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微妙な悪女っぷりが素敵

「あ、おむすびの味はどうだった? って、あれ?」


 鈴がタイキ達のいた場所に顔を出すと、そこには空になったうどんの丼ぶりと代金が置かれている。

 そしておむすびはまだ十個以上残っている。

 この量だと、鈴や店のおじさんやおばさん達と食べるにはちょうどいいかもしれないが、これも美味しいかな、タイキも喜んでくれるかな、あとマーヤちゃんとロリィちゃんに……“女神様”の分に……と思って作っていたら、追加で40個ほど作ってしまったところだった。


「私、何をやっているかな。こんなに沢山作っちゃったし。……後はお得意さんに新商品案として配ってみるかな。うん、それも案に入れておこう。でも……」


 いなくなったその場所を見回して、鈴はすっと瞳を閉じる。

 それは数秒程度の短い時間であったけれど、それだけで鈴には“分かった”。


「うーん、また巻き込まれそうな感じ? タイキ、モテモテだね」


 でもタイキが聞いたなら、そんな災厄にモテモテでも嬉しくないといいそうだなと、幼馴染な鈴は思って小さく一人で笑った。

 けれど、“原初の魔族”関連の話はなかなか興味深かったように思う。

 さてと、と鈴は背伸びをしてから、


「そういえば皆、そんなところに隠れてどうしたの?」


 誰もいない……ように見える入口に向かって鈴は語りかける。

 けれどしんと静まったままで誰も出てこない。

 どうしようかなと思いながら鈴は、自分の手元にあるおむすびに目を移す。そして、


「おむすびって食べ物があるんだけれど、どう? この世界の人にも好評だったみたいだけれど」


 そこで裏口の開いている戸からミルルが顔を出した。

 続いてシルフや、シルフに連れてきてもらったらしいサーシャ、エイネが顔を出す。

 それを見て鈴は、


「あれ、何時もより一人増えているというか……エイネもどうしたの?」

「いえ、今度から皆さんと一緒に住むことになりました。部屋を追い出されちゃって……」

「それはお気の毒様です。でもそうなんだ。……私も住んじゃおうかな。あ、そうそう、タイキから聞いたよ? 何でも皆に玩具にされたんだって?」


 そんな鈴の言葉にミルルが慌てて、


「ち、違います。ただ私は、妙な本を見つけたのでタイキがそちらの道に行かないように、女の子に慣れる必要があるべきという意味で……」

「本音は」

「焦るタイキも可愛くて良かったです……はっ」

「うむ、ミルルの微妙な悪女っぷりが素敵。それでどうしようか。おにぎりを食べながら待っている?」


 その鈴の問いかけにミルルが黙ってから、


「……魔王ロリィ様が、“原初の魔族”のマーヤを連れて行ったり、何か他にもタイキが巻き込まれているようですから連れて行ったようですし……ここで待っていればここに戻して頂けるでしょうか。ああいった空間転移系の魔法は、私達の中では魔王様くらいしか使えませんし」

「そうだね、ここで待ってくれば戻ってくるかも? 今のうちに女神様にこちらに戻ってきたら連絡くれるようにお願いして置いたほうがいいかな」

「お願いします。……ちょっと悪ふざけが過ぎたみたいですし」


 うつむくミルルも含めて、全員やり過ぎたと反省しているようだった。

 ただ、好意を持っている男性相手なので、多分また似たようなことをやるんじゃないかなと鈴は思ったりしたが。

 

「私も余裕があまりないかも」

「? 鈴、どうしたのですか?」


 ミルルに問いかけられて鈴は何でもないと笑ってから、


「おむすびは、これです。私の世界の食べ物なんだよ。あ、お茶を用意してくるから先に食べていてね」

「「「はーい」」」

「いいなー、私も早く元に戻りたい」


 最後のセリフは幽霊のサーシャで、羨ましそうにおにぎりを見ていたのだった。







 タイキは一瞬で目の前の光景が切り替わるのを目撃した。

 先ほどまでは日差しの差し込む明るい部屋だったのだが、一転して豪華で綺羅びやかな場所に変わっている。

 壁に描かれた絵や彫刻、金色の像の瞳には宝石らしきものが入っていたり、天井にはガラス……だと思われるシャンデリアが有り、文化遺産のような西洋の王宮のような部屋に立っていた。

 よく見ると自分の足元には赤いカーペットが敷かれている。


 何だか立っているだけで小心者な俺はいたたまれない気持ちになる。

 場違いな感じがすると言ってもいい。

 そんな俺だが、そこでロリィが、


「ふん、どうじゃ、ここが魔王の城だ」

「ここが……道理でお城っぽいと思いました」

「そうだろう、さて、客室に案内してやろう。そこでおもてなしをしてやる。そちらのマーヤもな」


 ロリィが告げるが、そこで俺としては、


「えっと、マーヤを調べたり話を聞くのはいいとして、俺はここに来る意味はあったのですか?」

「ふむ、だがお前があの異世界の者達と接触したのだろう? そのうちお前を探しに来るのではないか? なにせ……これを持っているからな」


 そう言ってロリィが先ほど俺の服から取り出した赤い石の何かを見せてくる。

 どうやらそれは、異世界の者にとって重要なものであるらしい。

 それを拾ったがために俺はその異世界のものに目をつけられてしまうようだ。


「不条理だ。俺はただぶつかって、落し物があったから拾っただけなのに」

「運がいいのか悪いのか……だがなかなか興味深いものであるのは確かだ。だから今すぐ分析を行い、この構造の理解をしようと思う。そうすれば現在のあちらの人間の錬金術の能力がわかるだろう」

「そうなのですか。やはり、昔よりもずっと高度なものが使われているのですか?」


 不安に思い俺は聞いてみる。

 それこそ旧式の百年単位の古い武器と、現代の最新兵器との戦闘になればどちらが勝つだろうかという話にも思える。

 しかもロリィは数百年前にこちらに来ているのだから、その間にどの程度あちらの技術が進歩したかわからない。


 けれどその俺の質問は、ロリィには思う所があったようで呻いてから、


「確かに数百年前に私達はここに来た。だがこれを見る限り、そこまであちらの人間どもの技術が進歩しているようには見えないのだ」

「そうなのですか?」

「我々には幸いだが、一体この数百年どうなっていたのか……それともあちらとこちらでは時間の流れが少し違うのか、まあいい。分析できて同じものが作れるようならば、技術レベルはそこまで進んでいないと思っていいだろう。話はこれくらいにして、さて、客室でもてなしてやろう」


 ロリィがそう俺に告げたのだった。


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