第24話 海の家でバーベキュー(終)
「いただきまーす」
朝から何も食べていない僕はようやく食べ物を口に運ぶ。
「あーん。もぐもぐ……」
中辛のタレを付けた焼きたてホクホクちょっとカリッとした牛肉。
「——熱っつ! ハウハウ、もぐもぐ。でも美味しい」
僕は今、海の家の前でクロウとバーベキューをしている。
肉をしっかり噛んで飲み込んだ僕は箸を置き、テーブルの上に出された紙コップに注がれたオレンジジュースをゴクゴク飲む。
「ぷはー。ねー、ダークは食べないの?」
僕は海を眺める顎髭を生やした20歳前後の白人男性に声をかける。
彼はナツキの部下のダーク。ナツキと同じロシア出身でロシア人。
彼はマフィアの若頭で次期のボスだが、僕を気遣って今は身分を隠し、ナツキの保護者としてもう一人の同僚と信頼できる部下を連れて来日してくれたようだ。
「お構い無く。私は保護者として、ナツキを見守る義務がありますので」
「そっか。ありがとう」
「うおぉ! ミツルの弁当めっちゃ美味そうだな!」
「え?」
声がした隣の方を見ると、何時の間にかハルが座っており先程海に向かう前ナツキが持って来てくれた俺の弁当を勝手に開けていた。
ついでに向かいの席には串刺しのバーベキューを食すジェシカと狙撃銃を手入れしている男、ナツキの部下のレアンの二人が座って
「——うわぁ、びっくりした⁉︎ ってか、何勝手に開けてんだよ⁉︎」
「ん? いいじゃねえか、別に見るだけで減る物でもねーし」
「冷めるだろ!」
「冷めてるだろ?」
「じゃなくて、気分の問題だ!」
「それはすまなかったな」
ハルは言いながら素手でおかずをつまみ自分の口に運ぶ。
「美味いな、ミツルの母ちゃんの料理」
「そうかい。つうか、勝手に食うなよ」
「いいじゃねえか、減る物でもねーし」
「減るわ!」
「——おや、ミツル様。どうやらナツキが戻って来たようですよ?」
「ん?」
レアンに言われ海の方を見ると、ミツルの服を着た裸足で銀髪の少年がこちらに歩いて来るのが見える。
「本当だ。——おーい、ナツキー」
すると少年が手を上げ返事をする。
そう、彼はナツキ。ミツルの2人目で僕を乗せた狼のナツキだ。
彼は人狼で人と狼二つの姿を持つ。
ナツキは真っ先にダークの元に行き少しの会話の後タオルを受け取ってこちらに向かう。
「ほら、ミツル。これ返す」
そう言うと、ナツキはその場で上下を脱ぎそれを僕に放り投げる。
「え……、——うわっ⁉︎」
それを頭から被ってしまう。
ナツキはと言うと、タオル一枚腰に巻いた状態で去って行く。
恐らくシャワーだろう。それにしても不思議な事に汗の一つも疲れた様子も見られなかったが……。
彼が海で何をしていたかは僕は一切知らされていない。
それでも何があったかはなんとなく知っているが、自分には一切関係ない事だ。
「全く。……それにしてもアイツ確かノーパンでズボンはいてたよな。返すならその前に洗えよ全く。でも何でか貸す前より綺麗になってんだよな。それにほんのりあったかいし……」
僕は返された服に顔を埋める。
「——はあー、まるで買ったばかりの新品の服みたい。すぅー、はぁー」
そんな事より食事の途中だった。
満足した所でナップザックにしまう。
「さーて、飯飯……」
テーブルの上を見ると、見事におかずとご飯が半分減った弁当の姿がある。
「……あむ、もぐもぐ」
一通り一品ずつ黙々と食べると箸を置く。
「ふぅ。ハル、残り食うか?」
ハルは隣でバーベキューを食べている。
「いらね」
「そうか」
僕は残りも全て平らげる。
「ごちそうさま。弁当も食べたし、肉食うか」
まだまだ昼になったばかり、今日という日はまだ終わらない。
「……」
海の家から遠く離れた浜辺の砂上に一人の少女がうつ伏せで倒れている。
側には箒が落ちてあり、彼女の格好は黒の三角帽子に黒のマント、黒のブーツと魔女を彷彿とさせるその姿は夏真っ盛りのこの時期にはとても暑そうだ。
恐らくそれが原因で熱中症を起こし倒れているのだろう。このままでは彼女の命が危ない。
しかし今近くには誰もおらず、ミツル達のいる海の家までは距離がありあちらから気づく事も無いだろう。
少女はこのまま助かる事は無いのだろうか……。




