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【Episode10】入会

 僕たちは奥の会議室に案内され、座らされた。前に登壇しているのは変人・・・もといギルドマスターのノーネームと、受付のナージャ・トランプリンだ。



挿絵(By みてみん)

「すゎーて、お互いに紹介を終えたところーDEッ!

 カケール君、ここに車エビ・・・じゃなくて来る前に、誰かから何かを貰わなかったかーい?YO!」



 この変人(一応、ギルドマスター)は、相変わらず痛いし、ねっとりしてるし、イライラするしゃべり方をしている。



「あ・・・、あぁ。

 船長から、ゴールドカードを3枚・・・。」



 僕はポケットからそれらを取り出し、机の上に広げた。


 すると、ナージャが食いつく。



「ゴールドカード!?

 ゴールドカードっていったら、ギルドランクS級以上の証じゃないですかナ!!わたしだって、まだシルバーカードなのに・・・!」


「落ち着きタマーエ、ナージャ・トランップリン!君ももうじきゴールドウーマンになれるサ。


 それよりこれをくれた相手は、遊覧船クラーケンのキャ~プテーーン!シジルじゃないのぉ?」


「━!!

 そのおっさんのこと、知っているのか!?」



 ノーネームが答える前に、ナージャが手を降りながらピョンピョンとびはねる。



「はいはーい、わたしも知ってますし、会ったことあるですナ!


 シジルさんは、先にあった大きな戦争で活躍した伝説の船乗りですナ!

 砲弾や瓦礫の降り注ぐ中、イカダから大型船まで、ありとあらゆる手段で人・魔物問わず救い出した武勇伝は今でも語り継がれているのですナ!」



 あの人、そんなにスゴかったんだな・・・。



「そして、ナゼ知ってるーのか、だーね?


 ・・・実はここにカエール前に、シジルから君たちのことは聞いていたのダー!!カレハ僕ちゃんのマ~イフレンドだからーねー!」


「なるほど。つまり、あのとき、あたちたちがさわぎをおこさなくても、こえをかけるつもりだったのじゃな。」


「そのトゥーリよ!!


 HOWEVER、事情を聞いて思ったのーダガー、君たち・・・特に、カケール君はべりー興味深いネ!


 プホッ!

 魔王に・・・プフッ、闘いを挑んで・・・カエリウーチッ!!グフフフ!」



 そして、大声で笑い出した。


 何かもう・・・ここまでバカにされると、イラッを通り越して逆に清々しいなぁ。



「・・・それで、港に着いた後、その人からカードを持って、この建物に来るよう言われたんだけど?」


「ワタシト、ツクヨミモダ。トリアエズココヘ来レバ、何トカナルト言ワレタンダ。」


「ウィ。ソリャ、異世界人を見つけたら、コッコー(・ ・ )へ案内するようシジルに頼んだのは、僕ちゃんだからだYO!」


「んん?おまえさんが?

 それまたどういうことなのじゃ?」 



 ツクヨミの質問に対して、何でかわからないけど、ノーネームは答えるのを少しためらった。

 しかし、1つ深呼吸をして、冷静に、慎重に言葉を選びながら答えてくれた。



「そ~れはこのギルドの根幹に関わるところさんだね。詳しくはロングロングで話せヌッ!けど、かいつまんで説明するぜー!!」



 ノーネームは大袈裟に背伸びをして、教壇に両手をついた。



「ど~の世界もそうダガー、例に漏れずこの世界にも過酷(・・)なケースは往々にしてあるン!!

 特にイセカイ人は、言葉も通じない、常識もわからない、ここがどこだかもわからない、何もわからナッシングッッッ!!

 ・・・それは過酷だーね。


 HOWEVER(本日2回目)、だからって誰かが助けてくれるわけでもな~い!」



 文字面だけ見ると相変わらずの脳ミソカーニバルだけど、声のトーンは真面目そのものだった。それに、言葉の節々からは寂しそうな感情が溢れていた。



「イイ町、イイ人に出会えれば、それはチョーハッピーなーのだッ!


 だけど、フツーはそうじゃな~い。」



 その時、ナージャが教壇から降りる。それから、僕たちの目の前に立った。



「かく言う、わたしも元は異世界人ですナ。けど、最初にやってきた場所は洞窟のド真中。


 真っ暗闇をわけもわからず彷徨っていると、鍾乳石の影から猿のような大きな『モンスター』が現れたのですナ。そいつは明らさまな敵意を持つモンスターだったナ・・・。」



 ナージャの体が小刻みに震える。



「今でも夢に見るッ!


 牙を剥いて襲いかかってくるアイツを・・・。でも、なす術もなく、モンスターに捕まり、何度も何度も殴られたナ・・・。


 そして、全身血まみれで虫の息になったその時・・・。」



 ナージャはスカートを捲し上げる。


 僕は反射的に顔をそらせた。

 けど、そっぽを向く前に見てしまった・・・。





 彼女には両足がない(・・)

 正確に言えば、右足の腰のつけねから下と左足の膝から下が、レギンスブーツみたいな義足となっていた。



 その生々しいからだに、ツクヨミも、スライムのうーちゃんでさえも驚く。



「ナージャ、毎回スマネェな・・・。」



 ノーネームはナージャの手を持ち、上げたスカートを降ろさせた。



「いいんですナ、マスター。ここまでしないと、わかってもらえませんからナ。」



 そういいながらも、ナージャは頭を差し出す。

 仮面の男は慈しみ深い眼差しをして、その頭を撫でてやっていた。



「・・・でもよぉ、ナージャみたいなチャイルDは特別じゃないんだワ。

 今はムカシーだーけーどー、異世界から来た子の3人に1人はすぐ死んでいたんだ。そして、3人に1人は奴隷や浮浪者に・・・。

 まとぅもに生きられるのなんか、その中でたった1人なんでぃッ!!そんなの悲しい・・・。悲しいデスッッッ!!



 ダカラカラダ、僕ちゃんがギルド『アモル=リベリス』を創ったんじゃよ。どんな人や魔物でも、居場所(・・・)をツクレールように、居場所(・・・)をMIUSHIわないように・・・。

 ッテナ!!」



 最後に奇っ怪な笑い声をあげる。


 ここまで見てきて思った。

 この男・・・素振り自体はどうかんがえてもイカれている。けど、表面上のデタラメな性格は仮面(ペルソナ)で、その心の底には、僕じゃ到底敵わないモノを秘めている・・・ような気がする。



「このカードは、その居場所の証・・・?」


「そーさー!!


 コレは『ギルドカード』と言ってネッ!!我が子どもたち(ギルドメンバー)に持たせているものだよ~ん。


 いつでもコッコにリターンできるYOU!に、魔法のマップや解説機能も付いている。それに、この世界の身分証明書にもなる~し、自分のステータスを見ることもできる~し・・・。

 イイことづくめじゃネーカヨォ、ああん!?」


「えぇ!!?でも、お高いんじゃないですかナ!?」



 ・・・ん?

 さっきのシリアスな雰囲気が・・・。

 気のせいかな?



「ンニャァァァァアアア!!とんでもねぇ!


 コイツァ、ギルド『アモル=リベリス』に入会すれば、誰でも貰えるんだゼェェェエエエ!!!

 しかも、コイツと併せて、初心者の館『Welcome to 異世界』の特別講義付きだ!ここで暮らすなら絶対必要だZO!!」



 ・・・!!?



「わぁ!ステキですナ!!

 これはもうアレなんですナ!!」


「そうどぅあ!!

 これはMOW、入会(・・)するしかねぇヅラ!!


 な!カケール君たち!!」



 これって・・・



「マルチ商法じゃねーか!!」



 やっぱりコイツはまともじゃねぇ・・・。





 とは言いつつも、選択肢はなかったと思う。

 僕たちの旅目的は、元の世界に帰ることであり、前段としてツクヨミの体を集めなきゃいけない。それは忘れてない。

 けど、何を探すにも、この世界のことをもっと知る必要がある。それに、生きるためのお金と拠点は必要だ。話を聞く限り、ギルドに所属すれば、少なくとも知識と金はどちらとも簡単に手に入りそうだ。

 ならば、入らない手はない。

 ツクヨミとうーちゃんと話をして、そういう結論に至った。

 




「入会、するのカイ?しないのカイ?どっちだい、YOU!?」



 仮面の変人は、頭が地面につくほど反り返りながら煽り立てる。



(・・・やっぱ、入会するのやめようかな?)



 そう思っていると、ナージャが仮面にかかと落としを極めた。ノーネームはグヘェと言った後、地面で悶えている。



「とりあえず、この変質者は置いといて・・・。


 ━このギルドは入会したからって、厳しいルールや拘束はないし、かといって出来る限りのサポートはするですナ。それに、もし合わなかったら、辞めてもらって構わないですナ。」


「・・・コイツハトモカク、ソレヲ聞イテ、安心シタ。イイ事ジャナイカ!」


「そうじゃな。それじゃあ、あたちたちはにゅうかいすることにするよ。


 よいか、かける?」


「ああ。」



 その返事を聞いた瞬間、ノーネームはむくりと立ち上がる。



「すんばらシイィーーー!!その返事が聞きたかった、タカッタ!!


 ほいじゃ、さそーく入会手続しまSHOWか!」


「入会手続・・・。つまり、書類とかにサインすればいいのか?」



 正直そういうのは面倒くさいなーと思う。

 元の世界で住民票を移すとかで市役所に行った時だって、訳もわからず書類を書かされたものだ。今更ながら思うけど、あんな書類、書く方も、受けとる方も面倒だろうにな。

 だからそれを思い出して、ちょっと憂鬱になっているんだ。


 けど、ノーネームはチチチと指を降った。



「ンニャニャ、そんな煩瑣(はんさ)なことはシナ~イ。書類の管理も大変だし、ボーケンシャの中には無くしたり、盗まれちゃ~う困っチャンがいるからねぇ。


 それよりGOODな方法がアル~ノだよよ、ニューフェイスたーちー!!」


「グッドな方法・・・?」


「ウム。


 ━ナ~・・・ジャッ!例のモノを持ってきてくレンヌ!」



 するとナージャは、奥の方に消え去る。


━ガコンッ!!ガコンッ!!


━ギ!ギ!ギ!ギ!


━ドーンッ!


 見えないが、何かとてつもなくデカイ扉を開けているような音が聞こえた。



 それから数分後に同じ音がして、また戻ってくる。


 その手には、青色に輝くクリスタルがいくつか握られていた。



「コイツァ、『タリスマン』の欠片だ、YO!!

 見てくれ、この輝き!透明度!!世界のどの宝石よりもウーツクシーー!!!」


「はいはい。



 んで、これをどうするんだ?」


「ンモウ、つーれなーい・・・。



 で、これをね、こうしてネ、体に取り込むのー!!!

 そうしたら、登録完了ナリーーーー!!FOOOOOOOO!!」



 仮面の変人は絶叫しながら真っ黒い手袋を外した。その下の剥かれた肌はマネキンのように白く、骨よりも細かった。

 本当に生きてるのか・・・?そう疑いたくなる。


 それはともかく、ヤツはナージャの手から取ったクリスタルを手の甲にかざす。


 すると、クリスタルが腕に吸収されていった・・・。ただ、よくあるファンタジーものみたいに体に浸透していく~みたいに神秘的なもんじゃない。

 なんか・・・文字通り皮膚に

取り込まれ(・・・・・)ていて、グロテスク映像を見せられている気分だった。



「ちょっ・・・!

 それだいじょうぶなもんなんじゃろうか!?それをきゅうしゅうしたら、あたまおかしくなった・・・なんてことないじゃろうな!こいつみたいに!」



 ツクヨミはあわあわしながら(若干かわいい)、変人の方を指差した。



「心外だよ、ツッキーちゅわ~ん!僕ちゃんはいつでもマ・ト・モなんだかLA!!」



 まるでプリンのようにクネクネしながらセリフを吐いたせいで、ツクヨミは気持ち悪そうにしていた。



「マ、それはおいとキーノ、安全性は保証する~よ。何ならナージャや他のチルドレンにも聞いてみるがヨヨヨイ!!」


「ナージャチャン、ソウナノカ?」


(アレレ、おっかしーぞぉ?僕ちゃん信用ナッシング?)


「・・・確かにちょっとグロいけど、安全なのは間違いないですナ。それに取り外しも自由だから、お休みの日とか外したい時に外すこともできますナ。」



 ・・・うん。この子はしっかりしてそうだから、大丈夫そうな・・・気がする。



「やってみるっきゃないじゃろうな。さいわい、かけるはなにをしても、ほぼしぬことないからな。」


「モシ、ダメソウナラ、ヤメレバイイシナ。」



 そう言うと、2人は僕の方を見た。



「え?・・・え、僕!?」



 おいおい、勘弁してくれよベイビー。そんな悪意のない目を向けられると、断れなくなるじゃないか。

 ・・・でもな、いくら不死身とは言え、何かしらのリスクを負う可能性は自覚しなきゃな。



「よ、よし・・・わかったぜ。

 その代わりと言っては何だが、船での一件はこれでチャラにしてくれないか?」



 その提案に、ツクヨミとうーちゃんは各々で思案する。



(これはダメか・・・?)



 そう思った矢先、わりと早く答えが出た。



「ワタシハヨイゾ。船デノコトハ、ココデ食ベタオ前分ノスイーツト、ソレデ許シテヤロウ。」

 

「ふむ。あたちも、それにいろんはない。」





 僕はナージャの手からクリスタルをつまみ上げた。


 確かにキレイだ。

 その少し歪な六角柱の形の中は、透明と水色のコントラストがあり、それは本物の水のように絶えず気泡を揺らめかせていた。さらにその中心には、何かよくわからないけれど、ぼんやりと煌めくモノがあった。



「付け方は簡単ですナ。それを自分のからだに軽く押し当るのナ。それだけなんですナ!」



 僕はノーネームと同じように、クリスタルを手の甲に当てた。


 ほんのり冷たい。それに、石らしい感触もする。


 だが違和感はすぐに現れた。クリスタルの触れているところが、火で炙られたように熱くなっていく。



「うぐぐ・・・ぁ、あつい!」



 同時にアイツに起きた現象が僕の身にも起きる。

 手の甲がグニャリとへこんでクリスタルが取り込まれていく感触は、なんともいえないほど気持ち悪い・・・。



「・・・グギギ。」



 気持ち悪い・・・。


 いや、痛い!!い、痛すぎる!!全身に毒を塗られたような燃える痛みだ!

 アイツは、こんなのを平気な顔で耐えていたのか・・・!?



「だ、だいじょうぶか、かける!?」


「シッカリシロ!」


「・・・ナ、なんか、おかしいですナ、マスター!?」


「いや、これで(・・・)いい。直に落ち着くさ。」



 けれどそれは、悶える僕の耳に届かなかった。



 しばらくして、なんとか痛みが治まった。

 その頃にはクリスタルは跡形もなく、僕に吸収されたようだな。



「次はツッキーたちのBANだーネッ!!」


「・・・ほんとうに、だいじょうぶなんじゃろうな?」


「ダイジョーブダイジョーブ!ああなるのはカケール君だけダカラ!」



 オイ、どういう意味だそれ?



「マア、ソレナラ次ハワタシガヤッテミルカ・・・。」



 今度はうーちゃんがクリスタルを1つとる。


 そして、パクリと食べ(?)た。









 うん、僕以外はすんなりだったよ・・・。


 なんで僕だけ・・・。


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