無理ですぅ~きゅう
俺の左右に現れた小さな円陣から赤い炎が現れる。
煌々と輝く篝火のように、ゆらゆらと揺れながら炎の欠片を振り落とす。
その炎は球体となっているが、実は小さな炎の集合体であったりする。
それは敵に攻撃した時に初めて分かるのだ。
まずは俺の向かって右側の炎が、偽怪盗に向かって飛んで行く。
先ほどから攻撃していても全く効果の無い敵だったが、果たしてこれだとどうなるのか。
この魔法は威力はそこそこあるので、全く効果が無いという風には出来ないだろう……と思う。
今更ながらこれで全く効かなかったらどうしようという不安が俺の中でふつふつ湧き上がるが、そこではなった攻撃の一つが偽怪盗に当り、そのまま小さな炎が鎖のように連なって偽怪盗に巻き付いていく。
グルグルと巻き付いていったその炎の鎖はやがて、一つ一つの炎が大きさを増してやがてはその偽怪盗を包み込む。
炎の柱が立つように渦巻くが、それはすぐに消え去る。
後には四角い立方体で、周りに細かな曲がった突起やレンズのようなものがついた何かの装置のようなものと、人形のようなものが黒焦げになって残っている。
しかもその人形のようなものなどの、偽怪盗が先ほどまでいたと思われる場所から更に奥待まった場所に、偽怪盗がいた。
憎々しげに彼はこちらを見ている。
しかも体力などを示す表示がそちらに移動している。
「光の屈折か何かを利用して、後ろに隠れているあいつの姿を投影していた? しかも防御の魔法や攻撃したものを吸収していた、か?」
それに先ほど攻撃して倒した魔物の集合体。
あれに攻撃した魔法を確かこの偽物は使っていた。
魔力を吸収して攻撃をやり返す、そういった道具を使っていたのかもしれない。
彼らのいる異世界は錬金術が発達しているという。
その技術により作られたものがこれなのだろうか。
そもそも視覚認識で相手の体力などを見てしまうから、その追尾効果に影響が出て偽物を魔法攻撃したのだと俺は気づく。
視覚だけに頼るのは危険だから、他に方法を考えないとなと思いつつ、俺はそこでもう一つの魔法攻撃を偽物の怪盗に向かって放つ。
異世界のものだが、死なない程度にセーブしてくれていると思いたい。
と言うか俺には調節不可なので、そうであって欲しいのが実情だ。
俺の放った魔法に偽物の怪盗は目を大きく開く。
場所的にも避けられないし、この魔法は強力めのものだ。
まだ上の段階の魔法も多々あるが、決して弱い部類のものではなかったはずだ。
そこで俺の攻撃した炎を必死になって受け止める、偽怪盗の姿が。
広がっていく炎を必死になって受け止めているが、こちらに分がありそうだ。
とりあえず様子を見て、これで足りなければもう一度魔法を使おうと俺は決める。
だが、すぐにその炎に抗しきれなかった偽の怪盗はその炎に包まれる。
断末魔の悲鳴が聞こえて、大丈夫かと俺は不安になるがすぐに炎が消えて、少し焦げたような偽怪盗が現れる。
それを見て俺は、
「倒したのか?」
ポツリとつぶやくが、それにミルルと鈴、シルフとサーシャが、
「そうみたいですね」
「上手くいったみたい、でも私の出番があまりなかったかも。銃、折角新調したのに」
「まあ、この程度当然ですね」
「わー、上手くいきましたね―」
そして少し離れたところからクロードがやってきて、
「前も思ったが、規格外過ぎないか? この魔法は」
「いえ、そんな事を言われてもこういった魔法しか、逆に俺は使えないんです」
「しかしこれだけの魔法を使うには、相当の訓練を積まないと難しいのではないか? 我々の宮廷魔法使いたちでもこれほどの魔法を使える者達がどれだけいたか……」
「そう女神様に設定されているので、そういうものだと思っていただければと思います」
実際にそうなのだ。
たしかに俺は魔法は使えるが、どうして出来るのかといったその魔法が組み立てられた過程を全く知らないのだ。
この中途半端な形は気持ち悪さを俺自身は感じるが、かと言って訓練したりなどの過程があったなら俺は戦うことすら出来ないだろう。
なのでこの状態は非常に合理的だと俺は気づく。
俺にとって都合がいいだけではなく女神様にとってもそうでないと都合が悪い。
幾つもの利害が複雑に絡み合って俺はここにいて力を持っている。
そこまで考えて何でこんな面倒臭いことを俺がやらないといけないのかという気が少しだけした。と、
「とりあえずはそれに関しては保留だ。まあ女神様の手の内にいるのならば、まずいことにはならないだろう。それよりも今はあの偽怪盗を捕縛するのが先だ。さっき、ぴくりと動いていたからまだ意識はあるようだ。……面倒なことになる前に捕まえておこう」
クロードの言葉に俺は頷いて、全員でそっと倒れている偽怪盗に近づいていく。
逃げられないように取り囲むようにゆっくりと距離を狭めていく俺達。
けれど後少しというところまで近づいたが、そこで、偽怪盗が呟いた。
「……愚かな」
笑うような嫌悪感を抱く声。
それと同時に、俺達の下の床が青白い燐光を放ち始めて、同時に、
「か、体が重い……」
俺が呟くと、皆も重いと呻く。
そしてドサドサと倒れこんでいく中、どうにか俺と鈴だけがたっている。
けれど体が重く、指が動かせず魔法を選択できない。
まずいと思った。
目の前では先程の偽怪盗がふらふらとしたように立ち上がりかけている。
しかも彼は俺と鈴を見て、
「お前達は、本当に“人間”か?」
などと告げてくる。
異世界人ですと素直に答える気も俺にはなく押し黙る。そこで、
「あそこにある装置を壊せばなんとかなるかも、私が行ってきます! くっ、アイテムはもっていけないみたい……仕方がない」
サーシャがそう言って、横の方に飛んで行く。
どうにかそちらの方に顔を向けると、その光る床とそうでない場所の境界には直方体の箱がおいてある。
初めからあれが設置されていて、いざという時は発動させる手はずになっていたのだろう。
油断したと思いながらも、サーシャのあの状態を見ると幽霊というか、きっと精霊ならばこの影響をほとんど受けないのかもしれない。
今こそあの杖の精霊ミィの力を借りたい所だが、
「ミィ、動けるか」
「無理ですぅ~きゅう」
そう言って箱から出てくるが暫くその罠の魔法を受けていないのかフワフワと浮かんでから箱に戻ってしまう。
残念ながらこの精霊は動けそうにない。
どうしようかと俺が思っていると、偽怪盗が、ふらふらとした足取りでサーシャを追いかけている。
「鍵を、よこせ」
「ひ、ひぃ、は、早くこの装置を壊さないと……」
焦ったようにサーシャはその罠の魔法の装置を叩き始めるが、その程度では微々たる影響しかないようだった。
けれど彼ら側にサーシャが渡る危険も含めて、このままではまずいと思う。
「“精霊”がいれば、どうにかなるのに」
“精霊”ならばこの罠の影響は受けない。
何処かに、強くて、俺の代わりに動けるような、そんな“精霊”が欲しい。
「ち、近づかないでください!」
「鍵を、番人など、滅ぼす」
「ひぃいいい」
気づけばサーシャに近づいている偽怪盗。
俺は、急がないとと思った。
手の平に魔力が流れこむ。
魔法を使いたいと思った。
けれど俺の力では、あの選択画面から選ぶ魔法は今は動くことも出来ずに使えない。
どうにか立っているのが精一杯で、魔法を放つことすら出来ない。
けれど、俺はあいつを倒したい。
サーシャを助けたい。
だからそのためにあの罠をまず壊さなければ!
そう思うと同時に俺の手の平からは光があふれる。
何が起こったのかは分からない。
白い光が溢れて、俺の背丈の半分程度の大きさに膨れ上がって、それが弾ける。
中から現れたのは、一人の無表情な顔をした少女だ。
白銀の髪に赤い瞳、紫色のドレスを着たゴスロリの少女。
人形とも見間違えそうなそれは俺を見て、
「ご主人様、ご命令を」
そう事務的に告げたのだった。




