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第21話 黒翼の殺意、ミツル最大の危機

 水の中はとても好きだ。

 景色は綺麗で身体は汚れない。

 長く使ってるゴーグルのレンズが傷だらけなのが少し残念だが……。

 外の音も殆ど聴こえずとっても落ち着く。

 泳ぐよりも潜る方が好き。

 底に座ったり、手を付いたり、それだけでも癒される。

「……ぷはー」

 水面に出て誰もいない辺りを見渡す。

「ふー、そろそろナツキ戻ってるかな?」

 そう思い、泳いで砂浜に戻る。


 海から上がった次の瞬間、見知らぬ男に声を掛けられる。

「よう、お前が”この世界”のミツルだな?」

 突然聞こえた後ろの声に振り向く。

 それは、とても奇妙な光景だった。

 何故なら、水面を"立っている"からだ。

 黒のダブルスーツに背中から黒色の翼が生えた男が。

 身動きが取れない。

 奇妙な光景に対する気味の悪さと突き刺す眼差しに対する恐怖であたまが真っ白だ。

 そして、男が口を開く。

「まあどっちでもいいや。殺せば分かる事だしな」

 それを聞いた瞬間、その目が殺意である事に気づく。

 しかしその時既に、男の取り出した血の様な色の赤い槍に胸を貫かれる寸前だった。

 動けなかった僕は、恐らくこの時死んでいたのだろう。

 一人でいたら。

「何?」

 こういう時、僕には助けてくれる仲間がいる。

 こんな時が来るだなんて普通は有り得ないのだが、だからこそ僕は生きている。

「大丈夫かミツル様?」

 海パンにアロハシャツ姿で左手に銀のフォークとナイフ、それからタレのかかった焼いた肉が乗った紙皿を乗せた銀のトレーを持つクロウが、男の持つ槍を僕の身体に当たる寸前に反対の手に持つトングで掴んで止める。

 槍の男は引っ張るがビクともしない。

「くっ、離せ!」

「あいよ」

 クロウが槍を離した瞬間、現れた水着姿のジェシカの蹴りを男は食らう。

「さて、今の内に。ミツル様、ちょっと失礼しますね」

クロウは右手のトングを左手のトレーの上に置く。

「え、ちょっ、と何? ーーうわうわうわうわうわ⁉︎」

そして俺に近付き屈み込んで空いた方の手に俺を抱える。

「よし。ここはあいつに任せて、海の家でバーベキューの続きを一緒にしましょう、ミツル様!」

俺の返事を待たずして誘拐の如く連れ去って行く。


それにしても、バーベキューなんてしてたんだな。

丁度お腹も空いてきたし。と言うか、俺の荷物取りに行ったナツキはまだ戻っていないが何をしているのだろうか。

まあ、後で考える事にしよう。

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