第29話 4人目は冷気と共に
「ん? 何か急に涼しくなったな?」
突如として、真夏のビーチに冷気が漂う。
「そう言えばそうだな。ミツル、屁でもこいたか?」
「してねえよ! ってか、それで涼しくくならねえだろ⁉︎」
「そうだな——」
『——はっはっは』
そんな下らないやり取りで2人して笑いあっている間にも、冷気の正体は着々と近付いて来る。
「ようミツル、さっきはよくも無視してくれたな?」
それは予想通りの姿をしている。
服、三角帽子、マント、ブーツは黒く、白いマフラーを首に巻いて眼鏡をした左手に箒を持つ少女だ。
そう、彼女が来る事は知っていた。
「超気持ちい〜。まるで冷房の効いた部屋にいるみたい〜」
「ああ、そうだな〜」
僕もハルもテーブルを背にし海の方を向いて優雅に寛いでいる。
「手前……!」
怒った少女は箒を持たない方の掌に野球ボール程の球状の氷の塊を出現させる。
「二回もあたしを……」
そして氷の球を握って振りかぶると——。
「——無視しやがったな‼︎」
そのまま僕に向けて勢い良くぶん投げる。
反応の遅れた僕は何も出来ず、氷の球は顳顬に直撃すると足元の砂上に鈍い音を立てる。
「——痛ってー⁉︎」
氷である為冷たく、ボールよりも硬いのだろうがどちらも痛い事には違い無い。
「どうしたミツル?」
「いや、何でもない」
そして、何事も無かったかの様に振る舞いつつ、右手で顳顬を摩り、左手で隣に座るハルと反対側にいる後ろの少女に無言で手招きする。
「何だよ?」
それに応じて少女は僕の側まで近付く。
「お! さっきの魔女っ子じゃん、お兄ちゃんに会いに来てくれたのか?」
ハルは自分を指す。
「お前らやっぱり知り合いだったんだな。ミツルがあっち側のバケモノが出た場所にいつまでもいるからそんな気はしたんだけど、退治したのはお前か、西洋の聖職者?」
「ま、直接倒したのは俺の部下のあいつとあいつだけどな」
ハルは僕の後ろの席に座るジェシカと鉄板で焼きそばを作るクロウを指す。
「笑え無え冗談だな。こいつらどう見てもただの人間じゃねえか?」
「まあ、魔女の嬢ちゃんから見たらミツルも含めて俺以外ただの人間だろうな」
「そうだな。魔法の使えねえ奴はあたしにとってはただの人間だ。そういう意味だと、お前ら聖職者もただの人間だけどよ」
「意外だな。魔術師は天敵の聖職者もただの人間と一括りにしてるんだな?」
「あんた達は自分達に都合の良い世界にする為悪魔だけじゃなく異端の魔術師を消し去りたいのかもしれないが、魔術師は世界を守る為に悪魔や悪い魔術師と戦っている。ま、あたしは楽しいから好きでやってるだけだけどな。お前自身はどうなんだ、聖職者として魔女のあたしを殺すのか?」
「それは無えよ。俺幼女好きだから殺したく無えし」
「誰が幼女だ、あたしはもう10歳で一人前の魔法使いだ!」
「なるほど、つまり俺は魔法使いだと一人前なのか」
「お前に言って無えよミツル、いきなり喋ってくんな!」
「それよりもトーマ、さっきから黙って聞いてたけど何だよそのしゃべり方。女の子らしくないぞ?」
「うっせえな。手前から出来てんだから手前に似るのは手前のせいだろ⁉︎」
「へぇ、こいつが4人目のトーマか。勝手に男を想像してたけどまさか幼女だったとは、いい趣味してるじゃねえかミツル」
「手え出すんじゃ無えぞ。それにしても、俺ってこんなに口悪い?」
「おいこら、だからあたしを無視すんじゃ無え‼︎」
「ミツルもそんなもんじゃね? つっても、俺もお前だし、こういうのは他人に聞く方がいいぜ?」
「他人か。でも俺らの事を知ってる他人なんて……」
「いるじゃねえか、そこに」
ハルは向かいに座る二人を指す。
「そうか、君達に聞けばいいんだ。ジェシカ、レオ。俺達って似てる?」
ジェシカは大きく頷く。
「はい。とても良く似ています」
「ワタシもそっくりだと思いますよ。ところで、レオというのはワタシの新しい名前でしょうか?」
「え、間違えた⁉︎」
「はい。以前まではレアンと呼ばれていました」
「あ、そっちだったか。じぁあどうしようか、うーん……。そういえば、本名は何て言うの?」
「ヴェルデ」
「格好良いね。それで苗字は?」
「ありません」
「え、無いの?」
「はい」
「うーん、国によっては無い所もあるのかな。それじゃあ出身は?」
「わかりません」
「どうして?」
「赤ん坊の頃拾われたので」
それで苗字が無いのだろうか。
でも拾われたなら拾った奴がいる筈だよな?
まあ、その話はまた今度にしよう。
「人種はイタリアンですが」
「そうなんだ。じゃあヴェルデって呼んでもいい?」
「別に構いませんよ」
「じゃあよろしく、ヴェルデ」
「——はーい、焼きそば出来たぜー」
すると、山盛りの焼きそばをクロウが持って来る。
「わあ、すげえ量だけど誰がこんなに食うんだよ。あ、トーマも食べる? ちょうど俺ここ立つからさ?」
僕は立ち上がる。
「どこ行くんだよ?」
「お腹いっぱいになったからな。そこで横になりに」
僕はパラソルを差した荷物の置いてあるビニールシートを指す。
「んじゃ」




