私の寄生先のご主人様と言うか下僕
サーシャの投げた爆弾は雷の物だった。
そしてそれ一つであの幾つものものが色々日混ざった奇妙でグロテスクな魔物は消し去られる。
初めからこの魔法道具をサーシャにバンバン使ってもらった方が良かったのでは、という事に俺は今更ながら気付いた。
でもあの雷関係の魔法攻撃道具は、この世界に来た時に引き継ぎで得たものなので、あれ一つしかない。
強力なアイテムで貴重な材料を惜しげもなく使った超強力アイテムなのだ。
ただそれをゲーム内で作った後に、偶然にも貴重な大量に材料が手に入ったので量産できる状態にある。
そして、魔物相手だったら威力強めでもかまわないので、後で量産しておこうと考える俺。
そこで一緒に戦っていたクロードはといえば、
「サーシャ姫、助かりました」
「いえいえ、少しはお役にたてればなと思っただけです。でもすごい量のアイテムですね」
そうサーシャが目を輝かせながら言う。
確かに倒した魔物の後には、山のようにアイテムが降り積もっている。
魔石も含めて、色々と材料になりそうなものが沢山。
ただ俺が見ていて思うに、その山の様なアイテムはまるでいくつもの魔物を倒したかのようだった。
やはりこの遺跡に出現した魔物をひとまとめにした魔物なのだろう。
だからあれだけのアイテムの山が出来た……そう俺が思っているとそこで、
「そこか」
凍りつくような声が偽怪盗から発せられた。
その声を聞くだけでも動きが止まってしまいそうになる俺。
正確には意識が無くなりかけるような呪詛じみた声だが、魔法を選択した時点で勝手に呪文等が紡がれる俺の体に死角はなかった。
呪文は中断されることなく俺の口から紡がれている。
だがそこで俺は気づいた。
その偽怪盗の視線の先は、俺ではなくサーシャに向いている事に。
そしてぽつりとその偽怪盗が、
「何故お前からあの気配がする。先ほどまではしなかったというのに」
どうやらサーシャが箱から出てくるとその鍵の気配が出てきてしまうので、それで気づかれてしまったらしい。
クロードを助けるためだから仕方がないが、早く呪文が唱え終われと俺は思う。
その間にもサーシャは焦ったように、
「わ、私ですか? え、えっと、多分気のせいなのではないかと」
「確かにあの気配だ。この世界と我々の世界を繋ぐ、あの門を開く鍵の力……それを感じる」
「た、多分何処かに似たものがあるだけで全くの別物かと思います」
「嘘だ、嘘をついている。そもそもお前はなんだ? あの鍵の番人か? そんな者がいたのか……古い文献でしかなかったが仕方がないか」
そう納得する偽怪盗だが、すぐにサーシャを見てにたりと笑う。
「ではその番人を滅ぼさなければ鍵を使う事すらも出来ないという事か? 我々に敵対する側についているのだから当然か」
「い、いえ、私はただの巻き込まれただけの存在でして……」
「お前の話など聞いていない。我々に下る意志があるかどうかにしか、我々は興味ない」
「ま、まずは戦闘に勝ち負けして決めませんか? もしくは交渉の余地とか……」
そう告げるサーシャに偽怪盗がおかしそうに笑う。
ちなみにこうやってサーシャとの会話をしている間にも、ミルル、シルフ、鈴が攻撃を加えている。
その偽怪盗の周辺には、小さなクレーターが幾つも出来ているが、その偽物にはまだまだ余裕が見える。
よほど硬い防御の魔法があるのか、もしくはこの今見ているその偽物の怪盗自身が偽物なのか。
だとしたなら、今俺が唱えているこの魔法は丁度横にいた魔物が消えた分好都合だ。
そう思いながら俺は呪文を唱えていると、そこで偽怪盗が笑いだした。
「はははは、交渉の余地だと? ルールに我々を落としこもうと言うのか?」
「そ、そういう事になるかと」
「ルールに乗せるための権力であり武力だ。それを持たない、私すらも倒せないお前達のルールに我々が載ってやる理由はあると思っているのか?」
「い、いえ、のってくれると嬉しいなと」
「戯言だ」
一言冷たく告げた偽怪盗が攻撃を仕掛けてくる。
まだ呪文を唱えている途中で、一応防御用の結界は貼ってあるとはいえ不安を覚える俺。
偽怪盗の周りに、雷のようなものが走る。
先ほどサーシャが使ったアイテムのような雷が走り、それが球体になったかと思うと俺達の方に向かってくる。
そんな俺に向かって偽怪盗は、
「お前達の力でお前達が滅ぶのだ。皮肉なものだな」
どうやら、先ほどサーシャが攻撃したあの雷の魔法を一部奪ったようだ。
まるで攻撃されたものを奪い攻撃し返す、鏡のような装置があるようにも思える。
ただ魔法を唱えている際中で、結界が張られているとはいえダメージが大きくなるのでは、そもそもサーシャを狙っているのでサーシャの体に向かって魔法の攻撃が来るので、サーシャが一番危ないのかもしれない。
そこでまたも俺の箱からにゅっと現れる影が。
それはサーシャよりも小さく、
「私の寄生先のご主人様と言うか下僕に何をする気なのよょぉおおおお」
猫のようなサーシャの精霊ミィが、猫パンチのようなものを繰り出すと同時に炎の塊がその雷に向かって飛んで行く。
それは俺とその偽怪盗の中間よりも俺よりでぶつかり、爆砕する。
今の攻撃でどうにか先ほどの雷の攻撃は防げたようだ。
そんなミィにサーシャが、
「ミィ、ありがとう!」
「いいってことよ。……でも魔力が切れかかってキツイ。何よあの雷攻撃……強すぎ」
「ミィ! まってて、確か魔石がまだこの中に……」
慌てたようにサーシャは箱の中に戻ってがさごそしている。
魔石でミィを回復させることにしたのだろう。
そちらの方はミィに任せるとして、そこで俺はようやく呪文を唱え終わった。
それに気づいた鈴が、
「タイキの魔法が完成したみたい、皆離れて!」
一斉にその偽怪盗から離れる。
それと同時に俺の口から最後の魔法の呪文が発せられた。
「“無限鎖の炎”」
その言葉とともに俺の下に広がる魔法陣が赤い光を放ち強い輝きを帯びて、左右に連なる円陣から炎の塊が呼び出されたのだった。




