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この世界に毒されてしまったようだ

 家の前で五分程度待っているだけで、鈴は戻ってきた。


「ちょっとくらいは遅れても良いっておかみさんが言ってくれたわ」

「……そうなのか」

「そうそう。それに色々やってみたいことだってあるしね、うっふふ」

「……不安しか感じない。目立たないようにしてくれよ?」

「うーん、いざとなれば女神様にお願いしちゃえばいいのに」

「でも面倒事は避けた方が良いだろう? エロくない意味でのR18展開は絶対に嫌だ……」

「むー、私はタイキが気にしすぎだと思うんだけれど……でも、ミルルもシルフも凄い装備だね」


 そこで鈴がミルルとシルフに話を振る。

 何処からどう見ても遺跡に行くよりも武装が多い。

 手榴弾の様な爆弾も装備している辺りで、不安が募る。

 そんな俺の様子に気づいたのだろう、ミルルが、


「一応町中で、相手が人間なので、少し多めに煙爆弾と閃光爆弾としびれ薬が撒き散らされる爆弾と、後はちょっとした怪我の少なそうなナイフと……」

「そ、そうなのか。でも何で人相手が想定されているような装備なんだ?」

「旅の途中では、山賊や盗賊が出てくることもままありますから。3つほど此処に来るまでに潰してきましたし」

「一人で?」

「シルフとあとは乗合馬車に乗っていた、冒険者の方々とですね。賞金がかかっている方もいらして、良い稼ぎになりました」


 微笑むミルルに俺はそうなのか、としか答えられない。

 ミルルは時々逞しいなと思う。

 そしてシルフも自慢げなので、多分その時一緒にその賞金首を捕まえたのだろう。


 しかしシルフの方もミルルと同じようなちょっと怖めの装備だ。

 こんな格好でそのまま歩くのもなんな気がしたい俺は、


「その武器類は目立つから布で隠せないか? 見たら皆警戒しそうだし」

「……そういえばここは町中でしたね。どうも一つの人間達の街に長期滞在するのは初めてなので、感覚がおかしいです」

「人間の町にはあまり滞在しないのか?」

「ええ、ほら。タイキに初めて会った時に、男の人達に取り囲まれていたでしょう? ああいったことがよくありまして」

「あー、そういえば、何だかガラの悪そうな男達に絡まれてたな。ミルルは美人だし」

「……はい」


 ミルルがほんの少し俯いた。

 夕暮れの光のなかでミルルの頬が少し赤くなっていたように俺には見えたが、すぐにミルルは顔を上げて、


「いつもなら、そういった相手は触れた時点でボコボコにして警察に連れて行くのですが、そういった悪いやからって……徒党を組んでおりまして」

「……まさか報復に来るとか?」

「はい。それで最終的にその集団のボスを倒して、新たなボスになってくれと懇願されるのも面倒になる何度かすぐに移動する羽目に」

「そ、そうなのか」

「あねさん、なんて呼ばれるの、私は嫌なんです」

 

 色々と突っ込みたい気持ちに駆られるが、俺は必死になって我慢した。

 そうして夕暮れの街を歩いていく俺達。

 人通りの多い大通り。


 左右には露天の食べ物屋や、喫茶店も含めて、夕食を食べる客で賑わっている。

 その多くが酒らしきものを片手にざわめいている。

 仕事帰りの一杯をやっているのだろう。

 

 異世界と言ってもそこにいる人間には俺達と同じように感情があって、鬱憤がたまっているのかもしれない。

 そう思いながら更に歩いて行くと、どことなく雰囲気が変わってくる。

 先ほどの場所は極普通の飲食街だが、此処周辺は客引きの女性、男性がいたりと、あれな雰囲気だ。

 昼間はそういった店も飲食店としてやっていたので、よく分からなかった。

 

 そんなふうに思いながらもこの前の道を歩いて行くと、やがてアクセサリーやら雑貨やらを売っている露天商のようなものがちらちらと見え始める。

 そして目的の露天商も、昼間と同じ場所にいた。

 そこまでは良かった。


「? あいつ、何をやっているんだ? おい、サーシャ」

「はーい……おやおや、あの露天商ですね。それにそばには見覚えの有る方が」


 その露天商と俺達との間には、小さな路地が有る。

 そこに隠れるようにして露天商を覗いている人物が一人。

 そう、あの奇抜な格好をした怪盗“バンバラヤン”ことクロードである。

 

 今はあんな変な格好ではなく普通の何処にでもいそうな一般人の格好だが、その怪しい挙動が気になる。

 そう俺が見ながら、どう声をかけようかと思う。

 やはりあの路地裏に回り、クロードの背後に回って口を抑えて、俺だ……みたいな行動をとったほうがいいのだろうかと悩む。

 今この場で声をかけて、その露天商に気づかれるのも問題がありそうなのだ。


 何しろ俺達が目的としている露天商の動向を、彼も伺っているのだから。

 見たところ周辺にクロードの仲間はいないようだ。

 珍しいこともあるものだと思っているとそこで、クロードが俺達に気づいたらしく大きく目を開いている。


 そして身振り手振りでこちらに来るようにと言われる。

 なので俺達は何くわぬ顔で集団で路地の中に入り込む。

 露天商から近いとはいえ、ここで話せば彼に聞こえる距離にはない程度に離れているので、俺達はこそこそ会話した。


「何でクロードさんが此処に?」

「それはこちらの台詞だ。あの偽物の怪盗が魔石を探しているのなら、ああいった露天商もターゲットではないかと思って今張り込み中なのだ。そして先ほど動きがあったと聞いているのでね」

「あそこで売っている魔石は強力なものなのか?」

「今日取り出したものが丁度強いものだから様子を見ていたんだ。たまたま見かけて、あの露天商か購入する人間どちらでもいいから魔石を持っている人間に、この際囮になってもらおうかと思ったのだ。我々は追い回したので全員顔を知られているしな」

「そうなのですか」

「それよりもお前達は何しに? ずいぶんと大人数だが、これから遺跡に潜るのか?」

「いえ、あの露天商がこの前捕まえた盗賊団の一味のようなので、ちょっと見に行って……そういえばこのまま通報すればいいんじゃないのか? というかその予定だった、何で倒さなきゃいけない気持ちになっていたんだ俺」


 うっかり実力行使しそうになっている自分に俺は気づいた。

 ずいぶんとこの世界に毒されてしまったようだ。

 よし、それで行こう、そのほうが俺には安全だと思っていると、そこで。


「お前の魔石をよこせ」


 唐突に空から、偽物の怪盗“バンバラヤン”があの露天商の前に降ってきたのだった。 

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