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01 吸血鬼の解放。




ハロハロハロ


今日見た夢を書きました!








「エミリア」


 それは耳元で囁くように聞こえた。

 でも決して振り返っても、誰もいないのだ。




 なんともない人生だと思う。家族がいて、友だちがいる。恋人はまだいないけれど、普通の人生だ。

 ただ必死に勉強して入った高校を選んだことは後悔している。

 家から近い。それだけの理由で選んだ。

 そもそも進学するという進路を間違えた。

 別に勉強なんて好きじゃない。なら高校なんて苦でしかないじゃないか。

 考えてみればよかった。進学が普通で常識だったから選んでしまった。

 制服も買ってもらったし、学費も払ってもらってしまっている。

 今更、勉強が嫌だから退学したいなんて言えないまま。

 悩みに悩んでいたら、ある雨上がりの日。


 水溜りを避けてジャンプした拍子に、異世界転移というものをした。


 着地をした時、もう違う世界に立っていたのだ。

 下には魔法陣。周りにはローブを着た老人達がいて、手放しで喜んでいた。

 よくマンガや小説である異世界から救世主もとい勇者を召喚する儀式ではなく、試験的に異世界から生物を呼び出す儀式だと聞かされた私の気持ちを言い当てられる人はいるだろうか。

 それも試験的な儀式だったから、逆に送り返す儀式はないと知らされた時の私の気持ちを言い当ててみてほしい。

 ヒントは六文字。


 正解は、ミナゴロシ★


 なんてしないけれど、一先ず怒った。

 なんの権限で人様を異世界から連れてきたのだ。

 拉致だぞ。これは立派な拉致だ。

 どう責任を取ってくれるんだ! と散々怒ったら、老人達に宥められて、魔法協会とやらが生活などの責任持ってくれると話してくれた。

 歳が歳だからと、とりあえず学園に入学させられる。

 何故かこの世界でも勉強をさせられてる。

 そして学園にいない間は、私の世界について問い詰められる。

 私はいよいよ逃げ出したくなり、学園の授業をサボる。

 今ここに至る。

 何故か言葉が通じるのは、魔力が意思の疎通をしてわかる言葉に変換してくれているからなのだという。便利な世界だ。喋っているだけでも魔法を使っているようなもの。

 わーい、とは喜ばなかった。

 魔法というものは地球になかっただけあって惹かれるものがあるけれど、私は突然魔法が使えるようになるわけではなく基礎の基礎から学ばなくてはいけないから、魔法の授業は見学という形になっていたのだ。

 そんな私の待遇から、他の生徒は噂の異世界人だと気付き始めて遠巻きにしてきた。

 なんでも異世界から人間を召喚出来たと噂が広がっているらしい。

 私の名前はエミリア。日本に住んでいるし、父親は日本人でハーフだ。

 だから、顔立ちからして異国の人かな? と見られていた初めは。

 西洋人フェイスの周囲。馴染めないのは慣れていた。ハーフ顔だもの。

 むしろハーフ顔の宿命みたいなものだった。濃い顔に生まれた。くっ。

 というわけで、友だちは出来ていない。

 ぼっちである。まだ高校の方がましだった。必死に赤点を取らないように切磋琢磨していた友人達が恋しい。もう会えないと思うと涙が出てくる。

 いや出ない。絶望しすぎて、涙すら出なかった。

 人間、涙が出なくなったらおしまいって誰かが言ってた。

 ああ、吸血鬼ラブものの海外ドラマも最終章観てないよ。チクショウ。

 私のサボりスポットに選んだのは、ゴーストシップと呼ばれている廃船。

 海が見える国マーシーレという。その国が誇る学園は、お城と同じくらいに立派な建物だった。お城だ、もはや。何度も迷子になったもの。

 学園の名前は、ティチェルメ。

 その学園の後ろにある大きな大きな廃船。

 絶対に入るってはいけない場所がいくつかあるけれど、このゴーストシップもその一つ。入るなと言われても学校の屋上に登って流星群を見た懐かしい記憶を胸に抱いて、私はゴーストシップに侵入した。

 大きすぎて迷いそうだったけれど、迷う前に見つかってしまう。

 見回りに来ていた管理人だ。

 ティチェルメ学園の制服とローブを着ていたから、当然のように学園側に報告されて、私は処罰を受けることになった。

 居残り授業ではなかったのは幸い。

 地下で掃除をすることを一ヶ月、言い渡された。

 地下は絶対に近付くなとまで言われている部屋がある。

 その部屋の扉の前までが掃除の範囲だ。

 よほど人を近付けさせたくないのか、掃除しがいのある汚さだった。

 埃で喘息が起こりそう。


「エミリア」


 名前を呼ばれて、階段を見上げれば女子生徒達が笑っていた。

 名前は知らない。でも授業で一緒の子達だ。……たぶんね。


「何?」

「そう名前を呼ばれても絶対に呼ばれる方に行ってはいけないわよ」


 クスクスと笑う女子生徒達は、私をビビらせようとしているみたいだ。


「地下にいると呼ばれるんですって」

「名前をね」

「でも振り向いても誰もいない」

「せいぜい消えないように」


 地下にいると名前を呼ばれる。この学園の七不思議みたいなものか。

 言うだけ言って、女子生徒達は階段をパタパタと上がって行ってしまう。

 異世界から遥々召喚された私に、そんな脅しは効かない。

 何事もなかったように、黙々と掃除をすることにした。

 掃除に集中して、人生に絶望しないようにしていたのだ。


「ーーーーエミリア」


 名前を呼ばれた。今度は男の人の声だ。

 囁くように声が耳に吹きかかった気がするのに、振り返れば誰もいない。

 埃っぽい廊下が続く。気のせいか。

 私はまた掃除を再開させたが。


「エミリア」


 また呼ばれた。耳に囁く気配を感じたのだ。

 けれども、やっぱりいない。

 魔法でからかわれているのだろうか。

 ほら、透明マントとか透明になる魔法とか使って、私に囁く男子生徒がいるとか。試しにモップを振り回したが、何も当たらない。

 ……マ?

 それに男子生徒って感じの声ではない。

 魅力的な男の人の声って感じ。


「エミリア」


 今度はびくりと震え上がってしまう。

 心臓に悪い。


「だ、誰?」


 ついに私は応えてしまう。

 でもシーンと静まり返る廊下。

 なんなんだ、と前を向くとまた耳に吹きかけられる。


「エミリア」


 後ろか。私は廊下を突き進んでみた。

 声はしない。

 そうして到着する立ち入り禁止の看板がかけられた大きく古い扉の前。

 耳を当てて確かめてみる。


「エミリア」


 またビクッとしてしまった。

 扉から私を呼ぶ声がしたのだ。

 その扉から離れると、扉が開いた。

 中から、白いローブを着た分厚い眼鏡をかけた男の人が出てきたのだ。

 彼は私を見て「わ、驚いた」と漏らす。

 声はさっきから私を呼んでいる人のものとは違う。


「処罰の生徒か。ここは立ち入り禁止だからね」

「はい、わかっています」


 にこりと笑みで頷きつつ、背を向けている隙にモップを扉に挟んだ。

 男の人は気付くことなく、廊下を歩き去って階段を上がって行く。


「エミリア」

「わかったよ!」


 また呼ばれて、私は急かすなと応える。

 扉を開いてくぐった。パタンと閉じると、ガチャンと鍵が閉まる音を背中に感じた。

 やっぱりな。魔法のオートロック扉だと思ったんだ。モップを挟んで正解。

 私は灯りのない部屋にいる。

 目が慣れるまで、じっとしていた。

 残念、私は魔法で灯りをつける方法を知らん!


「中に入ったけれど、どこにいるの?」


 一体誰の声かもわからないのに、私はなんで来たのだろうか。

 声があまりにもしつこいからか。

 それとも魅力的なそれに誘われてしまったのか。

 はっきりしない視界の中、右を向いたり左を向いた。

 するとまた「エミリア」と呼ばれる。

 声がした方に、進んでみた。

 思いっきり躊躇なく進んだら、それにぶつかってしまう。


「うひゃあ!!」


 柔らかい! 肌!?

 びっくりのあまり、勢いよく仰け反った。

 人!? 人がいるのか!?

 いや待って私。人じゃなきゃ何が私を呼んでいると思ったのか。

 ほらよく選ばれしものが剣や杖を手に入れるあれ的なものかと。

 喋る剣とか杖かもしれない。そう思ったけど違うみたいだ。

 人か。人が私を呼んだのか。

 手を伸ばして、恐る恐ると触れてみた。

 人肌に戸惑いつつ、これは何かと探ってみる。

 お腹、かな。これがヘソ。腹筋。おお、かたい。

 ススッと撫でるように手を上に移動する。

 これが……雄っぱい。

 一回揉んでしまった私をどうか許してほしい。

 逞しかったですっ。(感想)

 男の人に間違いない。

 またススッと手を上に動かして、鎖骨を撫でる。

 そして太い首に触れて、頬を見付けて両手で包んだ。


「エミリア」


 目の前から声がした気がする。

 でも定かではない。だって、触れている頬は動かなかったのだ。

 声の主は、彼のはず。なんで動かないんだろう。

 そして、暗闇で何をしているのだろうか。

 まさぐって、調べてみれば、左右に伸びる腕は鎖らしきもので固定されていた。

 縛られている?

 拘束されているのか。

 私を拉致して、彼を監禁しているのか。


「いくつ罪を犯しているのだろう。この国。ぶっ壊してやりたい」


 呟きつつ、なんとか彼を拘束から解放出来ないかと試した。

 鎖を引っ張っても私の力では、ビクともしない。

 そもそも魔法の類なのだから、鎖を引きちぎれたとしても解放出来るかは疑問だ。


「ああ、もう。どうすればいいの? ねぇ?」


 私はもう一度、彼の頬に両手を添えた。

 解放する術を教えてほしい。


「ーーーー血」

「血?」


 今、血って言ったよね。

 血液のことを指していることは間違いない。

 だってそう伝わるのだもの。


「血を、どうすればいいの?」


 返答はない。返答出来ないのか。

 とにかく、血を出してみるか。

 ポケットを探って取り出したのは、持ち歩いているシャーペン。

 一緒に異世界転移をした相棒である。

 嫌だなぁと思いつつ、一か八かの勝負に出た。

 右手でシャーペンを振り上げて、左手の掌に思いっきり突き刺す。

 痛みで悲鳴を上げなかったことを誰か褒めて欲しい。

 痛みに反して、血はあまり出ていないだろう。

 シャーペンで突き刺しても、そんな大きな傷をつけられるわけがない。

 でも効果はあったようで、鎖がジャリッと動いた音を耳にした。

 起きたのかと、もう一度男の人を見る。

 しかしよく見えない。俯いた顔を上げさせようと両手で持ち上げたその時。

 がぶり。

 そういう擬音が聞こえた。

 噛まれた痛みはあとからくる。

 それよりも吸われていることに気が逸れた。

 血が吸われている。変な感じだ。

 手から吸われているのに、何かが変。

 力が抜けていく。でも強張る。疼く。

 身体中が熱くなってきて、快楽の波が襲いかかる。


「あっ、あっ、あんっ!」


 そうはしたない声を出して、私は倒れてしまった。

 パリンとガラスが割れるような音とともに鎖は飛び散る。

 気持ち悪いような気持ちがいいような目が回った。

 世界が回っているように感じる。

 男の人は、ぐったりした私を抱え上げて立ち上がった。



 

 

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