嫌な予感てあたってしまうものなのよ?
魔王ロリィに怒ったようにサーシャが言われてびくりとする。
そこで魔王ロリィが、
「……この幽霊のような何かは確かこの国のサーシャ姫に似ているが……この間抜けそうな所が特にそっくりだ」
「ひ、酷い、間抜けとか……私、頑張っているのに」
「その辺はどうでもいい、一体何にとりつかれた? いや、何故それをお前が持っている!」
「い、いえ、何の事だが……そもそも私は、タイキに寄生しているだけですし」
プルプル震えだすサーシャ。
そんなサーシャに魔王ロリィは、
「妙な気配がする。というよりはそれは、以前我々魔族がこの世界に来た時に使った遺跡に出現した、異界との門を開く宝球の持つものと同じ力を感じる」
「宝珠……それは魔石ですか?」
宝珠と聞くと、宝物といった宝石を球状に加工したものが俺の中に思い浮かぶ。
けれどこの世界では、俺達の世界の宝石と違い、魔石というものを重宝しているようだ。
そうなってくるとその宝珠も魔石のように感じたしそれに、もうひとつ俺には気になる部分があったのだが、そこで、
「そうだ、魔石だ。魔力でその鍵となるものを発動させて門を開くのだからな」
「サーシャ、この前、露天商で魔石を買ったよな」
その問いかけにサーシャは首を傾げて、
「そうでしたっけ」
「お前が、魔石をとりそこねたって散々愚痴るから買ったんだろうが! それでそれから魔力を吸収した時に光の輪っかのようなものがでて、あの“魔法の精霊ステッキ”の精霊ミィが怒っていただろう!」
「そういえばそんな事もあったような」
「ロリィさん、そういった魔石から魔力を吸い取る時にその鍵となる性質も一緒に吸い取ってしまうというのはありますか?」
俺の問いかけに、ちゃん付けにしろと小さく呟いてから魔王ロリィは、
「有り得る話では有る。この幽霊も魔法に近い存在だから魔力を吸う時に一緒にその魔法も吸い取って、いい具合に混ざってしまった、か。確かにあの宝珠は見た目は普通の魔石だから間違えてしまうのはしかたがないかもしれない。だが……」
「だが?」
そこで魔王ロリィは一瞬黙って、口にだすのを躊躇ってから、
「それはとある貴族の屋敷に保管されていたはずだ。それをその辺の露天商が売るなど……まさか、計画的に仕組まれたことなのか? 本来大事に保管してあるはずなのに。危険であるが友好の証として人間に送ったものだが、それを盗み出し露天で売るように見せかけて特定の人物に……そうなってくると内部犯が……」
段々と深刻な顔になっていくロリィ。
ただまだ知らないこともあって俺は、
「異世界のその門が開くとどうなるのですか?」
「あれは力の弱い魔族用のものだ。強いものはある程度自力でこの世界に渡れたから、残りを回収するために私が作ったのだ」
「そうなのですか。でも……」
そこで俺はある事実に気づいた。
いや、ファンタジーな世界だし、完全にないというか俺の革袋なんかもそういうものも有るわけで、しかも未だに稼働している遺跡なる物体もあって、つまり……。
「そのこちらに来たのは数百年前なのですよね?」
「ん? そうだがそれがどうかしたのか?」
「その間一度も門の手入れはしていないと」
「それはもちろん、使う必要もなかったしのう。それがどうかしたか?」
「……時間を経ることで、劣化したりしないんですか? 俺達の世界では維持するのに補修を行ったりするのですが」
「……」
魔王ロリィが沈黙した。
そしてしばし目を泳がせてから、
「……確かに最後にここに来てからあの門は確認していない。だから使えるかどうかは分からないが……自動修復保全機能が備わっているからおそらくは使えるだろう」
「そうですか。でもあの宝珠」
「その宝珠という危険なものがこんな簡単に、辺境のこの街に流れてくるとは……一体どうなっているのだ。しかも異世界の者共がこの町に来ているのか? 先ほどの話では」
「ええ、今の所、偽物の方の怪盗バンバラヤンがそうらしいです」
「あの奇妙奇天烈な格好をした、今どきの若者はあの格好がナウいと思っているのかと嘆かわしいと思っていたのだが、そうなのか」
途中聞いたことのない言葉が出てきた気がしたが、全体の言葉の意味はわかるのでそれには突っ込まず、
「その偽の怪盗が、強力な魔石を探して人を襲っているのです。まさか探しものはそれなんじゃ……」
「……おそらくはそうだ。そして今はサーシャ姫が……」
「しかも何処に強力な魔石が有るかあいつには分かるようなんです」
「魔石採掘に使う錬金術を応用しているのだろう。強い魔石特有の魔力波長を計測する道具は、我々がいた頃にはすでにあったからな」
以外にい世界の錬金術の技術は進んでいるんだなと俺は思いつつそこで、ある疑問が浮かぶ。
俺は怪盗バンバラヤンの偽物と何度も接触していた。
けれど、この魔王ロリィが分かるように、、彼らもその鍵となる宝珠がわかるとしたら?
だったら俺ばかりが特に警戒されるはずだ。
なのに、特に俺ばかりを狙っているわけではない。
つまり彼らは気づいていない。
そして今サーシャは部屋にいて、ここに出てきてから魔王ロリィに気づかれている。
そうなってくると、
「かなり近づかないとわからないのか? 鍵だと」
俺の呟きに魔王ロリィが頷き、
「それはあるかもしれない。私も先ほどまで気づかなかったからな」
「それに俺もサーシャの魔石をこの箱に入れて気づかれませんでしたし」
「その箱は?」
「女神様が俺がこの世界にいる上で必要となるだろうとくれたものだと思います」
「……なるほど。女神様はすでに、異世界からの襲撃に対してある程度準備を整えてくれているということか」
「人間側も気づいている方々もいるようですが」
「……なるほど。相変わらず敏い人間は恐ろしい」
そう言って魔王ロリィは愉快そうに笑う。
けれどすぐに深刻な表情になって、
「だが内部に裏切り者がいるということか? 人間とはいえ貴族の魔力は我々魔族より劣るが強いもののはずだが。その屋敷に忍び込んで魔石を盗むなど、普通の人間では難しいのではないか。そうなってくると相手は限られてきそうか……」
そんなふうに真剣に考え始める魔王ロリィに俺は嫌な予感がした。
貴族の屋敷を狙って魔石などを盗んだ盗賊団と、俺達はこの前戦う羽目になったのだ。
まさかまた彼奴等がそういうことをしたせいで、サーシャの時のように妙なことになっていたりしないだろうなと俺は思った。
思っただけだ。が、
「そのとおりよタイキ。嫌な予感てあたってしまうものなのよ?」
女神様が、読んでもいないのに現れたのだった。




