【Episode1】シェイクハンズ
「・・・う、う~ん。」
目を覚ますとそこは海のよく見える浜辺だった。温暖な気候と真っ青の空、それと後ろには見たことない木々が生い茂っている。
それ以外、周囲には何もなかった。
しかし、ここだけを見ると、本当に"異世界"なのかわからないな。
「これこれ、わたしをわすれるでない。」
どこかから声がした。
けれど、あたりを見回しても誰もいない。
「どこをみておるのじゃ!
したじゃ。したをみてみぃ!」
僕は視線を下ろした。
そこには幼稚園児くらいの女の子が腕を組んで立っていた。
もちろん見覚えはない。
「お嬢ちゃん、お兄ちゃんとどこかで会ったことあるのかな?ごめんねー、僕覚えてないんだ。」
「おろかものめっ!
あたちはきみにちからをあげたかみさまじゃ。わすれるでないぞ!」
神・・・様・・・?
頭に疑問符がわらわらとわき出た。
あの時、僕を異世界送りにした神様のことだろうか?だとすると、違いすぎないか。
こんなちんちくりんの子供じゃなかったし、服だって白いワンピースだ。それに、言葉がたどたどしい。一人称が「あたち」の神様なんて聞いたことないぞ。
強いて共通点をあげるとするなら、銀色の長い髪と、古風なしゃべり方くらいだろう。
「う、うむ。かんがえていることは、なんとなくわかるぞ。
じゃが、あたちはしょうしんしょうめいのかみさまじゃ!きみがいせかいにとばされるまえに、あたちのかみをつかんだのはおぼえているかのぅ?そのせいで、いっしょにすいこまれたのじゃ。」
・・・確かに"あの女性"のようだ。
この事の顛末を知っているのは、あの場にいた2人のみだからな。
「ああ、そっか。
でも、それにしても何か・・・色々足りなくないか?年齢とか、身長とか、胸とか・・・。」
「・・・むねのことはいちばんきにしてるんじゃ。ふれんでくれ。
・・・まあ、それはおいといて―。
じつはな・・・きみがむりやりひきずりこんだせいで、"いせかいてんい"にしっぱいして、からだがばらばらになったのじゃ。
かろうじてのこったのは、このみぎめだけじゃ。あとは、このせかいのどこかへちらばってしもうた・・・。」
「バラバラに、って・・・。よく生きていられるなぁ。さすが腐っても神様なんだな。感心するよ。
むしろ、どうやって身体を再生させたんだ?」
神様は自分の身体をぺしりと叩いた。すると、糸がほどけるようにして左半身が消えていく。
僕はその事実に驚く。そして、思いの外、事態が思わしくないこともわかった。
「さいせいなぞ、できるわけなかろう?このとおり・・・みぎめいがいは、ぜんぶ"ぎたい"じゃ。
からだがないとふべんだから、つくってはみたが・・・。よそういじょうにちからをうしなったようで、ほかにはなにもできん。
それにふじみでなくなったせいか、ふかでをおえばしぬし、きがにおちいってもしぬ。それにびょうきになってもだ。」
「そ、それじゃあ・・・僕に押し付けた力を回収すればいいじゃないか。」
しかし、神様はその意見に賛同しなかった。逆に、声を荒らげる。
「だめじゃ!!
きみにあげたちからは、はんぶんとはいえ、ぜんうちゅうをしはいできるほどのちからじゃ。そんなものをいまもらっても、きゃぱしてぃおーばーをおこして、わたしはそんざいごとしょうめつしてしまう。
そうなれば、きみも、もとのせかいにかえれなくなるぞ。」
元の世界に帰れない・・・だと?
絶望的な状況を目の当たりにして、へなへなと力が抜け、砂の上に座りこむ。
「マジかよ・・・。
他に帰れる方法はないのか?」
「いや、ないわけじゃない。」
「そうなのか!だったら早速その方法を―!!」
立ち上がろうとした。
だけど、神様はそれを止めた。
「―まあ、おちつくのじゃ。
たしかに、ほうほうはある。じゃが、きみがきけんなめにあうことになる。それでよいのか?」
「別に構わないよ。奇しくも神様パワーで最強になったんだ。できないことはないんだろう?」
「うむ、そうだな。
ならば、おしえてやろう。そのほうほうは・・・―
―このせかいにちらばったあたちのからだをあつめることじゃ!
どうじゃ?できるか?」
神様はグッと拳を握りしめて、力強くいい放った。まるでどこかのドラゴンな玉の少年漫画みたいなノリだな!?
ともかく、その提案は飲まざるを得ない。ここにいたってどの道、貧弱化した神様はご飯がなくて死ぬことになる。ならば安全を確保するという意味でも、まずは旅をしなければならないだろうな。
それに、せっかくチート能力を持って異世界に来たんだ。モンスターやダンジョンを攻略したり、美味しいものを食べたりして満喫したい!
「いいよ。この僕に任せなさーい!
お前の身体を探すくらいなら、ヨユーだ!すぐに全部回収してやるからな。
ただ、僕の方からも約束させてくほしい。」
「よいぞ。」
「もし全部回収し終えたら、必ず元の世界に帰れるようにしてくれ。
それでその後は、迷惑料代わりと言ったらナンだけど、神様のゴハンでも奢ってほしい。
・・・いいかな?」
神様は少し考えた。
けれど、すぐに結論は出たらしく、子供のような(実際子供なんだけど・・・)笑顔を見せる。
「きっと"ながいたび"になるだろうが、それがおわれば、やくそくをかならずはたそう。
もちろん、きみとのしょくじもな。」
そして、手を差し出した。
「ほれ、あくしゅじゃ。
ふほんいかもしれんし、いまのあたちはなにもできないけど、これからは、ぱーとなーじゃ。
よろしくたのむ。」
僕は喜んで彼女の手を握った。
その小さな手は、幼くも、たくましく思えた。
「こちらこそ、だ!」




