大きいだけが素晴らしいわけじゃないのよ?
そんなわけで俺は、野菜の収穫を手伝い、鈴のうどんの店に行った。
お昼時にはまだ早い時間帯……と言うか店すら開いていなかった。
逆さまになった暖簾がかけられたその場所に俺達は向かうと、店の裏に通される。
そこでどの場所に置くかを支持されてその野菜かごを置くと、
「どうする? もうおにぎり食べちゃう?」
「そうだな……マーヤはどうする?」
俺がそう問いかけると、白い髪に赤い瞳の少女は数回目を瞬かせて、
「今?」
「ん? もしかして朝食も食べていないのか?」
「うん、昨日の夜に家出したから。でも、タイキの畑は簡単に入り込めたからそこまでお腹は空いていないよ」
マーヤは無邪気に俺に答えた。
ただ、リズさんと一緒にいた時程表情がないというか無表情なのが気にかかるが、それよりも、
「今、俺の畑に入り込んだって聞こえたような」
「うん、タイキの作った野菜、美味しかった。ご馳走様でした」
「お、お前が犯人だったのか!」
「……私だけじゃなくて、鳥さんとかネズミさんとか魔物さんも食べに来ていました」
無表情で告げるマーヤ。
酷い、俺の楽しみがと思いながら、
「……その無表情で言うのは何とかならないのか?」
「表情を作ると、お腹が空くので。タイキの畑で食べたのも、五連トマトと、五房きゅうりを一本づつだけだったから」
そう言われて俺は昨日予め植えておいた野菜とその蕾の数からざっと計算して、9.5割がこの少女以外の何者かの腹の中に収まったのだと気づいた。
それはそれで、俺の野菜が! という気もするが、
「じゃあお腹が空いているだろうから、先にこの子に食事を頼めるか? 鈴」
「はーい。じゃあ、マーヤちゃん、天ぷらうどんでいいかな。タイキのおにぎりの具と一緒にあげちゃえばいいし」
それにマーヤは首を上下にして頷く。
マーヤのその様子を見てから鈴はエプロンと三角巾をつけて、鼻歌を歌いながら料理を始める。
ちなみに鈴が鼻歌で歌っているのは、最近やっていた「超合金メカ ロケットボンバーズ」なる、爆弾を使って敵を倒すイロモノロボットアニメのオープニングだ。
なんでも話し合いすらせずに容赦なく爆弾で次々と敵が倒されるそのアニメは、つい最近、一話で妖怪四天王の内三人が爆弾で倒されたという話の流れが早い話しらしい。
俺は一度くらいは見ようと思って入るのだが、同じ時間帯にやっている女の子達のほのぼのとした笑いありの喫茶店のアニメの方が好きだったので、そちらばかりを見ていた。
そこまで考えて俺は何かがおかしい気がしたが、結局、何がおかしいのかよく分からなかった。
そこでマーヤがすぐ側に飛んでいる、何処からとも無く入り込んでしまったアゲハチョウのようなものを目で追っている。
こういった蝶みたいなものが好きなのかと思って、
「あれが好きなのか?」
「……動いているから、気になる」
何だか動物の本能みたいな答えだなと俺は思っていると、そこで目にも留まらぬ速さでマーヤはアゲハチョウを捕まえた。
じたばたするアゲハチョウを見て、マーヤは俺に、
「これ、食べれる?」
「いやいや、食べれない」
「そうなんだ。じゃあ要らない」
そう言って蝶を放すが、その動きは気になるようだった。
何か動くものがあったほうがいいかなと思って俺は、ふと先日作り上げてしまったあの妙な精霊のようなものを思い出した。
試しにあれを呼び出して、マーヤの相手をしてもらおうかと俺は考えて、こうだったかなと手に力を込めてみる。
ふわりと手が輝きだしてそしてそれは浮かび上がり一人の少女の形を形作る。
意外に簡単だったが、本当にこれってなんなんだろうなと思っていると、
「ご命令を、ご主人様」
現れた人形めいた少女がそう告げる。
なので、
「マーヤの相手をしてくれないか?」
「相手……抽象的、もう少し端的な命令を」
「……じゃあそこまでを少し行き来してくれないか?」
「了解しました」
その人形のような何かは、俺の指示通りに動く始める。
そしてそれをマーヤは目で追っている。
どことなくマーヤが楽しそうなのでよかったと思いつつ、
「この人形みたいなのってなんなんだろうな」
「あら、“人造精霊”よ。タイキの魔力で作った、ね?」
そこで、呼んでもいないのに女神様が出てきた。
最近この女神様はフリーダム過ぎないだろうかという疑問を俺は飲み込みながら、
「“人造精霊”ですか?」
「そう、精霊は魔力の塊かつ、指向性を含んだもの。タイキが理由付けをして魔力の塊を作り上げれば、ああいう風になるの」
「俺が理由付け?」
「そう、ああいったちっちゃい女の子の容姿が、タイキの趣味……というのは冗談で、動かすには丁度いい大きさがあれくらいだったってところだと思うわ」
「悪趣味な冗談はやめてください。でもあれぐらいの大きさが俺の限界だと?」
「いえ、後数体は作れるんじゃないかしら」
「……」
「目的を果たすには丁度いい大きさだってこと。大きいだけが素晴らしいわけじゃないのよ? 必要な物を必要に応じて、ね」
女神様はクスクスと笑う。
相変わらずこの人は何となく苦手なんだよなと俺が苦手意識を持っていると、鈴がやってきた。
なのでその“人造精霊”が消えるように念じると、光の塊となり俺の中に戻ってくる。
そして鈴がマーヤにうどんをお盆ごと渡して、
「はーい、できたよー。あれ、女神様もいたんだ。これからタイキに天ぷらのおむすびを作るけれどどうしますか?」
「あら、いいわね。折角だから頂くわ」
「では少々お待ちください。はい、マーヤちゃん、お姉ちゃん特性のうどんだよ」
それにありがとうございますといって受け取り、マーヤは箸を持つ。
そういえばこの世界の人、箸ももちなれている気がするなと思っていると、そこでマーヤが恐る恐るうどんを口にして、
「美味しい!」
輝くばかりの笑顔を浮かべた。
その破壊力に俺は、驚きを覚えたが、そこで鈴が、
「気に入ってもらえて嬉しいわ。あ、おかわりが欲しかったら言ってね」
そう言って鈴は機嫌良さそうに調理場に戻っていく。
マーヤは嬉しそうに、うまうま言いながらうどんを食べている。
その美味しそうに食べる様子に、俺は何故か空腹を覚えてしまう。
人が美味しそうに食べていると何となくお腹が空くあの謎の現象だろうか、などと俺が思っていると、
「鈴はいるか?」
そう言って、魔王ロリィが俺達の前に現れたのだった。




