【Prolonge.】Welcome to 異世界!
擦れた現実の、電車の窓に映った疲れた自分の顔を見て、現実逃避をしてみたくなる。例えば小説みたいに、マンガみたいに、全然知らない世界に行けたらなと思わないかい?
剣があって、魔法があって、勇者になって、魔王を倒して・・・―。非日常でワクワクするような日常に身を投じる。
そんな「異世界」に行ってみたい!
だけど、現実はそんなに甘くはなかった・・・。
◆◆◆
事の発端は大したことじゃない。
いつものように大学の講義終了20分前くらいに抜け出し、大学近くの弁当屋でドクターペッパーとチョコっとお菓子を買って帰っていた。1ヶ月に1度くらいはこのように自主的に早退して、アパートでゆっくりサボっている。ま、ちょっとした息抜きってわけさ。
さて、この日も半透明のビニールを振り回しながら、小気味良く歩いていた。すると、その道すがらにごみ捨て場にカラスが群がっているのが見えた。カラスの集団にしては異常に多すぎる。通常どれだけ多くても10匹、20匹程度だろ?でも、そんな数じゃない・・・。こんな光景は普段見るようなものじゃないから、不思議に思ってのぞき込んでみた。
ヤツらはまるで地元のヤンキーのように一斉に睨んできて、そのまま逃げるように飛んでいった。
空中に漂う鳥たちの羽毛を払い除けて、もう一度ゴミ捨て場を見る。
そして、そのゴミ山に残されていたのは、目を回して倒れている銀髪で、乳白色のドレスを着た少し年上っぽい―とてつもなく綺麗な女性だった。
正直言うと、最初に頭に浮かんだのは、その子がかわいいからどうかしようとか、助けなきゃ!とかではなかった。
(あー・・・。朝っぱらから事件に巻き込まれるとかイヤだなー。ここを通りがかった他の人に任せたいなー。でも、放っておくのも決まりが悪いし・・・。)
で、渋々近寄って、軽く肩を揺さぶってみた。
「すみませーん・・・。
大丈夫ですか?事件ですか?事故ですか?110?いや、119が必要ですかね?」
彼女はハッと目を覚まして、起き上がった。
「た、助かった~・・・。あのカラスたち容赦ないのう。」
「あの~・・・。」
無視されたから、もう一度声をかけてみる。そこでようやく僕の存在に気がついてくれた。
「お、おぉ・・・。君じゃな、私を助けてくれたのは?」
「別に助けてませんが・・・まあ、声をかけたのは僕です。」
「うむ、道端に倒れているヒトを助けるとは、よい心がけじゃ!」
ゴミの中で偉そうに腕を組んでいるところを見ると、相当頭がイッてる女性なのかもしれないと思った。
「ま、まぁ・・・元気そうなんで僕は失礼します。」
「チョイ待つのじゃ!!」
僕の肩がガシリと掴まれた。その力は人間とは思えないほどだった。
僕は恐る恐る首を回す。
「な、何でしょうか・・・?」
女性はニンマリと笑う。
「助けてくれたお礼をしないといかん。
・・・どうじゃ?私の持つ神力は要らんかのぅ?」
うわ~・・・イキナリ陰気臭い話になったぞ?
もしかして、アレかな?所謂、悪徳キャッチセールスみたいなやつかな?
声を掛けなきゃよかった。
「要らないです!すみませんが、そういうのに興味がないので・・・。」
「ほほう?そうかのぅ?
今、神の力で君のアパートを見てみたけど、異世界チートもののラノベが沢山あるじゃないか。」
「ちょ、ちょっと・・・!!何で知ってるんですか!?もしかして、ストーカーですか!?
警察呼びますよ!」
大声を出そうとした。
それを止めようと、自称神様の女性は慌てて俺の口を押さえる。
ますます怪しい・・・。
「騒ぐでない!騒ぐでない!
ちゃんと神様の力を見せてあげるから静かにするのじゃ!!」
そう言って片手で僕の口を押さえたまま、もう一方の手を天に突き出した。すると、魔方陣のようなものが現れ、中心から金色の剣が具現化した。
一瞬、何かの手品かと思ったけど、それにしてはリアル過ぎる。
「どうじゃ?信じたか?」
「・・・とりあえずは信じます。
でも、逆に聞きますが、神様が力をポイポイあげちゃてもいいんですか?」
「イヤー実はな、今、家出中なのじゃ。
召し使いたちに見つかった暁には連れ戻されるから、パワーの半分を誰かにあげて人質にしようっていう算段なのじゃ!」
なるほどー・・・。
・・・て。
僕、人質!!?
「なら、尚更パワーなんていらないよ!」
「そう思うじゃろ?」
「当たり前です!」
「フフフ、ざんねーん!
もうあげてまーす!」
「ええ!?」
「ホレ、右目を見てみぃ。『神』の証の刺青が浮き出ておるじゃろう?
さっき口を塞いだ時に神力を流し込んでおいたのじゃ。私も中々の策士よのう!
カカカカカ!!」
愉快げに笑っている神様を横目に、スマホで自分の顔を映してみると、目を囲うように赤い三日月が現れていた。
ぬぐってみても、ちっとも取れない。本当に刺青のようだ。
そして今分かったことだけど、確かにこの人は人間じゃない。
神の力とやらを流された瞬間、頭から爪先まで、それに魂までも人間でなくなったことを感じた。
「ひ、ヒドイ神様だ・・・!
こんな恥ずかしい刺青してると、まともに生活できないよ!」
「神の証を恥ずかしいとか言っちゃいかん!この価値がわかる者なら、目にするのさえ畏れ多いと言う代物らしいぞ。
それに、私の力はすごいぞ?銀河の1つや2つくらい、瞬きする間に支配できる。そうしたら、金でもモノでもヒトでも好きな時に使いたいホーダイじゃ!生活を気にする必要もない!
おまけに、そうそう死ぬことはない。」
「う、嬉しくないですッ!
早く普通に戻してください!」
「ムーリー。
それにもう普通に戻ることはできんぞ。」
「え・・・?」
「何故なら、君を異世界へ飛ばすからじゃ。」
僕は衝撃を受けた。
同時に、この神様がさっきの会話でなんで僕のアパートの数ある書籍類から「異世界チートもの」をピックアップしたのかわかった。
最初からチート能力を押し付けて異世界に飛ばすつもりだったんだ。
よくわからないけれど、こんな大層な力がそこら辺の人間に渡ったとなると大騒ぎになるだろう。そうなれば、召し使いは家出娘だけでなく、僕までも探さないといけない。しかも、どこへ飛ばされたかわからない中を、だ。多分、大掛かりの人数で探すことになるんじゃないかな?
この人は、それに便乗して家出を続けるつもりなんだ。
「それじゃ、異世界生活お楽しみに~じゃ!」
そう言って、両手を空に広げると、神様の頭上に大きなブラックホールが生まれた。
とてつもない吸引力で地から足が離れそうになるのを、僕は必死に堪えた。
「た、助けてください!何でもしますから!!」
「ん?今何でもするって言ったのう?
なら、やっぱり異世界に行ってもらわないとね~!」
「神様のクズがコノヤロー!
―あッ・・・!」
僕は堪えきれずに地から足を離してしまった。
その瞬間、誰も知らない、誰も助けてくれない世界に行くのだと思うと、夢にまで見た異世界の暮らしがヤケに怪物のようで、恐ろしく感じた。
だから―
「お前も道連れだー!」
神様の銀髪を両手で鷲掴みにして、一緒にブラックホールへ引きずり込んでやった。
「「うわー!!」」
◆◆◆
こうして僕たちの長い冒険が始まった。
それが良かったことなのか、悪かったことなのか、今でもわからない。