【Episode8】港町べレム
「・・・ん。・・・あぁ。」
目を覚ますと、どこかよくわからない場所で木箱に囲まれて座らされていた。ただ、何だか潮のにおいがするから、海が近くにあるのだろうということだけはわかった。
「いてて・・・。
確か僕は魔王に負けたんだっけ?なそれで海に落ちて。その後、多分、ツクヨミたちは━・・・。
じゃあ、なんで僕は生きているのだろう?」
すると、箱の影から2mくらいの大男が現れ、箱に寄りかかりタバコをふかせた。
「起きたんだな。
・・・やれやれ。兄チャンは賢いかと思ったけんども、思いの外バカだなァ。」
コイツはシジルだ。船で気絶した僕を介抱をしてくれた恩人・・・いや、恩リザードマン?である。
「シジル・・・、ここは?」
「ケセド国の港町べレムだ。兄チャンが目指してた魔王の国からは1つ国を越えたところにあるぜ。」
誰が助けてくれたかわからないが、どうやら僕は無事に助かったようだ。
「ところで、兄チャンらぁ、異世界からやってきたんだねェ?」
「あぁ・・・。」
「それなら仕方ねぇかァ・・・。知らねぇってのに罪はねぇからナ。でもな、お節介かもしれねぇが、無知もボウヤの行動次第でいくらでも罪にもなり得るんだゾ。
その観点から言えば、今日のは最悪だ。兄チャンとこの魔王がいくら悪いヤツだからって、別の世界にまで手を出そうとしちゃいけねェ。ちなみに、この世界じゃ魔王ってのは、単なる魔物の王様って意味だからナ。
だから、あの時の正解は『逃げる』だったんだろうナ。
それに、もし今回の件で本当に殺せちまったら、その国の頭がいなくなっちまうところだったんダ。きっと民衆は困ル。もしかしたら、内紛や混乱で死ぬヤツも出るかも知れねェ。
兄チャンのやったことは、そういうことダ。
━ま、有り体に言えば、よく考えろ!って話サ。」
この男の話は至極真っ当だった。真っ当すぎて心の奥底深くに突き刺さった。
正直、僕は調子に乗っていたん。
神様のパワーも手に入れたし、仲間もいる。そして、勇者の剣に魔王という存在だって━。
そんなものがあれば、僕も異世界でやりたい放題できる!僕の世界の理不尽さから解き放たれる!と思った。
それで、まずは何でもいいから目についたもので発散させたくなったんだ。
だから、本当は嬉しかった。魔王が悪の魔王らしく振る舞ってくれたことが。自分から敵だと名乗り出てくれるほど手っ取り早い話はないしね。おかげさまで、そのおかげで、ツクヨミを守るという名目も立った。
でも、結局はこの結果だけどね。
「でも、スゴいですね、シジルさん。まるで人を導く賢者みたいだ。」
「オ?急に弱くなったじゃねぇかィ?」
茶化したような笑いをする。
けど、少しだけ心が緩んだような気がした。
「・・・ま、オレァ、賢者じゃねぇけども、船長だからナ!
だから、他人の物語なんて大層なもんは導けねぇが、帆を傾けることぐれぇはできるサ。
だからこれから頑張りねぇよ、新入りサン。」
シジルの声は先ほどの荒くれとは違った、優しく暖かみのある声になった。
けど今度は、それが逆に心を締め付けた。貶される方が何倍も楽だった。
「反省してるようだなァ。」
「はい・・・。でも省みても続く先がないんです。僕は・・・これから独りぼっちでどうしたらいいんですかね?」
「続く先がない?独りぼっち?そうかィ?オレァ、そうは思えないがなァ。
マ、強いて助言するなら、コイツを持って━」
僕の目の前に3枚の金色のカードが投げられた。
「まずは、あそこにある青い屋根の建物に行ってみロ。彼女たちがお待ちかねだぞっト。」
それを聞いてハッとした。
「シジルさん・・・!」
「いや、オレァ何もしちゃいねぇヨ。兄チャンの運がよかったんだろうなァ。」
「そうですか。でも、ありがとうございます!!これからはうまくやります!きっと世界一の異世界生活を送ってやりますよ!」
「そうかィ?それじゃあナ。
もしまた困ったことがあったら、港に来るといイ。いるかもしれねぇし、いないかも知れねぇけどナ。」
僕は威勢のいい見送りを背中に受けながら、町に飛び込んだ。
しばらく町中を歩く。
中世的で様々な建物が立ち並び、ところどころに透明なショーケースが張られている。その向こうに、キレイなドレスやタキシードを飾っている店もあれば、美味しそうなパンやスイーツが陳列されている店もある。
その中で人々・・・というか半分は魔物たちが、ニコニコしながら道を行き交っている。
どうやらここは、人と魔物が共生している町らしい。
その光景を目の当たりして実感したのだけど、本当にこの世界の魔王というのは単なる「魔物たちの王様」という位置付けなのだ。だとすれば、あの時の僕の行動はみんなからどのように移ったのだろう?
それを考えると、早足にならざるをえなかった。