正直、意味が分からなかった
いつものように俺は自分の部屋の中に立っていた。
見覚えのある部屋なのはいいのだが、妙に薄暗く感じる。
「変だな、俺、寝たはずなのにな。確か変な本を見つけて……」
そう思った所で、目の前に誰かいるのに気づいた。
ぼんやりと影の様に現れたかと思えばそれは、すぐにミルルの形になる。
ただ様子がおかしい。
いつもミルルは嬉しそうににこにこ笑っているが、このミルルは俺を見下すように見ている。
何でだと俺が不思議に思っていると、そこで次にシルフが現れる。
シルフもまた、ミルルと同じように嘲笑うかの表情をしている。
半眼で見られたりもしていた俺だが、ここまで悪意に満ちた瞳で見られた事は一度もなかった。
何でだ、そう思っていると次にサーシャが現れる。
彼女もいつもの明るさは無くなり、軽蔑するような表情で俺を見ている。
どうしてこんな事になっているんだ、どうして。
そう思っている俺の前に鈴と女神様、リズさんまでも現れて、俺を見下すように笑っている。
一様に同じ表情を浮かべる彼女達に俺は声をかけようとした所で、鈴が口を開いた。
「もう、タイキは用済みなの」
「え?」
意味が分からず俺は、ぎょっとしたように鈴を見ると、更に全員が笑みを深くしてくすくすと笑いだす。
その笑い声が響いて、俺は恐ろしさを覚える。
そこでようやくミルルが言った。
「私達、女同士で付き合っていたの。それを隠すためにタイキとは一緒に住んでいたんです」
まさかの衝撃告白。
そして次にシルフが、
「けれどもう、住む場所も手に入りましたしここに居る必要もありません。だからもう、タイキいらないのです」
そう告げるとともに、俺の下にぽっかりと穴の様なものが現れて、そこで俺は穴に落ちてしまう。
悲鳴を上げる俺だが、そんな俺に向かって彼女たちの笑い声が聞こえる。
そしてその穴は底なしの様で、俺は更に大きな声で悲鳴を上げ、
「うわぁああああああああ」
そこで俺は、ベッドから飛び起きた。
カーテンの隙間から朝日が差し込み、外では小鳥がちゅちゅっ、と鳴いている。
いつも通りの朝の俺の部屋の光景が目の前に広がっていた。
だが未だに動悸が収まらない。
冷や汗で体中がびっしょり濡れている。
一度シャワーを浴びてきた方が良いのかもしれない。
「なんていう悪夢だよ」
そう呟いてから俺は、ようやく気がついた。
枕の下に置いてある一冊の小説。
本音を言えば壁に投げたい内容だったのだが、あまりな内容だったので脱力感を覚えてしまい、枕の下に置いたのだ。
そして疲れた俺はそのまま眠ってしまったのだ。
そのせいであんな悪夢を見たのだと思うが、かといってこれをどう処分すればいいのか分からない。
「まさか昨日、たまたま部屋の掃除をしていたらエロ小説が出てくるとは思わなかったものな」
見つけた時は、く、こんなものを置いていくとは間抜けな、と俺は思った。
そして昨日の夜こっそりその本を読んで俺は……絶望したのだ。
「まさかあんな内容だとは思わなかった」
げっそりとしながら呟く俺。
その読んだ本の内容はこうだ。
一人の男Aと、女Aがいて、いちゃいちゃしていたのである。
雰囲気からも愛し合っているのが分かるような、そんな幸せな出だしだった。
なので油断していた俺は更にページを読み進めていき、そこで……女Aが女Bに寝取られた。
初め俺は内容を読み間違えたと思ったのだが、その内容で正しかったらしく更に続きを読んで行くと、その傷心の男Aは男Bと恋に落ちていた。
正直意味が分からなかった。
あまりの絶望から結末辺りを読んでみると、何故か、男Aが女体化していた。
更に混乱した俺は、試しに発行日などを見ていると、これは重版がかかったものであるらしく第5版という文字が踊っている。
何でこんなのが売れているんだと思ったら、その中に入っていたチラシのようなものに、あまりにも地雷な内容で大反響、と書かれていた。
俺は世も末だと思いつつ、そこでようやく気づいたのだ。
これは、罠だと。
「後に越してきた俺が見るであろうことも計算に入れてこれを……酷い」
おかげで最悪な夢見だった。
何で俺はこんな夢を見なくちゃならなかったんだろうと絶望しながら、ふと気づいた。
まさか、
「一緒に住んでいる女の子が減るフラグなのか?」
口に出すと更に疑念が増える。
そこで、ミルルが朝食できましたよと声をかけてきたのだった。
食卓にはサーシャも集まっていて、羨ましそうに俺達の朝食を見ている。
「後一週間もお預けなんて酷いです」
「仕方がないだろう、色々予期せぬ何かがあったみたいだし」
「うう、影武者の子が来るのが一週間延期なんて……でもその分またタイキ達と一緒に冒険できるからいいや」
そう言って宙返りする幽霊のサーシャ。
その動きは鬱陶しいように思える。
今朝の夢見が悪く、俺の心は狭くなっているようだなと思っているとそこでミルルがスープを持ってやってきて、
「でも昨日は大変でした。まさかあんな植物があるなんて」
嘆息するミルルに俺は、昨日の出来事を思い出す。
昨日はギルドで遺跡の宝箱を開くイベントが有り、俺達も行ってきたのだ。
ミルル達が魔石やら何やらいいものを手に入れている中、俺はといえば植物の種だった。
なのでちょうど畑に行き、薬草を育てようかと思っていたのでそれも一緒に巻くことにしたのだ。
そして畑にやってきて種をまき、ゲーム内で使ったことのある成長促進の魔法を使ったのだが、そこであの謎の種からぬるぬる動く緑色のつる状の触手が生えてきて、
「きゃああああ」
ミルルが一番近かったので捕まりました。
その時何があったのかは割愛するが、とてもご馳走様でした。
ただ問題なのはあの触手、俺にまで伸びてきたので慌てて身代わりに女神様を呼んだのだが、
「あら、邪神ちゃんの下僕じゃない。なによ、私に手を出す気なのかしら? えいっ、えいっ」
女神様はその触手を楽しそうに手で叩いて倒し、女神様の無敵度を見せつけられただけの結果になり、しかも、
「タイキ、私を盾にしようとしたでしょう? いけない子ねぇ」
と言って顔を胸に埋めさせられてぎゅーとされてしまい、俺がだらんと力を抜く頃には開放してくださいました。
更にその触手植物、ミルルから魔力を奪って種を作って大量にばら撒こうとしたので急いで俺は回収し、
「足止めには使えそうかな」
そう俺は前向きに検討したのだった。
だって俺が近づかなければいいだけの話だし……と思ったのはおいておいて。
それが昨日の主な出来事だった。
そして今日もどちらかというと穏やかな日々だといいなと俺は思っていた所で、家の呼び鈴が鳴らされたのだった。
挿絵などを、第二話に放り込みました。全力で描いたので、見てもらえるとうれしいです。




