主人公が家出をする顛末にて
お菓子につられて呼んでもいない女神様が出てきたのはいいとして。
驚いているエイネに、女神様は小さく笑い、
「おはよう、セイレーンのエイネ。所で実家に貴方が何処にいるのか教えてもいいかしら。この前から女神様~と、随分……」
「はわわ、げ、元気でやっているとお伝え下さい!」
「伝えておいたわ」
「そ、そうなのですか」
「でも、この間アパートを追い出された話を伝えたら、迎えに行くって大騒ぎだったかしら」
「な、何で言うのですか!」
女神様相手に慌てるエイネ。
それに女神様は楽しそうに笑って、
「それなら一度顔見せに戻るのをおすすめするわね。両親がお見合いさせて結婚させてしまえばおとなしくなるだろうかと画策しているけれど、ね?」
「それを聞いたらますます戻れないじゃないですか! うう、でも私はここで一発当ててから帰ります!」
「そうなの? 仕方がないわね。ではそう伝えておくわ、後でね」
肩をすくめる女神様。
それにエイネはほっと胸を撫で下ろしていたようだ。
そんな話をして、俺達はそのタルトに舌鼓を打つ。
甘すぎないクリームに、果実の香り。
アーモンドプードルのような物が練りこまれたタルトの台。
その二つが合わさって絶妙な美味しさを醸し出している。
他の水面幸せそうに食べていて、唯一不満そうなのはそのケーキが食べられないサーシャだった。
それが悔しいのか先ほどからサーシャはそこらじゅうを飛び回っている。
こうやって動くのにも魔力を消費しているのに、何をやっているのかなと思っているとそこで、
「ふあぁ、よく寝たわ。……は! 美味しそうなケーキの予感!」
そこで猫のような形をした精霊のミィがようやく起きてきたらしい。
やはりまだ先日の件から魔力は回復していないようで、起きるのも俺達より少し遅い。
そんな精霊のミィを見て、エイネが、
「せ、精霊まで……一体ここはどうなっているの? もう、異世界人がいても何の不思議もないわよ!」
「あ、俺です……」
「……」
「実は俺、異世界人です」
エイネは俺を見て、ふうと深くため息を付いた。
次に暫く目を閉じてから、
「……ここで冗談を言われても全然面白くないわね。さてと、それよりも私は貴方に聞きたいことがあったのだけれど、いいかしら」
何故か異世界人がいるのは認めたくないらしい。
何でだよと思いながらも、それほど話が広まらない方が良いだろうと俺は思いそれ以上追求しなかった。
そこでエイネがにやっと笑う。
俺は嫌な予感しかしなかったが、黙って彼女の言葉を待つ。
エイネはゆっくりと口を開いた。
「タイキはこんなふうに女の子に囲まれているけれど、どの子が好みなのかしら」
その言葉と共にそこにいた皆の視線が、俺に集中したのだった。
なんて質問をしやがるんですかと俺は心の中で叫びたかった。
そして問いかけたエイネは楽しそうににまにま笑っている。
人ごとだと思って、酷過ぎると思いながら俺は、
「それで、エイネは家賃を払ってくれるのか?」
俺は話題を変えてみる事にした。
そんな恥ずかしい事を俺が言えるか! とか、誰か一人に決めろとかそんなの無理というか確かに可愛い子はそろってはいるがそんなお付き合いとかそんな……と、混乱しながら思ったのでそうした。
そこでエイネが悪い笑みを浮かべる。
「そうね……体で支払うのはどうかしら」
「ごふっ!」
俺は何かをふきだしそうになった。
え、今なんて言ったんだ? 聞き間違いか? そ、そうだよなと俺が焦っていると、
「エイネ、言っていい冗談と……」
「あら、ミルル、私は自分の能力を使って、眠る時に子守唄でも歌いましょうかと言っているのだけれど……うふふ」
「……覚えていなさいよ」
「忘れるわ。それでどうかしら」
さらっと忘れると言って、怒りだすミルルを無視してエイネが俺に聞いてくる。
確かに熟睡できるのはいいかもなと思っていると、
「それで、タイキが眠ったら、その布団に私が入り込んでもいいわね?」
「「「「よくない!」」」」
俺とミルル、サーシャ、シルフの声が重なった。
それにエイネが、
「やだー、冗談よ。それでタイキはどの子が好みなの?」
話をまた戻してきやがったので、俺は無視した。
そして珍しくシルフも一緒に否定してくれたなと思って見ているとそこで、
「え、もしかしてシルフが好きなの?」
「え? い、いや、珍しくシルフも俺の味方になってくれたなと思って」
だが、そこでエイネの瞳が、なにかこう……汚らわしい物を見るような目つきに変わる。
これはどう考えても、
「お、俺はロリコンじゃない!」
「……そう、でも口ではそう言ってはいっても体は正直なんでしょう?」
「変な言い回しをするな! 俺は健全な男性だ!」
「ふーん、じゃあ、健全な男性ならば、部屋に確実にあるものがあるわよね」
俺はエイネの言葉に更に嫌な予感がした。
警鐘が早鐘のように俺の中で鳴り響く。
だが、そんな状況から更に俺を崖から蹴り飛ばすが如く過酷な状況にしようとする声がひとつ。
「それならタイキの枕の下にあるわよ」
女神様がニコニコしながらそう告げました。
そしてその、俺の部屋にある、枕の下にある本といえば……。
「や、やめろおおおおおお」
俺が止めるよりも早く、彼女達は走り去り俺の部屋に入っていく。そして、
「ああ、あったあった、これね」
「これかぁ、確かに……」
「……シルフ、貴方には早いわ」
「……これ、宣伝であらすじを見たことがあります」
「「「「……」」」」
僅かな沈黙後、ぞろぞろとし彼女達は俺の部屋に出てきて、生暖かい目で俺は見られた。
それに俺は釈明すべく、
「ち、違うんだ、これは、そう、前のやつがおいて行ったんだ……」
「では、何故枕のしたに?」
ミルルの優しげな問いかけに、俺はそれ以上何も言えなくなってしまう。
どうしよう……一体どうすれば。
そんな葛藤に苛まれていると、
「いいでしょう、タイキには女性の素晴らしさを思い出させてあげます」
ミルルがそう告げて、俺にぎゅっと抱きついてきた。
なんというかこう、胸も含めて女の子って柔らかいなとかぼんやりと思っている間に、シルフやエイネ、サーシャ、それに女神様まで一斉に抱きついてきて、
「よし、これからタイキが女の子の良さを思い出すように遊んじゃえ!」
そんなエイネの一言で、俺は、彼女達にもみくちゃにされるようにかわるがわるぎゅうぎゅう抱きつかれて、旗からいい思いのような目に合わされていたわけだが……。
どうでい彼女なしな俺の精神が、持たなかった。
暫くキャイキャイ笑う彼女達に弄ばれていた俺だったが、我慢の限界がきてしまい、
「こ、こんな家にいられるかぁあああ!」
そう叫んで俺は家を飛び出したのだった。




