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折角なのでホラ話でも

 まず先に俺に説明するよう促したロリィ。

 目の前には美味しそうなケーキが3つほど更に乗せられていて、すでに一皿目を空にしたマーヤが俺の皿をじっと見ている。

 まずい、このままでは俺のケーキが食べられてしまう。


 そんな危機的状況に遭遇してしまった俺。

 たしかに朝からケーキを食べていたが、こんな風に綺麗に飾られたものではなかった。

 右から、チョコレートケーキ、クレームブリュレ、ムースの三種類で、どれもが工夫をこらした飾りが果物でされている。


 味を見てみたいと思うのは当然だ。

 だがここで話しだしたなら俺のケーキはどうなってしまうのだろう、そう俺が思っていると、


「……そんなにケーキが食べたいのなら先に食べていい。全く食い意地が張っているな」

「……すみません」

「いや、いい。マーヤにも追加でケーキを。……それと、タイキには土産でケーキを持ち帰らせてやろう。ミルル達と仲違いをしたようだしな」

「いえ……俺が家出をしてきたんです」

「……」

「ミルル達に抱きつかれて、俺が耐えられなくて」


 と、正直に言ってみた。

 だがそんな俺をロリィは無表情で見つめてから、


「なるほど、あれか。お主、“へたれ”というものか」

「へた……ち、違います。俺はやる時はやる男です!」

「皆がそういうものだ。理想と現実には大きく深い溝がある。まあ、うん、いいと思うぞ」


 生暖かい目で俺は慰められた。

 もうお家に帰りたい、全てを投げ出して元の世界に戻りたいと思いながらケーキを一口。

 俺は夢中でケーキを食べて、すぐに皿は空になってしまった。


 幸福な気持ちにながら紅茶をすすっていると、そこでロリィが、


「そろそろ満足しただろう。話してもらえるか?」

 

 それに俺は頷く。

 その間にマーヤは5皿目のケーキに手を出したのだった。






「……と、いうわけで現在俺達の世界の各国は、月面に基地を作り火星からの侵略者と戦い続けているのです」

「な、なんと……そんな世界があったのか。しかも軌道えれべーたー? 空気もなく我々を地面に縛り付けているような力のない凍える世界へと飛び出すなど……考えられん」

「ええ、ですがこれは全て、必要に迫られての事だったのです!」


 と、俺はロリィに俺達の世界のSF小説の設定を適当に織り交ぜた話をしてみた。

 いや、何故本当の現実世界の話をしなかったのかというと、まあ、何というか……何も知らない人に異世界の話をするのも難しかったので、折角なのでホラ話でもしてみようかと。

 そもそも俺達の世界の人間がこの世界にきても特に困らなそうな環境なのだ。


 せいぜいインターネットが見れなくて絶望するくらいだろう。

 そんなそれほど変わらない世界について説明してどうなるのか。

 嘘だと思われる可能性も否定出来ないし、だったら話しを大きくするべきだろうと俺は思う。


 そこで、そういえば最近スマートフォンでネットに繋いでない、後で様子を見ておこうと俺は決めていると、


「それでその火星からやってきた、細い足が八本ある、うちゅうじん? とやらの襲撃は恐ろしいな。一番初めのちきゅう侵略は、“びせいぶつ”という目に見えない程小さな毒によって滅ぼされるとは……。確かに我々魔族もこの世界にきてから奇妙な風邪のような症状に悩まされたこともあったが、暫く後適応してしまった。こちらとあちらの世界が似ていたから死に至るものではなかったのだろう。うーむ」

「といった歴史が俺達の世界にはあるのです」

 

 俺は真剣な表情で、ロリィにそう告げた。

 完璧だ。

 完璧な嘘話を俺はやり遂げた!


 そんな奇妙な達成感を俺は覚えていると、マーヤが俺をじっと見ている。

 その表情が無表情なので嘘を言っているとバレているような気がするが、多分気のせいだ。

 そこでロリィが有無と小さく頷いて、


「なかなか興味深い話だった。面白かったぞ」

「そうですか、良かったです」

「で、全部嘘なのだろう?」


 ロリィが楽しそうに笑いながら告げた。

 俺は吹き出しそうになった。

 一体何処でバレたのだろうと俺が思っていると、


「うむ、その顔はどうしてバレたのかという表情だな」

「はい、何でですか?」

「お主がドヤ顔をしていたからだ」

「……」

「顔に全部出る性格のようだから、嘘はあまりつかないほうがいいかもしれないな。バレるから」

「……」


 俺はただただ沈黙するしかなかった。

 そもそもドヤ顔をするから嘘をついているとバレるなど、普段俺はどう思われているのか……そう考えて俺は、それ以上考えるのをやめた。

 世の中気づかないことのほうが幸せなものもある。そこで、


「まあ、ホラ話で助かった。よくよく考えてみると私も少し昔のこの世界のような状態だったという程度しか、あちらの世界のことは知らんのでな」

「そうなのですか、でも一昔まえだとどんな感じなのか……」

「水道は今のように蛇口をひねると出るものではなく、薬や魔法もそこまで発達していなかった。私のように長く生きていると、時代の変化を特に感じる」

「そうなのですか。例えばギルドにあるようなあの検索システムも、何時頃から一般的なのですか?」

「ああ、あれはある日女神様が持ってきて、『ギルドのみんなに上げるわ。で、使い方はこうで、メンテナンスの魔法はかけておいたからその範囲で使ってね』とギルドに配ったのだ」

「……いや、そんな無茶な」

「無茶も何も現実にそうなのだから、仕方がない。あれを色々見てみたりしたが、結局どんな風になっているのかさっぱり分からなかった」


 深々とロリィが嘆息する。

 あの妙に発展したインターネットのような何かがこの世界の秘密に関わるものではないかと俺は、ホンの少しだけワクワクしていたのだが……現実はその程度である。

 というか女神様、一体何をやっているんですかと俺は思った。


 同時にこの世界と隣り合っているから電波がと言っていたから、女神様は俺達の世界を知っているのかもしれない。

 そもそもこの世界は俺のやっていたゲームの世界に似ていて、しかもその世界の俺や鈴を召喚して……。

 俺の中で何かが引っかかる。


 何かと言われても上手くは言えないが、この世界と俺達の世界の類似点が多すぎるのだ。

 けれどそうなってくるとあの遺跡は何なのか。

 SFだと破滅的な戦争で文明崩壊して……そして俺達はそんな未来と知らず、みたいな展開が思いつく。


 できればそうでありませんように、今までみたいな馬鹿馬鹿しい理由でありますようにと俺は思って、ある事に気づいた。


「何でこの世界の遺跡は、その魔族達がいた別世界に近いと言われているんでしょうか」

 

 そう俺は、ロリィに聞いてみたのだった。

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