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【Episode3】勇者の剣

「トコロデ、オ前タチハ何故コンナ島ニキタ?聞クカギリ、勇者ノ剣ヲ盗モウトスル賊デハナイヨウダガ。」



 和解した後に、スライムのうーちゃん(ツクヨミ命名)がこう尋ねた。



「勇者の剣?何だそれ?」



 この世界にはそんなものがあるのか。でも、よりゲームやマンガっぽくていいな!特に最初から伝説の武器が手に入るなんて、ゼルダの伝説とかみたいでワクワクする!



「ムム、勇者ノ剣ヲ知ラナイヨウダナ。

 モシカシテ、異世界カラ来タノカ?」

 

「そうじゃ。

 ・・・ん?でも、どうしてわかったんじゃ?」


「コノ世界ニイル者デ、ソレヲ知ラナイモノハイナイ。

 アト、コノ世界ノ女神ガ、タマニ異世界ノ門ヲ開イテ異世界人ヲ呼ビヨセルコトガアル。ダカラソコマデ珍シクナイ。

 オ前タチモソノ類ダロウ、ウー?」



 なるほどね。これは幸運だったかもしれない。

 異世界モノでよくあるパターンだが、その世界の常識を知らないことがトラブルの種になったりするじゃん?僕たちもそうなるのではないかと思っていたけど、それが杞憂に終わってくれてホッとしたよ。


 そして、うーちゃんの問いにはツクヨミが答えた。



「ま、あたらずともとおからず、じゃな。あたちたちは、さっきいせかいにきたのじゃ。

 それで、ここをいろいろしらべさせてもらったが、ここはしまみたいじゃな。あたちたちはひとのいるところにいきたいのじゃが、どうやったらここからでられるのじゃ?」


「ウー・・・、不可能ダ。

 ココハ世界ノ端ノ島。頑丈ナ動力船ガアッテモ、陸地ニハ1週間ハカカル。ソレニ、昔ハ不時着シタ船ガアッタガ、今ハ朽果テテ移動手段ハ何モナイ。」



 嘘だろ、おい・・・。

 いきなり、こんなところで足踏みさせられるのか・・・。



「そっか・・・。ほんとうにここからでるしゅだんはないのじゃな?」


「ナイ。



 ―イヤ、アル。」



 どっちだ?



「アルゾ。

 タダシ、ワタシハオススメシナイ。」


「勿体ぶってないで、あるなら言ってくれ。僕たちはいつまでもここに居られないんだ。」


「ウー・・・ソレジャア、ツイテクルガヨイ。」





◆◆◆





 島のジャングルを奥深く、深く進んだ先のポッカリと開けた空間に"それ"はあった。

 "それ"は、遥か昔からたたずんでいたかのように荘厳で、木漏れ日に反射する優美な姿の金色は、まるで神秘そのものだった。



「・・・ウー。

 コレガ勇者ノ剣『エイマティス』ダ。コレヲ今カラ、オ前ニ抜イテモラウ。」


「え!これを!?

 さっき賊がどうとかって言ってたのに、簡単に渡していいのか?」


「イイ。

 ワタシハ、コレヲ守ルタメニ先代ノ勇者ニ生ミダサレタ。ケレド、同時ニ次世代ノ勇者ニコレヲ継承スル役割モ任サレテイルノダ。

 オ前タチハ、ソレニフサワシイ様ニ思ウ。」


「うーちゃんを攻撃したのにか・・・?」


「ええい!よけいなよこやりをいれるでない!」



 ゲシッと向こう脛に蹴りを入れられた。

 痛いよー・・・。


 痛いアピールをしているんだけれど、ツクヨミは無視した。



「して・・・、そのような"たかがけん"に、ここをだっしゅつできるほどのちからがあるというのか?」



 この問いに、うーちゃんは断固として答えた。



「アル。間違イナクナ。

 何故ナラ、ソレハ"剣"ニシテ、"剣"ニアラズ。使用者ノ思ウモノニナレル。ダカラ、モシコノ剣ノ使イ手トシテ認メラレタナラ、船ニデモ変形サセテココヲ脱出デキルダロウ。


 モチロン使イ手ニナレテモ、向コウ見ズニ攻撃スルヨウナバカニハ、上手ク使エルカ怪シイモノダガナッ!」



 うーちゃんは僕の方をチラリと見た。


 いや、ホント悪かったって。反省してます・・・。



「それにしても、なぜあたちたちなんじゃ?ゆうしゃにてきにんなのは、ほかにもおるじゃろう。」


「イルカモシレナイガ、ココ10年、誰モコノ島ニ立チイッテナイ。ダカラ、誰デモイイカナ・・・ッテ。ウー・・・。」



 そりゃよくないだろ!

 盗賊みたいなのが適任者だったらどうするんだよ。


 でも、うーちゃんは僕の心の?ツッコミが聞こえていたかのように、すぐに話を続けた。



「―ソレダケジャナイ。オ前タチニハパワーガアル。勇者ニ生ミダサレタ伝説ノスライムデアルワタシヲ、圧倒スルホドノパワーガナ。」



 そりゃそうだ。

 うっかりしたら世界を滅ぼすほどには強い。何せ最強の神様を受け継いでいるからな。



「ソシテ、オ前タチダガ・・・ナント言ウカ、底知レヌ神聖サガアル。モシカシテ、元ノ世界デハ聖職者ダッタノカ?」



 僕はツクヨミを見る。

 ここは彼女の判断に任せた方がいい。そんな気がした。



「・・・。

 あたちたちは、そんなたいそんなもんじゃない。ふつうの―。・・・ふつうじゃ。

 もしも、きみからそうみえるのなら、そうかもしれないけどな。」



 うーちゃんは剣の刺さっている岩に登る。そして、金の輝きを仰いだ。



「勇者ノ剣ハ使ウ者ノ心ニヨッテハ、善ニモ悪ニモナレル。ダカラ、何ガ正シイカ考エテ使ッテホシイ。

 ・・・最後ノワタシノオ願イダ。ウー。」


「最後・・・?」


「ソウダ。

 ワタシハ剣ヲ守ルタメダケニ生キテイル。守ルモノガナクナレバ、ワタシモ消エル。

 ソレダケダ。」



 うーちゃんはそれが当然のように語った。

 出会ったばかりの僕たちだけど、僕たちは―少なくとも今まで平々凡々な生活をしてきた僕には、物悲しく思えた。



「サア、抜クガヨイ!

 "世界"ガオ前タチヲ待ッテイルゾ!!」



 僕たちは岩に登った。

 絶対にツクヨミの体を集めなくちゃいけない。そのためには、この剣が必要なんだ!

 その確固たる意志を持って勇者の剣の前に立っている。


 だから、僕はスライムの方に目を向くことなく、剣に手をかけた。

 しかし、近くにいるツクヨミの目は、物悲しく見えた。



「・・・なぁ、ツクヨミ。」


「・・・む?なんじゃ?」


「うーちゃんが消えることについて、どう思う?」


「・・・しょうじき、あまりいいきがせんのぅ。」


「みたいだな。

 ・・・そこで、1つ提案なんだが、僕の神様パワーでなんとかできないか?」



 ツクヨミは腕を組んで唸った。



「むり・・・じゃない。

 でも、しっぱいするかもしれん。しっぱいすれば、けっかはかわらんからな。さいあく、きょうぼうなばけものになるかのうせいだってある。

 そのせきにんをしょうちのうえで、やってみるかい?」



 ツクヨミの「責任」という言葉に緊張する。

 他人(人ではないけど)の生死に関わる責任なんて負ったこともないし、負えるわけもない。でも、10ある内の1でも変わる可能性があるなら―・・・。



「僕はやるぜ!

 そして、見せてやる!このパワーを使いこなせることを!!」



 僕は全身に力を込めて、剣を抜く。


 それは、思いの外軽く抜けた。僕のことを勇者だと認めてくれたらしい。子どものころの夢が十幾年かの年月を経て叶ったのは、少し嬉しいような、気恥ずかしいような気がした。

 それで、勢いよく抜いたはいいものの、勢い余って岩から落ちてしまった。後頭部からゴチンといい音がする。

 さすがの不死身でも痛みに強いってわけじゃないことを思い知らされたぜ。


 でも、すぐに立ち上がってうーちゃんの近くに寄った。

 うーちゃんの体は既に半分溶けかけていた。本当にお役ごめんで消えてしまうらしい。



「ドウシタ?オ前タチハ、モウココニハ用ハナイダロウ?」



 いや、僕にはやらなきゃいけないことがあるんだ。やらなきゃ後で絶対に後悔する。「どうしてあの時そうしなかったんだ・・・。」って。それは嫌なんだ!

 やり方や知識はわかる。というか、神様パワーから脳に直接やり方や知識が流れ込んでくるんだ。

 だから、"必ず"成功する!!



「その前に1つ問いたい。

 もしもまだ生きられるなら、何をしたい?」



 僕の唐突な発言に、うーちゃんは目を丸くする。



「ソウダナ。生キラレルナラ・・・。

 ワタシハ、甘イ甘イスイーツガ食ベタイ。」


「・・・以外に乙女なスライムだな。」


「・・・失礼ナ。ワタシハ、メスダ。

 ソレニ、昔ココニ来タ観光客ガクレタケーキノ味ガ忘レラレナイ。」



 はぇ~、メスか。てか、スライムに性別があるのか?

 一応うーちゃんの意思確認のつもりだったんだけど、色々意外なことが聞けた。


 いやいや、それは今はおいといて―。



「よしよし、なら叶えてあげますか!」


「ナニヲ・・・!?」

 


 決まっている。神様パワーを注入するんだ!

 そして、新たな生命を吹き込む!



「この魂に刻まれた至高の力・・・今ここに解放する!


 行くぞォ!奥義『銀色の生命流動(ルナティック・ソウルフロウ)』!!」



 生命力が溜まった人差し指を、消えかけたうーちゃんに突き刺した。

 グニィ・・・と何とも言えない感触が指先に伝わる。


 瞬間、まるで虹のような輝きが目の前に広がった。これが何なのかは、神様の知識をもってしても良くわからない。けれど、きっとこれこそ新たな生命の誕生なのんじゃないかなと思った。


 それと同時にうーちゃんの体が再生していく。思ったとおりだ!



「力ガミナギッテクル・・・!」


「まだまだァー!!

 刻むぜ!生命のビートォ!!」


「あ・・・、ばかもの!

 そんなにせいめいりょくをあたえたら!!」


「え・・・―?」



 「何か問題でも?」と続けようとした時、目の前が真っ白になった。


 その直後、すごい衝撃波と共にうーちゃんが吹き飛んだ。しかも運の悪いことに、鬱蒼と生い茂る木々の中でも特にゴツゴツした大木にぶつかった。



「あ~あ。せっかく、けいこくしてあげたのに・・・。」


「警告が遅いぜ・・・。」



 それにしても、見るも無惨に弾けてる・・・。



「何だろう・・・まるでスプラトゥーンだ。」


「おーい!じょーくをいっているばあいかい!」



 厳しいツッコミだなぁ。


 とは言っても、とにかく今は現実から目を背けたい・・・。このままじゃあどう考えても、僕、殺人(?)犯じゃん!


 あんな風に茶化した感じで言っているけど、多分、僕の顔は見れたものじゃない。明らさまに挙動不審だったし、ひどく汗をかいていた。それに、心臓が痛いほど脈動している。



「とととと、とにかく神様パワーだったら何とかできるだろ、な!?

 教えてくれよ、生き返らせる方法を!」


「はあ、きみねぇ・・・―」



 ツクヨミが呆れたため息をつきつつ、何か言おうとしたその時・・・。



「ムググ・・・一度ナラズ二度マデモ吹キ飛バサレルトハナ。」



 茂みの向こうから一匹のスライムがやってきた。



「お、おお!!生きていたのか!

 さっすがだな、うーちゃ・・・ん?」



 そいつを見た瞬間、違和感に気づいた。



「ど、どうしたのじゃ!?そのぼでぃ?」



 そりゃあ、誰だって目を疑うさ。


 確かに、ちょうどいいの丸みに、ぷるんとした質感。表情の読めない顔(?)は、うーちゃんに間違いない。


 だけど、決定的に違う・・・。



「ウー???

 ドウシタ、ソンナ変ナ顔シテ。」


「め、め・・・」


「▼めたるすらいむ が あらわれた!」



 !?


 ―ツクヨミさん!!?


 まさか、先取りして言われるとは思っていなかった・・・。というか、神様なのにド○クエ知ってるのかよ!普段なにして生きてるんだと疑問に思わざるを得ないぜ。


 それはともかく、うーちゃんがメタリックに超進化した。





「オオ・・・コレガワタシノ新シイボディカ!」



 うーちゃんは水溜まりに映った姿に感激する。



(なあ、ツクヨミ。)


(なんじゃ、ひそひそごえをだして?)


(いや・・・生命力を与えただけなのに、なんで体の色まで変化するのかなぁ、と思ってな。)


(あー、それはあれじゃ。

 ほんとうなら、きゃぱをこえたちからをあたえたじてんで、ばくはつしさんするはずだったのじゃ。けど、うーちゃんがしんかしたおかげで、なんとかいきのびたのじゃな。

 うーむ、きせきとはおきるものじゃ!かみさまにかんしゃ、かんしゃ!)


(いや、神様はお前だろ!)



 ともかく、今後の冒険が心のもやもやに邪魔されなくて良さそうだ。





◆◆◆





「それでそれで?

 この剣を手に入れたはいいが、どうやって使うんだ?」



 僕は勇者の剣をブンブン振り回した。しかし、軽くてやけに手に馴染むこと以外は普通の剣・・・のような気がする。(模造剣しか持ったことないけど。)



「難シクナハイ。

 イメージスルノダ。オ前ガ最も必要トスルモノヲ!ウー!」



 僕がもっとも必要とするもの・・・。


 ああ、そうだ。なんてことはない。今の状況で必要なものなんて1つしかない。

 島を脱出する。たったそれだけのものだ。

 例えば・・・船とかだ。それも大きくなくていい。2人と1匹乗れるだけの小さなものでいい。

 さあ、イメージしろ!

「あーおなかすいたのぅ・・・。」

 希望は僕の手の中だ!!



 すると、剣が光りだした。

 眩しさに目をそらしつつも、期待で胸を膨らませた。



「うわっ・・・!?」



 いきなり腕が重くなる。

 見るとそこにあったのは、思い描いていたような船ではなく、大きな七輪だった。



「おいおい、なにをしとるんじゃ。」


「え!?い、いや・・・お前が!」


「いいわけはよすのじゃ。とにかく、これはとっくんが、ひつようなようじゃな。」


「ヤレヤレ、ココカラ先ガ長クナリソウダ・・・ウー。」



 僕のせいなのかよ・・・。





 ということで、この日からしばらくスライムと幼女に厳しい厳しい特訓を受けさされることとなった。



 ヤベェ、やっぱり早く帰りてぇ。

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