表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2016年/短編まとめ

残念、甘い夢は見れないよ

作者: 文崎 美生

ふわふわの甘い綿菓子に包み込まれるような、そんな優しい微睡み。

規則正しかったはずの息が止まって、優しい微睡みが霧散する。


「っ……」


体が重いことよりも、ギリギリと締め付けられる首に意識が行って、覚醒したのに起きたという感覚が一切しない。

あるのは生命の危機、だろう。

重い瞼をこじ開けた先には、天井を背景にこちらを見下ろす、見慣れた顔。


「起きた?」


ゆるゆると首に掛けられていた圧が消えて、目の前でひらりと両手を揺らすソイツ。

先程まではのっぺらぼうと言っていいくらいに、表情がなかったのに、今では嫌味なくらいの良い笑顔。

ソイツの腹の中は真っ黒で、心根は根腐れを起こしているに違いない。


「あのさ、起こす時に首締めるの、止めてくれない?いつか死ぬと思うんだけど」


「声掛けても起きないからだろ。俺が声掛けてるのに起きないってことは、死にたいってことだろ」


疑問符で問い掛けるように、ではなく、何言ってんだお前、みたいに当たり前の一般常識を語るように言い切ったソイツ。

なんてこった、寝起きの頭がズキズキと痛む。

更に言えば胃の辺りにソイツが馬乗りになっているせいで、胃が圧迫されて苦しい。


幼馴染みと言うよりは、腐れ縁と呼ぶに相応しい関係のソイツは、極論過ぎるところがある。

未だに馬乗りになった状態で、ずり落ちたらしい眼鏡を指先で押し上げるくらいにマイペースでもあり、正直なところ時々扱いに困るのだ。


「それで、今日は何……」


今日は休日だと言うのに、お昼過ぎまで惰眠を貪るという予定は水の泡と化した。

この状態で二度寝なんてしたら、確実に絞殺されると思い、溜息混じりに問い掛けた私の言葉に、ソイツは酷く驚いた顔になる。

そんな言葉予想外、みたいな顔をされても。


レンズの奥の瞳が丸くなって、長い睫毛がくるりと上を向く。

唇もほんの少し開いて、その隙間から言葉にならない言葉が漏れ出ている気がする。


「……ろ」


「何?」


「お前が、テスト前だから、勉強見て欲しい、って、言ったんだろ」


ぐしゃり、と音を立てそうなくらいに顔を歪めるソイツは、私の首を撫でる。

その手付きが酷く厭らしいものに思えて、肩が跳ねた。

薄く手形の付いていそうな首を撫でながら、だから起こしに来たのに、みたいなことを呟く。


悪戯をしてバレた子供みたいな、叱られて不貞腐れる子供みたいな顔だ。

確かにテスト前で勉強見て欲しいとは言ったが、別に今日なんて言ってないんだけれど。

どうにも、私とソイツとでは些か考え方、と言うか何かの相違があるらしい。


「……今日、図書館って開いてたっけ」


「開いてる」


鳥肌を立てながらの私の言葉に、ソイツは間髪入れずに首を撫でる目を止めることなく答えた。

薄い唇を突き出して答える姿は、少しばかり可愛いと思ってしまう。

あぁ、絆されてるなぁ、と感じる瞬間だ。


「じゃあ用意するから待ってて」


サイドテーブルに置いた時計を見ればお昼前で、今から用意すれば外でお昼を食べてから図書館に行っても、十分過ぎる時間だ。

時計を見る私を見て、考えていることを理解したのか、胃の圧迫感がなくなる。

深い息を吐き出して吸い込んで、内蔵が無事であることを確認するようにお腹を撫でた。


ぺたぺたと床を叩きながら部屋を出ようとするソイツを、ベッドから降りて追い掛ける。

直ぐ終わるから、下にいて、と告げれば首をゆっくり動かして階段を降りていく。

満足そうに眼鏡を押し上げるのを見て、一息。


「何でお前ら、付き合ってないの」


隣の部屋の扉が開いて、怪訝そうな面倒臭そうな顔をした兄が出てくる。

視線は私ではなく、階段に向けられていて、確実に来ていたことを知っていて、私の部屋に入れたのだろう。

その手にはバイクの鍵が握られていて、これから出掛けることが見て取れる。


「さぁ。そういうことを、口にしないからじゃない?」


私の首を見て顔を歪めた兄を笑い、部屋に見を滑り込ませる私。

さっさと用意をして私も出掛けよう。

理解出来ねぇ、なんて声を聞いて、出来なくて良いよ、と吐き捨てた声は、きっと兄にもソイツにも聞こえない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ