空でも飛んで行け
女神様に案内してもらいながら、その遺跡に向かう事にした俺だけれど、とりあえずはまず城から出る事から始めた。
このロリィの魔王城、城と言うだけあって、とても広い。
延々と真っ直ぐな廊下を歩かせられたりと、下っても下っても一階が見えてこなかったり……途中で、女神様にエレベーターがあるわよー、と言われた時はもう少し早く教えてくれて、も良いのにと思った。
俺が知っている箱の様なものと違い、格子の様なスカスカの形のエレベーターで、出入り口は自分で開けないといけなかったりしたが、一階まで行くのには楽だったのでそれは良かった。
そこから城を中庭という名の広くて長い道を歩いている最中、俺はある事に気付いた。
「女神様が浮いたままでついてくるのってどうなんでしょう」
「さあ、等身大マスコットを背負って歩いている男性がいると、タイキは思われているんじゃないかしら」
「……俺、人形遊びや人形集めの趣味は持っていませんよ?」
「あら、タイキ。美少女フィギュアの一つも持っていないの?」
「一つくらいはありますけれど、集めているわけじゃないんです。雑誌の付録についてきたんです」
「後は漫画の限定版とか? それは高い方を買わないと駄目よね?」
楽しそうに俺を追い詰める女神様に俺は、
「やっぱりスマホに戻っていて下さい。目立つのは嫌です」
「良いじゃない、謎の人形師の魔法使い、みたいな感じで」
「そう言えば女神様は普通に話したり動いたりしているから、そんな風に俺が操っているように見えるのでしょうか?」
「今更他人の目なんて気にせず、私といちゃいちゃしましょうよ。タ・イ・キ」
そう言って俺の唇を人差し指で軽くぷにぷにする。
女の人に誘惑され慣れていない俺は、それだけで顔が赤くなってしまうが、それを見て女神様が呻く。
「なんでこう、いじってもタイキは顔を赤くする程度に奥手なのかしら。もっと理性のリミッタ―をはずすか何かした方がいいのかしら。……薬でも盛るか」
「止めて下さい! それは女神様のするような事じゃないでしょう!」
「冗談よ冗談。薬なんて使わなくても、私なら幾らでも、その気になればタイキを好きなように出来るもの」
「……そろそろ大人向けな会話は止めましょう。というか、そんなに俺をからかうのが楽しいんですか!?」
「うん」
女神様は、俺の問いかけに速攻で頷き、楽しそうにくすくす笑う。
この弄ばれている感は何なんだろうな、と俺は思いつつ、
「それで、こんな風に人形を背負っている変態だと思われるのは、俺は嫌ですよ?」
「あら、ではどうすればいいのかしら」
「そうですね、スマホの中から案内でも」
きっとそうすれば目立たないと思ったのだが、女神様がそこで笑って、
「止めた方が良いわ。だってこの世界には、タイキが持っているスマホはないんですもの」
「そういえば使っているのも見た事がありませんでしたね」
「ええ、インターネットの様なものすらも限定的ですもの。だからそういった変わった物は目立つし、盗まれてしまったら……危険だわ。だってこの中には、この世界の外の知識が詰まっているんですもの」
「それはまあそうですが。確かこれを使えば俺達の世界のネットを検索できるんでしたっけ」
「出来るわよ? 今晩のおかずでも調べる?」
「……俺達の世界の材料はあるのかが不安ですがとりあえず……」
まだ城の範囲内なのでそれほど一目がないだろうという事で俺はスマホを取り出して検索する。
この庭の様な場所は広く、あまり大きな木がないので人の姿が良く見える。
なので俺の周辺に人がいないのもきちんと確認したので試しに検索をかけてみる。
「まずは“うどん”と」
「……タイキ、うどんは鈴の店で食べれば良いと思うの」
「は! しまった。つい、うどんを選んでしまった……。和食でも検索してみようか」
「ふむふむ、どんな?」
「“松風”とか?」
「……おせち料理でも作る気?」
「普通におかずとして作っても美味しいですよ? というか、おせち料理なんてよく知っていますね」
「ふふ、貴方の世界の事には詳しいの」
「では、南アメリカあたりの伝統食を教えて下さい。日本の人が知らなそうなものでよろしく」
得意げな女神様に試しに聞いてみた。
それに女神様は沈黙して、スマホににゅっと入った辺りで俺は、
「検索するのは無しですから」
「酷いわ―。タイキ、酷いわ―」
酷い酷いと繰り返す女神様だが、その女神様が何で日本の正月に食べるおせち料理を知っているんだろうと、しかも俺や鈴を連れてくるあたりの点も含めて、俺は何か意味があるような気がする。
しかも南アメリカの伝統料理は知らないみたいだし。
この女神様の偏った知識は一体何なんだろうと俺は思っているとそこで、調べていた画面を見ていて奇妙な点に気付いた。
それは日付だったのだが、そこでにゅっと女神様がスマホから現れて、
「仕方がないから、スマホの中に入りながら小さな声で道案内するわ。それで良いでしょう?」
「ええまあ」
意図的なのか偶然なのか、日付に関して何も女神様は言わない。
なので俺は気づいていないふりをして、
「でもどんな遺跡がこの辺りにあるのですか?」
「うーん、①美味し遺跡、②お得な遺跡、③エロい遺跡、どれが良い?」
「何ですかその③エロい遺跡って」
「触手の邪神がいるの」
「却下で。そうですね……①美味しい遺跡かな。美味しい物が一杯あるんでしょう?」
「……」
「どうして沈黙するのですか」
「うん、まー、美味しいと言ってもほら、人間にとって美味しいとは限らないし? ああ、でも人間に美味しい物はあるわよ? 見かけは別として」
その言いまわしに俺は不安を感じてしまう。
確かに食べ物で美味しければ多少グロテスクな、例えばあんこうの鍋の様な物でもいけるだろう。
でも、ここは異世界。
どんな俺の想像を絶する存在が待ち受けているか分からない。
それを考えると一番無難なのは、
「やはり、②の遺跡でお願いします」
「そう、その方が良いかもしれないわね。それにね、その遺跡がここに一番近いのよ」
「どれくらいですか?」
「ここから直線距離で10分かしら」
そんな空でも飛んで行けというような時間を、女神様は俺に告げたのだった。




