魔力で起こっているファンタジー
魔王城がある周辺は、都市化していた。
普通の人間のようなものもいれば、兎耳や猫耳、狐耳をつけた少女たちもいる。
リアル獣耳を見れたのは良かったように思う。
俺が今いる街も結構人口が多くて、店も多かったが、ここに比べれば少ないと言わざる負えない。
数階建てのビルには店が幾つも入っていて、人影が見える。
大通りには屋台が並んでいたりもして、来ている服も変わったものばかりだ。
すごい場所だなと俺が思いつつ、遺跡に向かって歩いて行く。
そういえばこの魔王の城は、都市の中心部にあったような気がしたけれど、そこから十分くらいの場所に遺跡があるってことは、この都市は意外に狭いのだろうか。
まあか都市部にあるわけ無いだろうし……無いよな?
けれどこのビル群と夜には火が灯るであろう街頭を見ていると、そんなふうにしか思えない。
だがそれを女神様に聞く気にはならず……きっとからかわれるだろうから……黙って、カーナビゲーションならぬ、女神ナビゲーション、略して、女神ナビによって道を進んでいく。
普通っぽい人間も歩いているので、ここを歩いていても俺はそれほど目立たないらしい。
ここで人間だ―!と襲われたらどうなんだろうと俺は思って、今が平和? でよかったなと思う。
そんなこんなで、城から徒歩20分。
直線距離なので、当然な時間配分である。
途中は路地に入ったりしていたので、倍の時間で済んで良かったように思う。
そこでやってきた場所は、奇妙な建物だった。
周りのビル群とは違って、どこか神社仏閣のような、普通は見ないような形の建物が立っている。
すぐ側に案内のような看板が立っていて、そこの看板には、
「白い靄の遺跡、入場料は入り口でお支払いください。……ここ、入るのにお金を取るのか?」
そこで、スマホからにゅっと女神様が現れて俺の周辺をフワフワと浮かびながら、
「そうよ、だっていなくなったり入ったままだったら、救援部隊が駆けつけるもの」
「そうなんだ……安全、なのか? と言うか人間側もないのか?」
「人間側の都市にもそういったものがあるわよ? ただ地方に行くと強力な遺跡もあるし、救援に行きにくいというのもあるわね。まあ、助けを求めたら冒険者ギルドやら何やらから派遣されるけれどね」
「……パーティが全滅したら?」
「伝えられないわね。遺跡はそんなふうに危険なところだから、冒険者にはあまりなりたくないというのが本音でしょうね。皆のね」
そう言いながら遺跡に向かうと、
「二人分の入場料をお願いします」
そう言われたので、受付の熊耳少女に料金を支払う。
人間側のお金しか持っていないようなと俺が思ったけれど、若干魔族側よりも高くなるが使えるらしい。
なので二人分支払うと、入口の扉が右にスライドしていく。
金属の分厚い板のような扉が開いていくと、俺の頬を地下から吹いてきた冷たい風が撫ぜる。
吹き抜ける風が反響したのか、唸り声のような音が聞こえる。
それが武器に思えてごくりとつばを飲み込んで、俺は階段を降りていく。
背後で扉が閉まる音がした。
同時に壁の一部が光り始めて周りの見通しが良くなる。
とはいってもまだまだ薄暗い階段が続いているのだが。
「……階段の数でも数えてみようか」
「あら、きっと何段か多かったりするかもしれないわね」
「初めからどれくらい階段が続いているのか分からないのに、多い少ないなんてわかりませんよ」
「そう? でも残念だわ。怪談は、タイキは苦手だったでしょう?」
くすくす笑う女神様に俺は冷や汗が出てしまう。
何で知っているんだという気持ちと、今どうしてそんな話に持って行こうとするんだという不安からだ。
はっきり言うが、俺は、幽霊が苦手だ。
というか怖い。
あのふわふわ漂うあれは、絶対に関わり合いたくない。
そんなふうに思っていると、目の前をすうっと白く半透明なものが横切った。
きっと気のせいだ、だっていつの間にか白い霧のようなものが漂っているしと俺は思う。
思った所で再び白くて半透明なものが俺の前を横切る。
それは少女のような形をしていた。
次は男性の姿で俺の側を走り抜ける。
なんだこれは。
これは一体何だと、俺の体がふるえ始める。と、
「これはね、幽霊よ、タイキ。この世に未練……というのは嘘で、この白い霧の粒子が魔力の塊みたいなもので、今までやってきた冒険者の魔力の残渣、通っただけでホンの少し残るから、それを核とし像を結んだものが漂っているだけよ?」
「そ、そうですか、お化けではないと……良かった」
「……ここまでタイキが苦手だとは思わなかったわ。いい物があるのは確かだけれど、もう戻る?」
「いえ、魔力で起こっているファンタジーなら大丈夫です」
「そう? ちなみに明かりの位置で、この魔力の霧の粒子に散乱して虹色の輪や影が映ったりするけれど、気にしないようにね」
「ブロッケン現象ですね。大丈夫です。事前情報をありがとうございます」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫であります」
そう答えると、女神様はう~んとちょっと考えてから、
「気休めに、私が書いた御札でも上げましょうか?」
「是非ください」
女神様の作ったものだったら、きっと効果があるだろうと思う。
そう答えると女神様は、一枚の紙を俺に渡してきた。そして、
「効果はないただの紙だけれど、気休めかな」
「……」
「だって無害なただの映像だもの。それに効果があるわけ無いじゃない」
「気休めなら、黙ってくださいよ、せめて」
そうぐったりとしながら、ここで戻ろうかなと考えて、次に入場料も払ったしなと思って……そこで俺は気づいた。
「女神様がスマホに入っていれば、入場料一人分で済んだのでは?」
「今、後悔してもどうにもならないわよ?」
もっともな女神様の指摘に俺は深々と嘆息する。
そこで俺達の眼の前に切り立った壁が現れる。
一応、左右に道はあるが、この壁の上の方にも幾つか入口がある。
「女神様、何処に行くと良さそうなんだ?」
「どれでも? 全部いいものに繋がっているわよ」
そう言って女神様は笑う。
どうしようかと俺が迷っていると、そこで女神様が、
「そうね。それならば……いい方法があるわ」
そう言って女神様は、こんな事を言い出したのだった。




