公園に居る青年
雪が降り積もり、小さい子どもたちが雪だるまや雪合戦を楽しんでいる──。
*
とある公園に、子どもたちが作ったというには少し大きく、軽く殴ったくらいでは壊れないであろう硬めの雪だるまが、ベンチの横に作られていた。
「さっむ……、うお、デカ──」
ダウンジャケットを羽織り、首にはマフラー、手には手袋と、防寒対策をきっちりした青年が、たまには雪景色でも堪能するかと公園に来て、その雪だるまを見つけた。
「おー……めちゃくちゃ硬い、スゲえ……。誰が作ったんだろ」
『……よ』
ぽんぽんと雪だるまの頭を叩いてみると、どこからか声がした。
「ん……?」
だが、小さすぎてよく聞き取れない。青年は耳に神経を集中させて、姿の見えない誰かに声を掛けてみる。
「……誰か居るのか?」
青年が周りを見回して言うと、今度ははっきりとその声が聞こえた。
『ここだよ』
「ん……? え──?」
声のする方に視線を向けるが、それは雪だるまだった。
「……いやいや、まさか……」
青年は周りに居るんだろうと辺りを見渡すが、視界に入るのはブランコや滑り台、そして目の前の雪だるましかない。
「……お前なのか?」
恐る恐る声を掛けると、目の前の雪だるまから声が返ってきた。
『そうだよ、ボクだよ』
「はぁ……、雪だるまって喋るっけか?」
『ボク、雪だるまじゃないよ』
「はぁ……」
青年は何が起こっているのだろうかと思いつつ、少し引きつった顔で首を傾げる。
雪だるまじゃないと言われても、目の前にいるのは雪だるまに違いない……。
だが確かに、喋る雪だるまは雪だるまと言えるのだろうか……?
その雪だるまは、誰が作ったのかはわからないが、雪玉に丸い石が二つ、目とおぼしき場所に均等に付けられている。
鼻と思われる所には、若干汚れたオレンジ色のレンガの破片みたいな物が付けられ、口と思われる所には一本の木の枝が横向きに付けられて、ちゃんとした顔になっている。
律儀に下の雪玉にも両手の代わりなのか、木の枝が刺さって表現されている。長さが若干違うが、無いよりはいいといった感じだ──。
「じゃあ……、君は何なんだ?」
青年が問いかけると、雪だるまが答え始める。
『ボクはユキ』
「ユキくんか」
『うん。本当はもっとカッコいい名前にしてほしかったなぁ』
「十分カッコいいじゃないか──」
「雪だるまだからユキなのか?」と思いつつ、青年は雪だるまの話に耳を傾けた。
『今日は友だちと遊ぶ予定だったんだけど、遊べなくなっちゃって……』
「そうなのか。壊れたりとかでか?」
『ううん、僕が雪だるまにされちゃったから──』
どことなく寂しそうに言ったユキに、青年は元から雪だるまじゃないかと思いつつ、ユキに訊く。
「雪だるまにされたって、どういうことだ?」
『ボク、昨日この公園で友だちと遊ぶ約束してて、皆より先に着いたから待ってたの。そしたら、後ろから誰かに口抑えられて、それで眠っちゃって……』
「は……?」
『それで、気づいたらこうなってたの。不思議と寒くないし、どこも痛くないんだけど、お家に帰れないのが悲しい……』
青年は目の前の雪だるまから聞かされている事が理解できない。
もし、この雪だるま──ユキが言っていることが本当だとしたら、今目の前にあるこの雪の塊の中には、ユキが入っていることになる……。
「……ユキ、何年生だ?」
『えっとね、小学三年生』
青年はもう一度雪だるまをよく見てみる。
大きいと思っていたが、ユキから小学三年生だということを聞いて、思わず息を呑んだ。
青年は身長が百七十あるが、雪だるまは青年の胸の高さより少し低いサイズだ。小学三年生が入れられていてもおかしくない……。
「……ちょっと、削ってもいいか?」
『いいけど、何するの?』
「確認する──」
そう青年は雪だるまに触れる。
しっかりと固められていて、軽く叩いただけでは壊れないだろう。
『……お兄さん』
「ん? どうした」
『ボク、お家に帰りたい』
「あぁ……、帰ろう──」
両親もきっと心配しているはずだ。もう警察にも行っているのではないだろうか……。
自分の子どもが一日帰ってきていないのだ、落ち着けないだろう。
青年は雪だるまの削る場所を考えながら、どんな姿であれ家に帰してやろうと決意した。
そして近くに落ちていた木の枝を拾って、青年は狙いを定める。
「じゃあ、ちょっと削るな──」
そう青年が雪だるまの頭部分を木の枝で軽く刺すと、ユキが驚いた声を出した。
『痛い!! 痛いよお兄さん!!』
「悪い、当たったか?! 次は気を付けるからな、すぐ出してやる、少しだけ我慢してくれ──」
『ま、待って、待ってお兄さ──』
青年は木の枝を一旦引き抜くと、少し場所をずらし、思い切り差し込んで削ぐように木の枝を動かした。
雪だるまの側面が崩れ落ちるとともに、ユキが悲鳴をあげた。
『あああああああッ、いっ、痛いよぉっ、やめてっ、痛い、痛い痛い痛いぃっ』
「おかしいな……もうちょっと奥なのか?」
青年はユキの声が聞こえないのか、ざくざくと木の枝で雪だるまの中を探るように抉る。
その間もユキは悲痛な叫びをあげていたが、青年には聞こえていないようだった……。
*
「お母さん、あの人何してるの?」
「見ちゃダメ、ほら、行くわよ──」
公園の前を通った子どもが、雪だるまをざくざくと木の枝で刺す青年を見て母に訊く。
母はその子の手を引っ張って、公園の前から急いで去った。
その公園には、雪だるまを一心不乱にざくざくと木の枝で刺す青年がいるという。
よく聞くと「すぐ出してやるからな、もうちょっとだ……」と繰り返しているらしい……。
お読みいただきありがとうございます(_ _)
どんな気持ちになったでしょうか、何とも言えない気持ちになっていたら、こちらの希望通りです(笑)
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