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大船に乗った気でいろ!

お待たせして申し訳ありません、少しずつ続けていけたらなと思います。また公募用のものも書かないと……(´・ω・`)

 そんなこんなで、ミルルのお姉さんのシャルと、どのような関係かは不明なウィークと一緒に遺跡を潜っていく事になったのだが……。


「いい加減、機嫌を直してくれよ、シャル」

「……ウィーク」

「はい」

「貴方、ここの遺跡に入る前、私に何を言ったのか覚えているかしら」


 ミルルのお姉さん、シャルさんが冷たい瞳と声音で、ウィークという男のエルフに告げていた。

 それにウィークがブルっと震えていたが、すぐに必死で言い訳するように、


「あ、あれはたまたま俺の苦手な黒いアイツの巨大化したものが出てきたからで……」

「私だってあんなの苦手よ。なのに、私よりも早く悲鳴を上げながら逃げて言ったわよね? 覚えているでしょう?」

「……はい」


 大人しくウィークは頷いている。

 どうやらあの黒くてカサカサするあいつを見てこの男性のエルフさんは逃げ出したらしい。

 確かに怖いといえば怖いが、逃げ出す程の事はないと俺は思っていると、そこで更にシャルが、


「それでここに来る前に、ウィーク、貴方が私に言った言葉は覚えているかしら?」

「……シャルの事は俺が守るから、安心してと言いました」

「それで、さっきのあれは?」

「……その前は、俺、頑張ったじゃないか! こ、今回はたまたまあんな大きくて黒いのがでたから……」

「ふーん、次は大丈夫だと言いたいのかしら」

「も、もちろんだ。大船に乗った気でいろ!」


 自信満々にウィークが俺達に告げる。

 イケメンが自信満々だと、頼もしく見えるような気がする。

 どう考えてもずるいなと俺は思いながら、そうやってしばらく進んで行くと……毛虫を巨大化したようなものが現れた。


 ウゾウゾと動くそれに俺は、その巨大化した気持ち悪さに動けなくなる。

 どうやらシャルさんそうらしく、俺のすぐ傍で固まっていたが、そこで、


「う、うわぁあああああ」


 悲鳴をあげて、エルフなウィークが逃げていこうとする。

 けれどその悲鳴で正気に戻ったらしいシャルが、ウィークの襟首をつかみ、


「……逃げるな」

「だ、だってあれ、俺が苦手な“虫”じゃないか!」

「私だって苦手よ! さっきは逃げたんだから今回くらいはやりなさいよ!」

「で、でも……」


 そんな言い争いをしている間に、その毛虫のようなものが糸を吐く。

 それは粘性の糸の様で、俺の口に少しかかったが地面に吸いつけられる様にべとべとする。

 こんな風に喧嘩をしている場合ではないと判断した俺は、傍にいる女神様は頬笑みながら浮かんでいるだけなので、俺は自分で何とかするしかないと思った。


 この魔物はゲーム内では戦った事がある。

 口から吐き出すこの糸で動きが鈍ったり動けなくなったりするのだ。

 だが、炎系の魔法には弱く、糸も炎の熱で変質してしまい、粘性が無くなったはずだ。


「“蒼い妖灯(ブルー・ウィスプ)”」


 魔法の選択画面から、炎系統の魔法を選択。

 同時に俺の下で魔法陣が光を放ち始める。

 やがてその魔法陣の外縁に食い込むように存在する光の円陣から、ポツポツと青い炎が湧き出るように、あたかも大量の篝火が夜の道で群れをなすように湧き出て、それがその芋虫と俺の周辺の糸の部分に触れていく。


 青い炎が数個触れると同時に、芋虫が悲鳴を上げる。

 急所に触れたのか、サラサラと芋虫が砂粒のように崩れ落ちて、後には刺のような物が何本か残る。

 芋虫の体についていたあの毛のようなものだ。


 このまま手で触っても無害だが、ある処理をすると毒攻撃の銃弾や爆弾、道具等に使えて、じわじわと敵を倒したいときにはもってこいのものになる。

 しかも一階にこれだけの量が取れるのだから、確かにお得だ。

 そう思いながらそれらを拾い集めて、今更ながら黙って立っているシャルとウィークに気付いた俺は、


「あの、お二人はこれ、必要ですか?」

「……え! ええ、そうね。一本いただけるかしら」

「お、俺も貰えると嬉しいな」


 とのことで、その刺を二人に渡した。

 いそいそとかばんに入れる二人だがそこでシャルが、


「こっちの子に乗り換えちゃおうかしら」

「! シャル、俺を捨てるのか!」

「だって、“また”逃げようとしたしね」

「そ、それは……ほら、妹さんに申し訳がないとか……」


 それを聞きながら、何でミルルが引き合いに出されているんだろうなと俺は思った。

 恋人同士というわけではないので……それとも俺は誤解されているのだろうか。

 もしそうなら、ミルルには悪いから訂正しておいたほうがいいだろうか、でも何となくそれはそれで嫌なようなと俺が思っているとそこで、


「そうね、ミルルから取っちゃおうかしら」


 ふふっと意地悪く笑ってシャル、ウィークが真っ青になっている。

 俺、全く関係ないのにとばっちりを受けているような気がする。

 そんなことを俺が思っていると、女神様が俺の背後に抱きつきながら、頭の上に胸を乗せた。


 重くて柔らかいそれだが、重いのでどいて欲しかった。

 最近はやってこないので大丈夫だと油断していた俺がいけなかったのかもしれない。

 俺は一体どうすればいいんだと思っていると、


「タイキは私の玩具だから、手を出しちゃ駄目よ?」

「え……女神様の玩具なのですか?」

「ええ、可愛いでしょう? こんなふうに顔が赤くなっていて、ふふ」


 シャルが驚いたような声を上げて、すぐに気の毒そうな目で俺を見ている。

 よく見たら、ウィークも憐れむような目で俺を見ている。

 見ている感じでは俺が良い思いをしているようにみえるはずなのに、そんな憐れむような瞳で俺を見るなぁああ、と、俺は心の中で叫んだ。

 そこでウィークが、


「では、ミルルとはそういった関係ではないと?」

「? 何がですか?」

「いや……そうだったら、“お義兄(にい)さん”と呼ぶ権利をあげようと思って」

「あ、やはりお二人はそういった関係で……」


 そう思っていた俺だがそこで、ウィークの耳をシャルが引っ張る。


「まだ“彼氏”にしてあげただけでしょう? 調子に乗るな」

「ええ! 婚約指輪は受け取ってくれたじゃないか」

「まだつけるかどうかは保留です」

「そ、そんな……」

「何、返して欲しいの?」

「いえ、結構です! く、これから絶対に、いい所を見せてやるからな!」

「……期待しているから、頑張ってね」

「もちろん!」


 何だかんだ言って、シャルはウィークのことが好きなようだ。

 だからあんな風に頬を染めて期待しているからとお応援しているのだろう。

 そう思っているとそこで俺は気づいた。


「あ、今度はハエのような魔物が」

「ぎゃあああああ」


 ウィークが大きな声で悲鳴を上げる。

 それを見ながら、イケメンでもどうにもならないことがあるんだなと俺は妙に達観してしまったのだった。


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