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【Episode9】ギルド『アモル=リベリス』

 さて、港からホドホドに歩いたところに、白いレンガ造りの壁に、青い屋根の建物があった。

 シジルが指差していた建物に間違いない。



 いやー、しかし高級そうな扉を前にして胸が高鳴るなー!いよいよ異世界モノっぽくなってきたのもあるけど、何よりこの先にアイツらがいてくれるのは大きい。


 独りぼっちじゃない。そうわかった時の気持ち・・・わかるよな?



「お邪魔しまーす!」



 勢いよく扉を開ける。





 中に入った瞬間、圧倒された。

 高級そうな受付に、飾り窓。それに花や壺が豪華絢爛に並べられていた。僕の世界でも、こんなに豪華な場所は写真とかでしか見たことがない。


 いや、ビックリしたのはそれだけじゃない。

 見た目が荒くれ者ぽい大男や、陰気くさいフードを被っている2人組や、盗賊のように鋭い目をした女性や・・・言ったら失礼だけど、内装に似つかわしくなさそう人たちが賑やかにしていた。



「おーい、かけるー!

 おそいぞー!」


「モウオ前ノスイーツ食ベチャッタゾ。ウー!」



 その中でも異彩を放つ2人?組がいた。奥の待ち合わせ室から手を降る幼女とスライムである。



「ツクヨミにうーちゃん・・・生きててよかった。」


「ま、すわるとよい。」



 ツクヨミに押されるがまま椅子に座る。



「まずは、あたちからいいたいことがある・・・。」


「な、何でしょう?」



 ツクヨミの冷ややかな目を見て、ドキリとする。うーちゃんは・・・元々表情はないけど、きっとツクヨミと同じ目をしているんだろうけど。

 その原因は間違いなく僕が早まった(・・・・)からだ。


 でも、それで怒られるなら、僕は目を逸らせちゃいけない。



 しかし、ツクヨミのとった行動は斜め上を行っていた。

 さっきの言葉をいい終えた後すぐに、少し机から離れた。普通なら意味もなくうろついたのだと思うだろう?

 けど、いきなり僕目掛けて走ってくる。


 そして、ジャンプ━!


 も、もしかして・・・!



「このぉ・・・ばかちんがぁぁあああ!!」



━ドゴオオオオオオォォォォン!!



 見事なドロップキックッ!?


 僕の身体は椅子ごと後ろの壁へ吹き飛ばされた。



━バコーン!



「い、いってー!!」



 絶対中身つぶれた!絶対中身つぶれたよ!


 僕は壁に打ち付けられた頭を抱えて悶えた。

 周りの荒くれ者は何が起こったのかわからないという風にキョトンとしている。


 けど、ツクヨミはくたばっている僕を見下げて、容赦なく声を荒らげた。



「さいてーだ、きみはっ!! 


 ちょっといいところが、あるとおもったやさきじゃ!まさか、わけもわからずあんな(・・・)ことをいいおるとは!

 いや・・・まだそれはゆるせる。

 いちばんゆるせん(・・・・)のは、あのとき、ひきさがらなかったことじゃ!!」



 僕はムッとした。

 頭の痛さも忘れて、ツクヨミの前に立ちはだかる。



「確かに僕はバカなことをした!でも、お前たちを守るためなんだぞ!

 そんなことを言ったら、ボコボコにされた僕が報われない(・・・・・)じゃないか!」


「これはむくわれる、むくわれないのはなしじゃない!


 それに、あたちたちをまもるためなんて、ていのいいうそをつくでない!きみはじぶんのためにたたかい、ただまけたのじゃ。


 いっておくが、あいつらは、はなっからあたちたちに、なにかするつもりはなかったぞ!そもそも、きみが『まおうをたおす』なんていわなかったら、なにごともなくこれたはずじゃ!」



 ・・・う。



 僕はガックリと肩を落とし、起こした椅子に座った。ツクヨミはそっぽを向いて同じテーブルにつく。



「おーやおやおや~!?

 ンンーッ!兄妹喧嘩デスか?


 こりゃ良くないデスねー!」



 変なヤツが割ってはいっちゃったよ。


 その男は、まるで針金細工のように細長い体をしていた。それに、陰気臭いを絵に描いたような服装だ。(ただ、あえてフォローするなら・・・、う~ん、頭の黒いマスクだけは中二っぽくていいな。)

 さらには、コイツのテンションといい、服といい、別の意味で異世界だ。



 そんなわけで、僕もツクヨミも直感でわかった。



(コイツ、関わっちゃいけない類いのヤツだ。)



「おやーん?どうしたー?

 僕の顔に何かついておりましたかー?こりゃ失ッッッ敬!!」



 さらに、大袈裟なポーズもイラッとする。



「いや、あんたの顔には何もついてないし、兄妹喧嘩でもないです。

 放っておいてくれませんか?」



 僕は突っぱねた。これは僕たちの問題だ。だから、部外者には首を突っ込んでほしくない。



「放っておくッ!?了ッ解しましたッ・・・デス!」


「わぁお、すごくイラッとする。」


「かける、そのいけんにはどういじゃが、くちからでておるぞ?」



 おっと、ついウッカリ。



「ヌハハハ!ジョーダンがウマいボウヤじゃねーかYO!!

 しかーし、ワターシが君たちを放っておくわけにはいかーん!いかーんいかーん・・・(エコー)。


 なぜならッ!ここは僕らの楽園━ギルド『アモル=リベリス』!!


 ここにいる限りはッ、みーんな愛すべき子どもたち(・・・・・・・・)デース!


 な・ら・ばッ!


 西に困っている子がいるなら助けに行き、東に病気の子がいるなら看病してあげるのが、私たち()の役目ーではありマセンカー!?」



 ヤベェ!気まずい雰囲気をぶち壊してくれたのは嬉しいんだが、スッゴく殴りたくなる!



「めっちゃなぐりてぇ・・・。」


「ツクヨミ・・・、今度はお前の口から漏れてるぞ。


 ま、殴るのには同意だな。」

 


 僕たちは、ジッと変質者を見た。



「ちょー!ちょっと待ってくださいなんだナ!」



 僕たちのやりとりに気づいた受付の女の子が、慌てて間に入る。



挿絵(By みてみん)

「もー、マスター!

 お客様のご対応するときは、普通にしてくださいっていつも言ってるナ!普通(・・)に!

 この間もお客様をイラつかせて、殴られたばかりじゃないですかナ?」



 やっぱり殴られた経験あるのか・・・。



 ん?

 そう言えば、この子、この変質者をマスターと呼ばなかったか?



「ンンン~~~~!!

 そーうさー、僕こそ、この楽園(ギルド)の創始しゃ・・・


「━この人は当ギルドのマスター『ノーネーム』ですナ。


 ・・・ただの変人ですナ。それだけですナ。」


「アレー!?アレー!?

 僕の紹介、それだけ!?もっと・・・


「ちなみに!当ギルド『アモル=リベリス』は、異世界からやって来た方々の身分の保証や働き先の斡旋(あっせん)や・・・とにかく、色々やっているギルドですナ!」



 なるほど、この奇人は内部でもそういう扱いなんだな。

 それを不満に思ったマスター(笑)が、後ろの方でギャーギャー言っている。

 けど、それは無視するとして・・・


 

 この受付の子の言う「ギルド」には興味が湧いた。



「ギルドかぁ・・・。異世界モノの定番だな!


 やっぱり、冒険者ギルドとかあるんだろ?」


 

 受付ちゃんは嬉しそうに頷く。



「もちろん、あるですナ!でも、それだけではないですナ!



 ①教育ギルド

 異世界に来た身寄りのない子どもたちを中心に、生きるための教育をしているですナ。

 実はナーも受付になるまでは、ここで教師をしていたのですナ!


 ②各種職人ギルド

 元の世界の知識を生かして、モノやサービスを提供するギルドですナ。

 これは何といっても幅広いし、自由度が高いですナ。

 起業する場所も選ばないし、個人単位のギルドだったり、1000人単位の大きなギルドだったり。

 だから、一番登録者数が多いですナ。


 ③商人ギルド

 これは読んで字のごとくですナ。日用品とか、食品とか、各地の名産とかを取引したりするですナ。


 ④冒険者ギルド

 そして、みんなの憧れ、スター的ギルドなのですナ!

 各地のギルドの掲示板や受付で依頼を受けて、魔物退治やダンジョン探索をするナ。キケンはイッパイだけど、その分報酬は高いですナ!

 実は、この前引退したケレス君って子は、それで大儲けして王都で豪邸暮らしナ!



 そんな感じに、複合ギルドとして手広くやってるってことですナ!」




 キターーー(゜∀゜)ーーー!!!


 ついに『異世界に行ったら絶対にやりたいことランキング』(自主製作)で毎回トップ5入りしている「ギルド」に巡り会えた!

 しかも、儲けられる!?王都で豪邸!?

 夢にまで見た異世界生活が今ここに!!ウヒョ~!!



「お客様たちはこの世界の住人じゃないのかナ?何で知らないのナ?」



「え?」


「え?」



 僕たちと受付さんの頭の上で、クエスチョンが飛び交う。



 すると、ギルドマスターが落ち着いた様子で間に入る。



「受付改め、ナージャ・トランプリン。彼女たち(・・・・)は間違いなく異世界人だよ。そこのスライムちゃんはこっちの子みたいだけどね。」



 さっきまでとは、うって変わって普通のしゃべり方だ。


 それよりも・・・


 そう言えば、うーちゃんも船長も魔王軍団も、みんな最初は異世界人だとわからなかった。

 それは何でだろう?


 その疑問はツクヨミの口から投げかけられた。



「おい、ますたー。」


「なんだい、おじょうちゃん。おといれは、つきあたりをみぎだーにょ?」


「あたちのしゃべりかたのまねをするな!おてあらいでもない!


 ━はおいといて、どうしてあたちたちが、いせかいからきたとわかったんかのう?だいたい、そこのうけつけみたいなはんのうだったのじゃが。」


「ンンー?そりゃ、WAKARUさ!

 僕ちゃんはマスタァァァァーだからねェー!この両目にかかれば、朝ごはんから人生まで、まるっとお見通しサッ!!


 逆にナージャCHANはナンデ(・・・)わからなかったのかい?」


「わからなかった理由ですかナ?


 そりゃ、こっちの言葉で話しているからナ!普通、異世界人がこっちの言葉を知っているわけないじゃないですかナ。」



 言葉・・・?


 僕はツクヨミを見た。



(なぁ、この世界って日本語話してるよな?)


(ふーむ。たぶん、それは、きみがかみだからじゃろ。あたちもそうじゃが、かみにはことばはない(・・)。)


(言葉がない!?えっ、じゃあどうやって意志疎通するの?)


(・・・いいかたがわるかった。

 かみは、いしのでんたつをことばてはなく、こころ(・・・)でするのじゃ。じゃから、とくていのことばにさゆうされることはないということ・・・なのじゃろう。)


(何であいまいなんだ?)



 すると、ツクヨミは歯切れ悪そうにする。



(・・・うぐぐ。そこをつっこむのか・・・。)


(えー、聞かせてくださいよー、(神様の)先パーイ。)


(あ、あたちは・・・。


 ・・・かぞくとおつきのものいがい、ほかのものとあうきかいが、あまりないのじゃ。


 だから・・・そのぉ・・・。)



 ツクヨミはモゴモゴと口ごもる。


 わーお、実は引きこもりだったの!?中々衝撃的な事実が開示されたな。



(プフッ、なるほどな。わかったわかった。

 けど、こういう場合『自分が神様だから~。』って言ってもいいものなのか?)


(うーむ・・・、やめておいたほうが、よいじゃろうな。

 このせかいのかみさまのあつかいがわからないし、それに、きょうだいなちからをいいようにつかわれてもこまるからな。)


(オッケー!今後もそういうスタンスでいったほうがいいな。)



 僕は答え待ちをしていたギルド2人に向き直る。



「話はまとまったヨウだねぇ!」


「ああ。けど、どうしてコッチの言葉が解るのかはわからない。そもそも、最初にこのスライムと出会ったときから話せてたもんな。

 な、うーちゃん?」


「ソウダナ。ダカラ、ワタシモナージャト同ジ勘違イヲシテイタ。」



 ノーネームは自分のマスクの顎をなでる。



「なーる。つ・ま・り、これはア・レ(・ ・)というわけだーねェ!ナ、ナージャ!」


「そうなんだナ!いわゆる、アレなんだナ!」



 2人とも顔を合わせて頷いている。


 えっと・・・。つまり、どういうことなんだってばよ?



「ムホホホホホッ!!それについては別室でお話しよう。



 君たち、このギルドマスタァァアアアー『ノーネーム』からの特別授業だよ?


 心して受けるがヨイッ!!ヨイ、ヨイ・・・(エコー)」



 ・・・やっぱウゼェわ。

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