交差
視点:霊夢
「もうすぐアジトに着くわ」
「予定を確認するわよ」
「基本的に、不要な戦闘は禁止よ」
「出来るだけ穏便に、あちらのトップと交渉するわ」
「理解できたかしら?」
「じゃあ、当初の予定通り六人一組で入るわよ」
そして邪神教との交渉が始まった。
「誰もいないわね……」
霊夢が困ったように辺りを見回しながら、呟く。
「しかも、静かすぎます」
妖夢も同じ事を考えているようだ。
「これは、いくらなんでもおかしいわ」
「もしかして、逃げられたのかしら」
霊夢の疑問に、魔梨沙が答える。
「そうかもしれないぜ」
「そう言えば、魔梨沙って感知系の魔法使える?」
「感知系の魔法なんて使えるわけないんだぜ……」
「ああもう、使えないわね」
「ちょっと、酷すぎませんか!?」
感知系の魔法は、あまりにも消費魔力が多く魔梨沙のような人間では使えないのだが、長い時間霊夢はルカと過ごしてきた為に、当たり前になっていたのだ。
「感知系の魔法も使えないとなると、人を探すのも大変になるわね」
「霊夢さん、もしかしてあの人がやったのかも知れませんよ」
「ああ、あの男ね」
「あれだけ言ったのにまだやるのかしら」
「まあ、それはないだろうけど」
「もしかしたら、今も見張られているかも知れませんよ?」
「ちょっと!怖いこと言わないで!」
「霊夢さんって、意外と怖がりなんですね」
「そんなわけないでしょ」
「霊夢に妖夢、もうすぐ開けた場所に出るぜ」
「霊夢はリーダーなんだからしっかりしてくれよな」
「分かったわよ」
開けた場所……つまりはホールに、霊夢達はやって来た。
刻人がゾンビや幽霊を呼び出せる唯一の場所である。
円形に空間にいくつもの通路が纏まっている、アジトの中心部とも言える場所だ。
「霊夢さん、あれ」
延びる通路の一つを指差して妖夢が言う。
「何よ妖夢……ッ!」
驚くのも無理はない。
戦闘禁止の筈なのに、通路には血がベッタリと付いているからだ。
「……辿ってみましょう」
霊夢達は恐る恐る血の後を辿って行く。
所々に人が倒れ、壁にも血が付いている。
「酷いわね」
「霊夢さん、やっぱりあの人がやったのでしょうか」
「そうね……あの男がやったで違いないわね」
「死体にも深い切り傷があるし」
そして霊夢が、いきなり青年の死体の一つに駆け寄った。
「……生きてる」
「えっ!は、早く助けましょう!」
「言われなくてもそうするわよ」
霊夢達が青年を回復させてから十分ほどで、青年は目を覚ました。
「うっ、ここは……って助けてくれたのか?」
「そうよ、私は霊夢よ」
「……霊夢さん、あんたはこっちに攻めて来たんだろう?どうして邪神教の俺をたすけてくれるんだ?」
「なにいってるのよ、助けるに決まっているでしょ」
「あんた、いい人だな……」
「おっと、俺は刻人、名前言うの忘れてた」
「いいのよ、で、刻人、あんた誰にやられたのよ」
「俺か、太刀使いの男に一瞬でやられた」
「まあ、俺は半幽だからな、生きられた。まあ、あんたらの助けがなかったら死んでたな」
「太刀使いの男に?」
「ああ、そうだ」
「……とりあえず、そっちのトップと話がしたいの、お願いできる?」
「霊夢さん、こっちだ」
そう言われて着いてきた部屋には、二人の男女が椅子に座って話していた。
「フェリエさん、ちょっといいですか」
フェリエと呼ばれた女性が、答える。
「刻人?隣にいるのは誰かしら」
「ああ、俺の恩人の霊夢さんです」
「そう、少しその人と話してくるわ」
「偶然ね、私も貴女と話したかったのよ」
「用件は?」
「貴女達、サバイバルゲームとかやってるでしょう、やめてもらいたいのよ」
「サバイバルゲーム……ああ、あれですか。別に私達は関与してないですが」
「……そちらの言っていることが、本当なら悪いことをしたわね」
「こちらからも言わせて頂きたい事が」
「何なの」
「邪神教はほぼ壊滅状態にあります、その被害の原因は全て太刀使いの男によるものです」
「その男の元に連れて行って頂けませんか」
「分かったわ、行くわよ」
そして霊夢逹が見たものは、あのときのように血濡れの地獄と化した風景と、同じように立っている太刀使いの男だった。
次回で少し霊夢編は休止します。