俺、また巻き込まれるのか?
客室でもてなしてもらえると聞いていた俺だが、その前に一騒動あった。
「おーい、マーヤ。行くぞー」
けれどこの“原初の魔族”のマーヤはこの移動した部屋が気になるらしく走り回っている。
なので俺は捕まえて連れて行こうとしたのだが、この場所の気配が気に入っているということど逃げられた。
しかたがないので追いかけまわす俺だが、
「こ、子供ってこんなに足が速いのか?」
「ふむ、大変そうだな、タイキ」
「……ロリィも手伝ってくれ」
先ほどから追いかけ回すのを傍観していたロリィに俺は言うとそこで、
「いや、二人共楽しそうだったので止めないほうがいいかと」
「俺は楽しくない! そうか? マーヤは楽しそうだが」
「……こうなったらあの精霊でも創りだして追いかけ回すか」
あの無機質な人形のような精霊を思い出して、それにお任せしようと俺が思っていると、俺の持っていた箱からにゅっと何かが出てきて俺の視界を覆う。
しかも顔のあたりに柔らかい感触が……。
それと同時に、クスクスと笑うような声と共によく知っている声がする。
「あら、ダメよ。それは気軽に使ってはいけない力なの」
「……もう少し普通の出方をして頂けないでしょうか、女神様」
「最近タイキが動じないどころか、諦めがでている感じがして女神様は悲しいわ」
「……それでどういったご用件でしょうか」
俺は頑張って反応しないようにした。
そうすればもしかしていじられキャラから卒業できるかも、という淡い期待があったのだが、この試みは成功なようだ。
いつまでも俺が負けたままだと思うなよ! と思っていた俺だがそこで、
「ふーん、よーし、どこまで我慢できるか試してもらいましょうか」
「え、ええ……もがっ」
事態が更に悪い方向に動いて、俺は凍りつく。
完全に想定外だ、どうしよう、どうしようどうしよう。
そんな混乱する俺の耳元で女神様が、俺だけに聞こえるように俺の耳元でそっと囁いた。
「その力は、タイキ、貴方を守るもので、特別な物。切り札のようなものなの。でも切り札には代償が必要なの。確かに貴方の魔力量は多めに設定してあるけれど、それでも危険には変わりないのよ?」
「……もがもが?」
「ええ、だからそんなに気楽には使わないようにね。それにゲームに無いような必殺技のようなものが使いたいなら、ミルルの手を借りなさい? 偶然に出会ったとはいえ、あの子の力は、なかなかなものよ」
「もが」
「ええ、ゲームと同じように、貴方が動きやすいように設定してあるだけで、この世界独自の魔法も沢山あるのよ? 魔法の杖もね」
そう囁いてから、女神様は俺から体を離して元のスマホに戻ってしまった。
丁寧な説明も聞けたし意思の疎通も出来たからいいのだが、もう少し丁寧に扱って欲しいと思う。
正確には胸に顔を埋めさせるというものではなく。
あれをされると頭がぼうっとなって言うことを聞いてしまいそうになるのだ。
しかもそんな時にさり気なく重要な事を言われるし。
動きやすいように設定されているのはまあいい。
この世界独自の魔法道具などについてもそうだろうなという感じではある。
でも何で必殺技を使うのにミルルの助けを借りろ、なんだろう。
これからなにかそういった事態に陥るのだろうか。
「これはあれか、逃げられない運命を予言するみたいな、どこぞの神話のようなものか?」
ポツリとぼやく俺。
しかもそれって危険で大変なことに巻き込まれているってことなんじゃないのか?
俺、また巻き込まれるのか? と思って、すでに変な理由から巻き込まれそうになっているのを思い出して肩を落とした。と、
「お兄ちゃん、元気出す」
「……ありがとう」
マーヤが俺の心の中を察してくれたらしく、そう言ってくれる。
世の中たった一言が凄くうれしく感じることってあるんだなと俺が思っていると、そこでロリィが猫耳の生えた白衣の魔族(男)に先ほどの赤い石を渡す。
その猫耳の白衣を着た魔族(男)は大喜びで手を振り上げながらその場を去っていった。
俺はその様子に不安しか感じない。
そんな俺に気づいたのかロリィは、
「ほら、早く話しに行くぞ。分析には少し時間がかかる。今日中に無理そうならば、後日私の方からお前達に結果を報告しに行こう」
「それならばリズさんたちも一緒のほうがいいかと。たしか彼女の夫が、そういった異界の者との対策も兼ねている方のようでしたので」
「ふむ、それもそうだな。では後でそちらの方にも話を伝えておこう。あの世界の異界の者が関わっているとなると、私達も無関係ではいられないからの」
そう呟きながら、ようやく大人しくなったマーヤを連れて、俺達は客室に向かったのだった。
客室もまた、高そうな調度品が並んでいる。
テーブル自体は白いテーブルクロスがかけられていたのでよく分からないが、座っている椅子も、博物館か何かで飾って有りそうな金縁の細工がされた椅子だった。
並べられた食器も縁に金や、青、赤、緑などで絵柄が描かれている。
主に果実らしき絵が描かれているものが多く、それがロリィの趣味なのだろう。
だが、こんな女の子が好きそうなおしゃれ? な感じなものでケーキやら紅茶のようなものを出されると場違いな感じがしてきついと俺は思う。
そんな中マーヤは夢中でケーキを食べている。
さっきうどんとおむすびを食べていた気がしたが、ロリィを思い出せばそれほど珍しくはないのだろう。
だがミルルとシルフはそこまで食べていなかったような……そんな風に俺は悩んでいると、そこで、
「それで、その赤い石を落したものはどんなだった?」
「そうですね、なんだか大人びた綺麗な女性でした」
「……他には?」
「紫色の短い髪で、緑色の瞳の女性でした」
「服装は?」
「白地に茶色の花の柄が描かれたワンピースで、レースの付いたスカートで、首には三連の真珠の首飾りをしていて……上には黒い上着を羽織っていました」
「……普通に街にいそうな人間の格好だな」
「ええ。ただ何となく違和感を感じましたが」
「町の人間ではないように見えた、ということか。……あの宝石にタイキは違和感を感じてはいないようだったから。だがその程度しか情報はないか」
深々とロリィがため息をつくが、たまたま接触しただけの俺にとってはその程度しかわからない。
あのでそれ以降何かに巻き込まれることがあってたまるかと思った。
その俺の話をロリィは紙に記入して、
「では、折角だからタイキの元いた世界の話でも聞かせてもらおうか。代わりに私の世界の話も教えてやる」
ロリィが俺に言ったのだった。




