【閑話休題7】異世界無人島サバイバル生活
「それじゃあ、これから、いせかいむじんとうさばいばるせいかつ、すたーとー!」
「ウー!!」
どうしてこうなった・・・。
◆◆無人島サバイバル生活1日目◆◆
ことの発端は簡単だ。
勇者の剣の変形する能力を使ってこの孤島から脱出しようとした。その記念すべき最初の変形でトチったせいで、ツクヨミから特訓を仰せつかったのだ。
「けどさー、あの時はツクヨミが邪魔したから失敗したんじゃん。特訓せんでもええんちゃう?」
「だめじゃろ。うみのうえでうっかりべつのものにへんけいしたら、あたち、しぬじゃん。」
「ソウダナ。ワタシタチノセクシーショットナンテ見タ日ニハ沈没間違イナシダ。ウー。」
誰が幼女なんか・・・。あと、スライムなんてもっての他・・・論外だよ!
僕は優しくて、大きなお姉さんタイプが好きなんだ。
「━でも、確かに途中で海にボチャンはマズいな。うん、そういうことなら練習しなきゃいけないよな。」
こうしてツクヨミたちの特訓を受けることとなった・・・
・・・が。
「どどどどどぉしてこんなことにぃぃいいい!!?」
僕は今、剣の台座だった岩をロープで引っ張らされております。しかも、その岩の上にはツクヨミとうーちゃんがのっていて━。
「おらぁ!!もっとびしばしはしらんかい、われぇ!!」
「コンナンジャ、イツマデ経ッテモ陸地ニツカナイゾ。」
バカ言うな!神様パワーでなんとか走れてるのに、その上、杯に変身させた剣を頭にのせてるんだぞ。
これ以上速く走るとか人間じゃねー!
(・・・いや、すでに人間じゃないんだっけ。)
それにしても、これ以上頑張ると体が真っ二つになりそうだ。
だけど、それだけでは終わらなかった。
「よし、うーちゃん!ようかいえきじゃ!」
「マカセロ!━ペッ!!」
うーちゃんは僕の背中めがけて、溶解液を吐いた。最初に右腕を溶かされた記憶が甦る。
「鬼畜かァァァアアア!!?」
何とか避けはしたけど、砂に足をとられてもたついてしまった。
「お~い、そくどおちとるよー!」
「杯ノ変身モ解ケカケテイルゾ。ウー!」
「チョッ、チョット待ってくれ!初日から飛ばしすぎッ!男塾でもこんな仕打ちしないぞ!
これじゃ死んぢまう!!」
「これくらいじゃ、しなんわい!なにせ、きみはにんげんじゃないからの!あたちがいうのだから、まちがいない!」
あーそうかよ!そりゃ説得力ありまくりだな!?
「ほれ、もういっちょ、ようかいえきじゃ!」
「ペッ!」
「ギャアアアアァァァァァァ!!」
この地獄が夕方まで続いた。
自分の世界なら体罰、暴行もろもろで大問題だぞ・・・。
これが1日目の出来事である。
◆◆無人島サバイバル生活2日目◆◆
2日目の朝━。
目覚めてみると目の前にツクヨミとうーちゃんの顔があった。
「おっ、おきたようじゃの。」
「ソレジャ、早速━」
「とっくんじゃな!」
前日からイヤな予感はしてたけれど、今日もまたあの地獄を味わうことになった・・・。
「ゲェエエエェェ・・・。」
ヘトヘトになりながらも、お日様が真上に昇るころにようやく解放された。
僕はロープを解かれてすぐに倒れこむ。
「おつかれさまじゃ。」
「偉イ偉イ!」
くそぅ、誉められても嬉しくねー・・・。
「さて、ここからじゃが━」
「えー・・・!まだ何かするの・・・?」
「いや、きみはやすんでおくといい。
あたちとうーちゃんで、ごはんをとりにいく。」
「ごはん・・・?」
そう言えば、この世界に来てから何も口にしてない。それでも過酷な訓練に耐えられたのは、神様になったからだろうな。
けど、やっぱりお腹は空くものだ。たから、コイツらがごはんをとってきてくれるのはスゴく嬉しい。
「ちなみにアテはあるん?」
「ソレハ私ニ任セテ。
オイシイフルーツニ、オイシイ肉ニ・・・沢山アルゾ!」
「さっすが!いちばんたよりになるのはうーちゃんじゃのぅ!」
今思ったけど、なーんか僕に対してだけ厳しくない?
「悪かったな、僕は頼りにならなくて・・・。」
「いじけるでない。これからきみには、いやというほどたよるつもりじゃ。そのときまで、まつがよい。
いまは、あしたにそなえてよくねておくのじゃ。」
「・・・へっ。」
気づけば、夕方。
大きな物音とツクヨミの声にたたき起こされた。
「や、や、や、やばいのきたー!!」
「ウー!変質者ダー!!!」
砂浜の向こう側から、うーちゃんを持ったツクヨミが走ってくる。あまりの慌てっぷりに異常さを感じて、咄嗟に剣を構えた。
すると、さらに向こうから、黒い鎧の男が追ってきているのが見える。
「フハハハハハ!!!怖がらなくてよいのだぞ!
何てったって俺様は、新魔王様の近衛部隊第2師団隊長ベヒモス・ダイ━
「コノー・・・ド変態がー!!!」
━カッキーン!!
有無を言わさないホームラーン!
この時だけはフルパワーでぶっ飛ばしてやった。そして、ヤツは清々しい音とともに空の彼方へと消えていった。
「ファーwwwwww」
「満悦至極・・・。フゥ、最高の当たりでしたね。
・・・それはそうと、とりあえずやっつけたけど何があったんだ?」
「うむ・・・。
たべものをさがしに、しまのなかへいったのじゃがな・・・。ゆうしゃのけんのあったばしょに、やつがいきなりあらわれたのじゃ。
それであたちをみるなり、
『ああ、こんなところで、いちりんのはなをみつけるとは・・・。これは、うんめいいがいなにものでもない。
わがふぃあんせとならないか?いとしのまいはにー。』
━といいおったのじゃ!」
やっぱりとんだロリコンじゃねーか!
ぶっ飛ばして正解だったな。
「それで、釣果のほうはどうなんだ?」
「・・・ん?
おお!そうじゃそうじゃ、あれをみてくりゃれ。こんなにとったのだぞ!」
ツクヨミが指し示したところには、こんもりと小山ができていた。その中には、果物らしき木の実や、何かの肉がある。どれも新鮮で美味しそうだ!
「スゲェ!こんなによくとれたな。」
「ウー。私ノオカゲダゾ!
観光客ガ来タトキ、モテナスタメニ、食ベラレル物ハ熟知シテイルカラナ。幸イコノ島ニハ、食料ガアリアマッテイル。」
やっぱり異世界のことは異世界人に聞くのが一番だ。頼りにしてるぜ、うーちゃん!
僕とツクヨミとうーちゃんは、食欲に任せてもぎたてフレッシュな赤いフルーツをほおばった。
「甘い!それに瑞々しい!
見た目はリンゴっぽいけど、柑橘みたいな香りと桃のような濃厚さがある。」
これならいくらでもお腹に入りそうだ━
「はぁ~おなかいっぱい!じゃけど、わりとのこってしまったのう・・・。」
「ソーダナ。コノママ腐ラセルノハ、モッタイナイ。」
まんまるなお腹を抱えて、ツクヨミとうーちゃんは満足そうにしている。
「フフフ・・・、ここから僕の出番だな!」
「お?なにかしてくれるのか?」
コイツ・・・お腹いっぱいのくせして、まだ目を輝かせている。もしかして、胃袋がブラックホール系女子なのか?
それはさておいて━
「ああ、これから料理をする。今後のことも考えて、保存食をちょっくら、な。
ただ期待はしないでくれよ。現代っこの浅知恵でつくるサバイバル料理だからな。」
「よかろう!して、まずどうする?」
「まずは塩をつくろう。」
「ええ!?」「エエ!?」
ツクヨミとうーちゃんは目を丸くする。そりゃそうだ。通常なら少しの塩をつくるのにも相当な時間が必要だ。
しかし、僕は何者か忘れてもらっちゃ困るぜ。それに、変形する剣を持っていることもな。
「伝説の剣が変形できるっていうチート設定なのに、初変形が七輪で、次がアレなんてクソ地味なことしてるのは、僕の物語くらいだろうなぁー。
それでも、必要ならどんなことにだって能力を使ってやるぜ!」
剣を掲げ、心の中でイメージする。すると、剣が光を帯び、形が変わっていく。
「おおきなふらすこに、ながいのずる・・・。これは?」
「蒸留器だ。学校の理科の授業で使ったのを思い出してね。」
「ナルホド。コレニ海水ヲ汲ンデ塩ヲツクルノダナ。シカシ、ソレニシテモ時間ハカカルダロウ?」
ほれ来た!
そう言われると思って用意しておりますよ、秘策をね!
「これだけだと確かにただの超デカいフラスコだ。
だけど、コイツにとてつもない熱を加えてやると・・・」
僕はフラスコの底を持ち、パワーを集中させた。とたんにノズルから勢いよく白い蒸気が吹き出す。
「なるほど。ちからのせいぎょができないきみでも、こうおんをつくるのはかんたんだ。しかも、ていこすとでいくらでもな。それをりようしたわけじゃね。
おもしろいつかいかたをしおるわい。」
「ありがとう。それと、ノズルの出口あたりにさっき食べた木の実の殻を被せておく。
すると━」
ポタ、ポタポタ・・・ポチャン。
「飲み水がつくれるのさ。」
しばらくして、塩と水をまとめる。おかげで、山盛りの塩と数日分の水が確保できた。
「さて、具材に手を加えていこうか。
まずは肉を薄切りにして、フライパン(剣)で軽く色が変わるまで焼きます。
こうすることで肉を殺菌でき、腐りにくい干し肉となります。」
「肉ダケニ。」
━ボッ。
「▼ちょうりしっぱい。すみができてしまった!!
あーあ・・・いっしゅんですみになった。かげんせんからじゃ。」
「・・・とは言われても、加減する方法なんかしらないんだけど。どうすればいいんだ、ツクヨミ?」
「ん?ああ、おしえてなかったのう。
けど、のうりょくのつかいかたなんて、からだのうごかしかたとおなじじゃ。だから、おしえるのは、むずかしいんよな・・・。
ま、なんどでもちょうせんしてみぃ。なれるのがじゅうようじゃろう。」
「慣れ、ねぇ・・・。」
━20分後。
「そして出来上ったものがこちらになります。」
「なんじゃ、とこぞのりょうりばんぐみみたいな、くちょうになって?
でも、ひがいはおおきかったが、うまくできたようじゃの。」
今回の成果!
山盛りの消し炭と、うっすら焼き色のついた肉たち━。この美しい色合いは、まさに僕の成長の証だった。
・・・あと言っておくが、炭は肉じゃないぞ。最初は絶対失敗すると思って、そこらへんでかき集めた葉っぱや木くずを焼いたんだ。
「つぎはどうするのじゃ?」
「次は肉を塩に漬け込んで、一晩寝かせます。」
◆◆無人島サバイバル生活3日目◆◆
「━寝かせたものがコチラになります。塩に漬け込む前と比べると水分が抜けて縮んでますねー!
さて、ここで新商品!」
「しんしょうひん!?」
「ドライフードメ~カ~!!」
テッテレー!
脳内音声に合わせて変形したのは、最近話題のドライフードメーカー(大)。
なんと容量は従来をはるかに越える90リットル!これさえあれば、君も食品加工業者の気分を味わえるぞ!さあ、今すぐ購入だ!
ちなみに今お買い求めいただくと、謎のスライムと無人島特産の消し炭をおつけします!電話番号は━
「ほー。いまどきじゃな。
しかし、これってあみじょうのふただったっけ?あたちのきおくでは、ふつうのがらすぶただったようなきがするのじゃが?」
脳内テレホンショッピングを遮って、ツクヨミはメーカーの蓋を開けた。
「実際買ったことないから、どういう原理でドライフードをつくるのかわからないんだ。
━ま、熱とかあれば水分飛ぶだろってことで。」
僕たちは協力して、メーカーの中に下ごしらえをした肉や余り物のフルーツを敷き詰めた。
「そ、そんなもんでよいのか?
ま、まあ、それはさておき、でかすぎるとおもったのだが、そうでもなかったようじゃな。めーかーのぷれーといっぱいじゃ。」
ほい、いい具合に準備できたら、後は僕の出番だ。
「機械の下部分の穴に手をつっこんで・・・神様パワーオーン!」
━ブォォオオオ・・・
暖かい空気とともに、プレートが回転し始める。
「ウー!!!動イテル!!」
「なぁに、もっと動くぞぉ!!」
コイツの真のパワーにはまだまだ程遠いぜ!倍プッシュだ!!
僕はパワー出力を上げた。
━ギュルルルル・・・
まるで遊園地のコーヒーカップを覗いているみたいだ。
「なんか・・・いろいろちがうきがするが、ともかく、はやくはできそうじゃな。」
「あーたり前だー!こんなもの僕にかかれば1分あればカラッカラだ!!
フルパワー!!」
「おい、ばかやめろ!」
━グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
目にも止まらぬ早さッ!
真の回転じゃなければ、それは回転にあらず!これこそ真の回転エネルギー!!
━ベシャ!!
僕はツクヨミとうーちゃんを前にして正座をさせられている。
あたり一面の砂浜には、かつて肉やフルーツに内包されていたであろう汁が撒き散らされていた。もちろん、僕たちにも・・・。
ただ、ケースの中にある食べ物たちはまるで鉱石のように、きれいに陳列していた。
「もう!やめろとゆうたのに!」
「ウー・・・。体中ベタベタ。サイテーダ。」
「ご、ごめんなさい・・・。」
やりすぎた・・・。
ちょっと功を焦りすぎたようだ。
「あーあ、おふろにはいりたいのう。」
「すまないけど、それは無理だ・・・。水は飲む分しかない。最悪、時間はかかるけど海水を蒸留することはできるけど。」
その時、うーちゃんが前に出る。
「水ガ必要ナノカ?」
「あるのか?」
「アル。小サナ泉程度ダガ、飲ムコトモデキル。」
「やったー!みずあびだー!!」
なーんだ、それじゃあ水をつくる必要はなくなったな。
何かに違和感を覚えたが、水があるに越したことはない。早速行ってみるか!
「わーい!みずだー!!」
水と空気の境目がわからない。それほどまでに澄んだ泉の中で幼女とスライムが遊んでいる。
僕は彼女たちが見えない水溜まりで、服を洗っている。
その時、水面に映った自分の顔を見た。目の横には、神様の証である月の刺青が浮かんでいる。
こうして1人になると、えもいわれない正体不明な不安に襲われそうになる。
洗濯をし終わっても、しばらく水溜まりにいた。
すると、背後に気配を感じた。
「いつまでせんたくしておるのじゃ!きみもむこうで、いっしょにみずあそびするがよい。きもちよいぞ!」
「イヤイヤ!お前、お互い今どんな状態かわかってやってんのか?」
「はだかだが?」
「わかってんじゃねぇか!
さすがに見知ったばかり女性・・・しかも幼女と裸で戯れたりはしないよ。」
「かみさまは、きほんそんなこときにせん。」
「僕が気にするの!」
「なんじゃい、つまらんのう。」
多分、後ろの幼女は頬をぷくーっと膨らませてそうだ。
「うーちゃん、かもん!!」
??
何をするつもりだ?
と思った瞬間、何かに背中を引っ張られた。
「オ前、私ラ、遊ブ!ウー!!」
「いきなりカタコトキャラ!?
それはおいといて、うーちゃん・・・、常識的に考えてくれよ。もしも、この話がマンガ化、アニメ化したら絶対に規制されるぞ?」
「ウーチャン、マモノダカラワカラナイ。」
さて、どうしたものか・・・。
僕たちは生まれたままの姿で泉に浸かっている。
(僕は何も見てない。僕は何も見てない・・・。)
「ふぅ・・・。」
深いため息をつく。
「なんじゃげんきないようじゃの。ぐあいでもわるいのか?」
「いや・・・なんか不安になっちゃって・・・。この先、どうなるんだろ・・・って。」
ツクヨミは僕の後ろに回り、背中合わせに座る。
「あはは!たしかに、なんか、きみのものがたりがどこへむかっているのか、よくわからなくなってきたのう。
でも、いいんじゃよ、これで。ちがうかい?」
「そうだな。
無理やり連れてこられたとは言え、せっかく異世界に来たんだから、やりたいことをやって楽しまなきゃな。
それに、目的だって、ちゃんと『ツクヨミの肉体を取り戻す』って決まっているんだから。
それさえ忘れなきゃいっか?」
僕は上を見上げる。
木の隙間から見える空は、思っていたよりも青かった。
「さて、さっぱりしたところで・・・━」
「おらぁぁああああ!!さっさとはしれやぁぁあああ!!」
「ヒィィィイイイイ!!!」
再び地獄のしごきが始まった。
そして、僕の声は月が真上を向くまで島中に響き渡った・・・。