異世界で猫獣人に転生したけど、幼馴染みの女の子がTNRれた(未遂)
この物語はフィクションであり、作中の名称などは実在の人物、団体、その他とは一切関係なく、作中の主義・思想は作者のそれとは全く無関係です。
トラックから猫を助けて撥ね飛ばされて死んだ俺は、女神様の計らいでいざ転生、という所で、飛び込んできた天使に撥ね飛ばされた。十五分ぶり二回目。
「だっだめですよぉ~女神さま! なんて転生させようとしてるんですか!! ボランティアヤクザは大義名文があるから他者を殺しても平気な顔してますし、ちょっとでもいじられるとマジギレするんですよ! 繊細ヤクザなんてメじゃないんです!!」
「――えぇー――せっかく、ある程度の知性がある人間族と、多産と貧困に喘ぐ獣人族の住む世界を創ったのですよ――頑張って調整して―――人間以外の人権を認めず、また人の身で自然環境の保護などを謳う教義の持つ最大宗教を流行らせたのですよ―――に医療技術のテコ入れだって、八十八度は失敗して――ようやく成功したのです――今更勿体無いではありませんか―――」
「いや、でも、動物、医療、ボランティアなんてマジで地獄並に凶暴な数え役満ですよ? 女神さま、野良猫に餌やってるおばちゃんに注意したことあります? 郵便受けに猫の糞を入れられるんですよ? 小型犬を公園で放し飼いにしてるおばちゃんに注意したことあります? 犬をけしかけられるんですよ、まさにそれが危ないからやめろっつってんのに、奴等は自分の正義を疑わないんです。そこに加えて医療、医療! うわあああ、獣医療!! ピンからキリまでいる医療従事者って、ピンの医療従事者はキリの連中を見下すし、キリの連中は医療従事者以外を見下すことでプライドを保ってるんです。獣医療も然りですが、犬猫専門の開業医なんて、明らかに供給過多なのをわかっていながら、平均的な医療レベルの低下をもたらすことを理解しながら、一国一城の主にならないとプライドが許せないから開業してるような人達ですよ? 自分の仕事にケチをつけられたら女神といえどもただじゃすみませんよ!!」
「――別に私はケチをつける気などはありませんよ――」
「そんな、話が、ボランティア団体に通じると思ってるんですか!! 彼等の正義の的は彼等の悪なんですよ! 少しでもおちょくってると思われたら、事実はどうあれ訴訟ですよ! まーたちょいちょい売れない弁護士が顧問についてたりするから、少なくとも序盤は強気にかかってくるし、弁護士側に逆告訴をちらつかせて穏便に引かせる以外に、こちらが損をしない手立てがないんです!! わずかでも心に波を立てるだけで邪悪なテロリスト扱いです! 見るだけで姦淫レベルです!」
「――ケチをつける気などなく、ただ単に――殺すのは可哀想だから根絶やしにしようとか――子宮の病を予防するのに、あらかじめ子宮を取ろうとか―――マジサイコだなと――人の仔にはいつも驚かされますね―――」
「そういうのを!! やめてくださいと!! もう! あー、もう!!」
「――でも―――せっかくこの方も猫を助けてお亡くなりになってくれたのです―――猫獣人転生の、またとない機会ではありませんか―――何より――この方は獣耳を愛しているのです―――」
「獣耳を愛している人にやっていいこととダメなことがあります!」
「――これは良いことでは――?」
「ダメなことです!!!」
魂だけで漂っている俺には声帯がないため、突っ込みをいれることも能わない。
「――わかりました―――あなたがそこまで言うのでしたら――――役割を終えたあの世界は、滅ぼしましょう―――」
「ちょ、もう! 女神さま! いきなり邪神みたいなこと言わないでくださいよ~!!」
「――しかし――あの世界はこのネタのためだけに創られた世界なのです――」
「あああああ、間違っても人の生き死に、世界の創造をネタとか言わないでください!! 神界のヒューマニズム団体に叩かれますよ!! 実害の有無はともかく糞面倒くさいですし、窓口対応するのは我々なんですよ!!! って、あああああ!! 魂の人、今の話ぜんぶ聞いてましたよね!? ああああすみませんすみません、女神さまも悪気はないんです! ただ神と人では感覚が違うというか、だから地上周りは我々天使が取り次ぎをしてるんですけど、転生ってこっちでやるから結構女神さまも出てきちゃいまして、本当に、この方はこれが面白いと思ってて、ああもう、フォローしようとするほど最悪な説明にしかならない! ごめんなさい!!」
天使は必死で魂の俺に頭を下げるが、良いよ、とも許さない、とも言えないので、いかんともしがたい。
「――では――後はいい感じに何とかしてもらえるでしょうか―――」
「丸投げだなあ! ああもう、どうしようかな、さっきの世界も何かしら有効に使わないと……って、あ! 魂さん! やりました、いいの見つけましたよ! さっきの世界ですけど、パンダ! パンダ獣人やりましょう!! パンダ獣人はちょっと前まで絶滅危惧種だったんですけど、人間による強制お見合いや人工受精、人工保育でどうにか危惧種レベルまで持ち直したみたいです! 個体数も絶望的には少なくないし、ほら、贅沢三昧でゴロゴロ過ごしても怒られない! 何より漢字で書くと大熊猫だから、猫要素もありますよ! パンダにしましょう、ねっ? パンダでお願いします!!」
かくして、俺は。
異世界でパンダ獣人に転生した。
幼馴染みの女の子とは上手くいかなかったが、人工受精で子孫を残すこともできた。
怠惰に幸福に、笹をかじって過ごし、享年二十二歳の大往生を遂げたのであった。