学校に来た時から、ずっと黙っていた母が口を開いて、そのハンカチを取りました。


 そこには、お父さんが眠っていました。


 私は「…………おとうさん?」「おとうさん」と何度も叫びました。

 母は泣きながら、私を抱きしめるだけでした。

 後から聞いたのですが、父は現場でその日積もった初雪に足を滑らせて十メートル上の足場から転落したそうです。





 それから母と私の二人だけの寂しくて暗い生活が始まりました。


 母は、その頃から私に対しての態度が、なんか、微妙に以前と違う様な気がしました。

 当時は『気のせいかな?』位にしか思っていなかったと思います。



 私が小学三年生になった時、私の家の向いに北島家が引っ越しをして来ました。

 その中に、史絵ちゃんと言う一人娘がいて、私より一歳年上でした。

 史絵ちゃんは直ぐ私に話し掛けてくれて、もう次の日には、仲良しに成って、史絵ちゃんのお陰で私は少しずつ明るさを取り戻していきました。


 私は、史絵ちゃんの事を『おねえちゃん』と呼んで、二人は超仲良しに成りました。

 朝学校へ行く時から晩御飯までの間は、いつも一緒でした。

 周りからは、『本当の姉妹みたいだね』とよく言われました。

 昼間の(ほとん)どを北島家で過していた様に思います。


 お姉ちゃんのお母さん、お父さん、奥の家のおじいちゃんとおばあちゃん、北島家の人はみんな優しかったです。


 そして当時私は、お姉ちゃんのお父さんに対して特別な感情を持っていたような気がします。

 それは私のお父さんの代わりと言う感情では無かったと思いますが、それが何なのかよく解りませんでした。


 その私が北島家で生活をする風景は、お姉ちゃんが札幌の高校へ進学して、お姉ちゃんが巣立った時に必然的に終わりました。


 まさか、その時は、将来再び北島家に戻って来るとは全く考えられませんでした。


 我が家と言えば、母が前と変わった様に感じられました。

 今思えば、私が北島家に入り浸ったのが、母を変えたのかなとも思います。

 私が中学生になった頃には、母の私に対する対応は 愛情 から 愛 の文字か消えて只、 情 だけになってしまった様に私は感じてしまいましたが、思い過ごしだった事がずっとあとで解りました。


 そんな時、ふと思い出しました。


 机の引き出しの奥に有る、父が残してくれた御守りの事を


 それを机の引き出しから何気なく出してみました。


 当時それが何だか解らないでいましたが、


 一枚のCD-ROMでした。


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