第30話 自分との通話
「よっこらせっと」
シートの上で腰を下ろす。
「ふぅ。喉乾いたな」
ナップザックの横に置いた自分の水筒を手に取り栓を開けて飲み口に口を付ける。
「ふぅ」
少し飲んだら栓をして隣に置くと海の方を眺める。
「本当に、俺達しか居ないんだな……」
しばらくそのままで、波の音、風の音、照りつける日差し、賑やかなあいつらの声などを感じる。
「ふぅ。……色々思う事はあるけど。まあ、どうでもいいや」
僕はナップザックから携帯電話を取り出す。
「えーっと、これでいいんだよな」
電話を掛ける操作をして耳に当てる。
「このプププって音、何度聞いても慣れないな。ああ、緊張する。本当は電話なんてしたく無いんだけど。……まあ、どうせ暇だしいいか」
発信音が止み、人の声がする。
『もしもし?』
「あー、俺俺、俺だけど?」
『どうしたんですか、ミツルさん?』
「そうそう俺俺。今大丈夫?」
『何でしょうか?』
「ノリが悪いなチヒロ。俺だとわかっていても誰だくらい言ってよー」
『はい。ではいくら必要でしょうか?』
「イイネイイネ。そういうのがしたかったんだよ。流石チヒロだね、チョー愛してるよ」
『はい。ありがとうございます』
「まあ、そんな事より、さっきナツキに会ったんだ。それをまず伝えようと思ってね」
『それは、おめでとうございます』
「しかもそれだけじゃ無くてトーマも来たんだよね」
『それはすごいですね』
「それを伝えたかったんだ。そう言えば、チヒロは今何してんの?」
『夏休みの間は、会社に戻って仕事をしています』
「会社って、兵庫の? そっか。せっかくだから来てもらおうと思ったけど、流石に無理か……」
『そうですね。あ、よろしければ、ゴールドとシルバーをそちらに送りましょうか?』
「ゴールドとシルバー……。あ、チヒロも二人と会えたんだ、良かったね。二人はこっちにいるの?」
『いえ、こちらですけど。大丈夫、二人は直ぐにそちらへ向かえますよ』
「……そうなんだ。じゃあねー」
『はい、失礼します』
僕は電話を切る。




