罠にわざわざ飛び込むべきか?
現れたその偽怪盗。
服装自体は、以前のものと同様だ。
ただ幾つか違う点があり、それが服装にも影響を与えている。
つまり、この前よりも装備が増えているように見えるのだ。
以前の戦闘でこりて装備を強化したのかもしれない。
厄介な敵だ。
逃げられるたびに彼は装備を整え、強化されていく。
早めに倒して捕まえないとなと俺は思う。
そして、俺はそういえば色々と話しておいた方がいい話を先ほど魔王のロリィとしていたのを思い出す。
この二人をどうにかしてからでいいかと考えていた所で、怒声が聞こえた。
「何だてめぇは!」
「お前の魔石をよこせ」
「最近、巷を騒がせている怪盗ってやつか。だが、そう言われて、ハイそうですかって出すわけがねぇんだよ! こっちだって商売だしな!」
「では、死ね」
「へ?」
店主が間抜けな声を上げた。
けれど直ぐに言葉通りのことをすると気づいた俺達が、路地から現れると、その偽怪盗は舌打ちをする。
それどころか戦闘を避けるようにその場から逃走する。
この前の戦闘で、関わり合いたくないと判断されたのか。
けれど逃げるとはいえある程度自分に有利な場所に向かうだろうし、装備も整えているはずだ。
深追いは危険だ、それに今は夜だしとは思うのだが、そこで偽怪盗をしているクロードが、
「済まないがあの偽怪盗を捕まえるのを手伝ってくれないか?」
「……」
つい黙ってしまう俺だが、そこでずっと黙っていた鈴が、
「いいよ、面白そうだし」
「本当ですか! 助かります!」
クロードが喜んでいるが俺としては、危険だと分かっていたので、
「鈴、危険だろう。俺達素人なんだし」
「でもきっと私達が呼ばれたのは、彼らとどんな形であれ戦うことだと思うよ?」
「わざわざ危険に突っ込むことなんて……」
「大丈夫。私達は特別だもの。怪我なんかしないよ? ……そして死にもしない、死なせもしない」
その時微笑んだ鈴の笑みが、何時も知っている鈴のものと少し違っていて、どことなく女神様の笑みに似ている。
水面の奥深くを覗きこんだ奇妙さのような、深居場所に何か思惑が有るような……。
鈴は昔からこんな風だっただろうか、と俺は思って、そういえば何時も明るい鈴だったが時折ぼんやりと空をみあげていることがあった。
雲を見るのが好きなのかと問いかけると鈴は笑って、
「この空の彼方には、別の世界があってその世界に私は思いを馳せていたの」
「……この宇宙の何処かには、知的な生命体がいるんじゃないかって話か?」
「……そんな感じかな。大輝といつか一緒にいってみたいね」
「鈴、最近、SF小説か、変な特集番組でも見たのか?」
「そんな所かな」
「でもどうせなら魔法のある世界がいいよな。そして俺はモテモテになりたい!」
「大輝の方が物語と夢を混同している気がする」
「そうか? ファンタジーのような世界に行ってみたいって思わないか」
「楽しそうでは有るよね」
あれはいつだったか。
中学に上る前に、鈴が呟いていた言葉だった気がする。
なぜかとても印象に残っていたのだ。
そもそもそんなことを思い出している場合じゃないと思うが、けれどそこでミルルやシルフも、
「そうですね、ここで捕まえておかないと危険な事になりそうですよね。行きましょう、タイキ」
「ここで引き下がったら力の持ち腐れですよ」
そんなやる気満々な二人も含めて、今度はサーシャが、
「私も早くあいつを捕まえて欲しいです。だって狙われているのは私だし」
「……どのみちサーシャと一緒にいる限りずっと追われるってことか」
彼女がその宝珠の力をコピーしてしまったのだから、目的はずっとサーシャのままだろう。
そこで怪盗だったクロードが、
「サーシャ姫が狙われているとはどういうことですか!」
「ちょっとした手違いがあって……それに関しては、あいつを追いかけながら話す。それで、そこの露天商はどうするんだ? この前捕まった窃盗団“夜露死苦”の残党だぞ」
「それは部下達におまかせです」
そのクロードの言葉にざっと彼の部下らしい人間が現れてその露天商の店主を取り囲む。
逃げようとしても逃げられない状況だった。
「さて、追いかけましょう。そしてサーシャ姫について説明していただきましょうか」
そんなクロードに分かったと俺は告げたのだった。
夜の道には月明かりしかない、というわけではなかった。
昼間の野菜が生えていた道だが夜なのに薄ぼんやりと軽い。
夜光石という、夜に光る石野砂がこのへんの土には混ざっているかららしい。
明かりがなく不便だと思っていたが、これだと街頭が定間隔であるよりは少し薄暗い程度である。
そうやって追いかけている間途中寄るに出てくる山賊をらしきのを倒しながら進んでいく。
その中で敬意を説明していくと、クロードは、
「やはり早めに姫様には元の体に戻っていただかないと」
「そうだな。そうすればその魔法は魔石の方に残る……だよな?」
「……分かリませんね。そんな事例は聞いたこともないですし、ただそうであればいいという希望的観測に過ぎません」
「……やっぱりサーシャは、保護してもらったほうがいいか? 俺が持っているんじゃなくて」
そこでサーシャがヒュンと箱から出てきて、
「タイキの薄情者!」
「いや、俺、あづかっているだけというか、寄生されているだけだし」
「……ミルル、何でそんなに嬉しそうなのですか」
そこでサーシャがミルルの方を見た。
けれどミルルは気のせいですよと答えている。
そこでクロードがポツリと一言。
「……なるほど。ですが記憶が戻ればもう少しましになるはず」
「俺もそうなってほしい。何だかサーシャには、妙なことに巻き込まれそうになっている気がするんだ」
「あ……その件に関しては同情の余地が」
「もっと同情してくれ。そもそも俺だってよく分からない内にこの世界に連れて来られたんだし」
「それはお気の毒……今遺跡に入って行きましたね、あの偽怪盗は……」
「確かあの遺跡で以前も待ち伏せしていたな」
「ということは罠も有る、ということでしょうか。ですがここは出入口の遺跡ではないはずですから」
「罠わざわざ飛び込むべきか?」
その問いかけにクロードが黙ってから、
「危険であれば即、戻りましょう。この入り口で待ち伏せすればいずれ出てくるでしょうから」
それに俺は頷いたのだった。




