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ごめん、聞いていなかった

「いま、“淫魔”って言いませんでしたか?」


 俺が恐る恐る、怒ったようなミルルに問いかけると彼女は更に怒ったように、


「そうですよ! ……タイキさん、まさか“淫魔”に関するあの噂を信じていたりするんですか!」

「あの噂って?」

「……タイキさんの持っている“淫魔”像について、お聞きしても良いですか?」


 微笑むミルルに俺は……冷や汗があふれる。

 だってそうだろう、“淫魔”といえばこう、なんて言うのか……しばし淫魔についての知識を考える事数秒。

 俺は悟った。

 こんな話女の子に出来るかと!


「……お許しください、ミルル様」

「やっぱりえっちな事を考えていたんですね」

「ご、ごめんなさい」


 つい謝ってしまう俺。

 だが俺の知っている限り、“淫魔”のキャラは出てきた記憶がない。

 やはりこの世界はゲームに似た異世界なのかもしれない。

 そんな事を考えていると、ミルルが、


「仕方がありません、説明します。私達“淫魔”は確かに他者の魔力を貰って回復も出来ますし、自身の姿が異性、同性問わずに魅力的なのは自覚しております。そしてそれゆえに貴族に見染められた“淫魔”が大半で、しかも他者の力を手をつなぐだけでも貰うことが出来るために、自身の魔力以上の魔法を使う事が可能な種族なのです」

「……なるほど」

「そうです。そして、その語源の由来となったそれですが、その……確かにそういった乱れたそれはあるのですが……そもそも好みの相手じゃないと発情しないんです」

「そ、そうなんですか」

「なのでその“淫魔”の性もありまして、自分好みの魅力ある異性を冒険者として探すのです」

「ああ、それで貴族なのに……」

「ええ、確かに強く魅力的な貴族もいらっしゃるのですが、新しい血を求めるのも“淫魔”の性といいますか、こうして冒険者をやりながら、恋人といいますか、お婿さん候補を探しているのです」


 “淫魔”な貴族のミルルの特殊な事情を聞いて、なるほどと俺は思いながら、


「良い恋人が見つかるといいな」

「はい、タイキさんも応援して頂けますか?」

「もちろん。そうか、強そうな冒険者を引き受ければ、知名度も上がってこのパーティに入ってくる優秀な男の冒険者もやってくると」

「そうなんです! なので、タイキさんにこのパーティに入ってもらえて、凄く私は幸運でした」


 無邪気に話してくるミルルに俺は、ですよねーと思った。

 鈍感主人公のふりをして探りを入れてみたが、ミルルの恋人候補ではなく、恋人を寄せ集める誘蛾灯か何かのように思われているらしい。

 いいんだ、彼女がいない歴=年齢の俺が、異世界に行ったくらいでモテモテになるわけないものなと心の中で泣いていると、ミルルがぽつりと呟く。


「……もう少し肉食系でもいいと思うんです」

「ごめん、聞いていなかったけれど」

「……何でもありません。それよりも、“うどん”のお店に連れて行きます」

「あれ? 連れの子は?」

「あの子はもう少し時間がかかると思います。だから行きましょう」


 そこで腕を組むように再びミルルが抱きついて、俺は引っ張られるように連れて行かれたのだった。






 大通りに面した一角。

 立地条件はとてもいいのだが、昼時からは少しずれているのか人はあまりいなかった。

 そして藍色の暖簾をくぐり俺が店にはいると、


「いらっしゃーい! ……何処かで見た事があるような平凡そうな男が現れた」

「……平凡で大人しい一般市民です」

「んー、そういえば“女神様”がもう一人この世界に放り込んでおいたからとか言っていたよーな」


 今目の前の人物が、俺にとっては聞き捨てにならないような話を口走った。

 待て、待つんだ、そうはやる気持ちを抑えている俺に、


「やっぱりタイキなの?」

「……やっぱりスズか」


 脱力するように呟く俺に、


「いやー、まさか異世界で幼馴染に遭遇するとは思わなかったわ」

「俺もだよ。というか何やっているんだ」


 突っ込みを入れたい気持ちになりながら、俺は同い年の幼馴染、夕顔鈴ゆうがおすずを見る。

 ショートカットで俺よりも頭一つ分背の低い元気の良い少女だ。

 そこで俺と同じ黒髪黒目の彼女が面白そうに笑い、


「うどんをこの世界に広めようかと」

「……なんで?」

「いや、たまたまこの世界に来たばかりの私を助けてくれた、おばちゃんとおっちゃんが、食べ物屋をするっていうから、異世界の料理はいかがですかって売りこんだの。ほら、まずは生活の基盤が大事だからさ」

「……冒険者になって探そうとかしなかったのか?」

「危ない事はあまりしたくはないし、でも周りの状況を知りたいので、とりあえず恩返しも兼ねて店舗を色々な所に増やしていって情報を得ようと思ったのよ」


 どうやら彼女なりに考えがあってこの“うどん”のお店をやっているようだが、何かが間違っている気がする俺だった。

 ただイキイキした彼女にそれを言う事の出来ない臆病な俺だったので代わりに、


「それでその、“女神様”ってどこにいるんだ?」

「タイキはスマホを持っていないの?」

「……確認した時はアイテムや装備しかポケットから出てこなかったな」

「もう一度確認してみたら?」


 促されて俺は自身のポケットを探ると、確かに薄くてかたい感触がある。

 これかなと思って取り出すと、確かにそれはスマホだった。

 そして俺が取り出すと同時に真っ黒な画面にふっと人影が映る。

 さらさらとした白く長い髪に赤い瞳が悪戯っぽく輝く美女だ。

 ただ何となく苦手というか弄ばれてしまいそうな気がして俺は苦手意識を覚えていると、


「こんにちは、私が貴方をこの世界に呼んだ“神”です」

「えっと、それで俺をどうして呼ばれたのでしょうか?」

「暇だったから」


 彼女は一言で言いきった。

 暇だったからと。

 俺はこの世界に来て、元の世界に戻れるかと不安だったのに。

 酷い。

 酷過ぎる、俺は絶望を覚えていると、


「というのは冗談で、理由はあるのだけれど、まだ様子見かしら。二人ともね」


 どうやらスズも俺も、まだ彼女のお眼鏡にかなっていないらしい。

 そこでその女神様は、


「それで貴方はどんなチートが欲しい? 好きなものを一つだけプレゼントしてあげるわよ?」

「チート、ですか?」

「ええ、私の都合で呼んだのだからそれくらいは譲歩します」


 にっこりほほ笑む彼女だが、チートといっても、


「俺、まだ思いつきません」

「そう? じゃあ欲しくなったら呼んでね。何時でも貴方に会いに行くから」

「……このスマホでですか?」

「あら、違うわよ。このスマホがなくても幾らでも会えるわよ? 私を呼んでくれたらね?」

「呼ぶって、どうやって?」

「そうね……“女神様助けてー”とか?」


 ふざけているとしか思えない台詞を吐く女神様だが、そこまで言うならば、


「“女神様助けてー”」


 と言ってみた。

 ついでにこれるものなら来てみろと思ったのだが、


「はーい!」


 そう女神様は答えると、俺のスマホの画面から飛び出して、気づけば俺の視界いっぱいに彼女の巨乳が広がって。

 むにゅっ。

 俺の顔に、柔らかな女神様の胸がぶつかったのだった。

 


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