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異世界の裏事情は、意外にブラック

 そんなわけで俺はまず、「錬金術師」の受付のコーナーに向かった。

 その受付の女性も綺麗で、複雑な模様の、けれど錬金術師を示す歯車の模様が服についている。

 彼女は俺がその書類を示すとにこやかに、


「はい、測定が壊れていたという連絡はきておりますので、それでは錬金術師として登録させていただきます」


 にこやかに事務的に処理をしていく彼女だがそこでふと、


「そ錬金術師以外はどんな職業をご検討中ですか?」

「えっと、魔法使いです」


 その途端先ほどまで人の良さそうな笑みを浮かべていた受付嬢が、一瞬、敵を見るような表情になるがすぐに微笑み、


「魔法使いはおやめになった方が良いですよ。あんな自分達が世界を回しているんだというような、思い上がりも甚だしい奴らと一緒くたにされますよ?」


 いきなりにこやかな彼女がとんでもない言葉を口走った。

 俺はえっと思っていると、その隣の職業の受付から、


「錬金術師なんてそうやって言葉でしか人をおとしめる事しかできないような低俗な連中ですわ。ですから今すぐ錬金術師登録を止めてこちらで魔法使い登録をするのをお勧めします」

「……ちょっと、前から思っていたけれど、魔法使い風情が錬金術をバカにしないでくれる? ただ杖振っているだけの連中には分からないでしょうけれど、錬金術の知識の蓄積による体系が……」

「あらー、錬金術なんてお手軽魔法のようなものじゃないですか。適当に素材作って、ちょっといじるだけで高度だ! と自画自賛している連中にどうこう言われたくありませんわ」


 そこで二つの受付から、その受付嬢が微笑みながら、けれど怒りに満ちた雰囲気というか空気を周りに振りまきながら受付の前の廊下に出てきて、


「……今日という今日は許せないわ、魔法使いが!」

「それはこっちの台詞だわ、相変わらず目障りね、錬金術師が!」


 二人がそう言いだし、次の瞬間取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 先に仕掛けたのは錬金術師の受付嬢。

 その細腕ながら、相手を殺すつもりのような殺気を込めて、魔法使いの受付嬢にパンチを繰り出す。

 だがそれを魔法使いの受付嬢は涼やかな表情で避け、錬金術師の受付嬢のパンチは柱のような場所に当たり、轟音を上げながら直径が彼女の背丈半分ほどのクレーターが壁に出来る。

 そこでそんな錬金術師の彼女の背後から、魔法使いの受付嬢がハイヒールで蹴りを加える。

 けれどそれを瞬時に察した錬金術師の受付嬢が両手で防御する。


「まだまだ甘いわね」

「ふん、貴方のパンチなんてそよ風のようだわ」

「そんな事を言っていられるのも今のうちよ!」


 そう言って足での攻撃を始めるか彼女達。

 スカートがミニスカートだが絶妙に中が見えない。

 そんな風に現実逃避していたいというか、そもそも女同士の喧嘩には男は口を挟めないものなのである。

 それにこんな二人の体術を見ていると、これ、止めたら俺が死ぬんじゃないだろうかという感覚を覚える。

 しかも童貞で彼女いない歴=年齢の俺には、女性のなだめ方など分かるはずもなかった。そこで、


「君達! 何をやっているのかね」

「今日は人が多くて大変なのに遊ぶな!」


 中年の男性らしき人が慌てたようにやってきてその場を収める。

 これが年をとった男の貫録か、と思って俺は様子を見ていたのだが、


「失礼しました。まあどの道魔法使いなど錬金術師の下働きになる事でしょうしね」

「またまた御冗談を、錬金術師などただ金属を作って遊ぶだけのものなど使いようがないですからな」

「相変わらず魔法使いの冗談はセンスが無いですな」

「ははは、錬金術師殿は冗談と皮肉が分からないようですから、センスという問題ではないですな」

「「それでは」」


 中年男二人が握手を交わし、お互いぎりぎりと強く握っていて見るからに痛そうだ。

 人間は大人になっても大人げが無い物なのかもしれない、そう切なさを覚えながら俺は、チクチクとした視線を感じながら「錬金術師」と「魔法使い」の職業を登録したのだった。








 その謎の“うどん”のお店に向かいながら俺はミルルに聞いてみた。


「あの錬金術師と魔法使いは何であんなに仲が悪いのか知っているか?」

「? ご存じないのですか? ……ああ、閉鎖的な場所が出身でしたっけ。えっと、現在は好きな職業が三つまで選べるシステムになっていますが、昔は一つしか選べなかったのをご存知ですか?」

「いや、知らない」

「そのせいで、優秀な人材一人、二人抱えるだけでその職種のギルド内での地位が格段に上がってしまうのです。つまりその職業の力関係の均衡が崩れるのです。そういった争いの回避と、た職種からの有能な人材が流動的に入ってこれるようにという事で、現在の三つ、最低でも二つ職種を選ぶ運びになったのです」

「そうだったのか……」


 そういった設定はゲームの時にあったのかどうかは、正直覚えていない。

 普通にそのあたりの説明は読み飛ばしていたので、もしかしたならそこに書いてあったのかもしれない。

 今思えばよく読んでおけばよかったと後悔が募る。

 そこで更にミルルが、


「そもそもそういった流動化の前には、大きな争いがあったのですがそれもご存じないのですか?」

「? 知らない」

「実は西部の農業地帯では奴隷が大量にいたり売り買いがなされていました。けれど東部は反対に錬金術師や魔法使い、剣士などといった冒険者が不足していたのです。なので、そのために人道的に反するといった理由を建前……旗印にして、奴隷解放による戦争が勃発しました」


 要するに労働力である奴隷の奪い合いが東部と西部であったらしい。

 というか冒険者が奴隷って……と俺が思っていると、


「ただやはり冒険者は遺跡に潜ったり採取を行ったり魔物と戦ったりと、危険な職業なので元奴隷の方々もあまりやりたがらなかったらしく、それほど増加はしなかったそうですが」

「そうなんですか」


 でもそうなってくるとこのミルルまさか……と俺は思っていると、


「あ、もしかして私が奴隷出身とか思いましたか?」

「い、いえ、そんな事は……」

「タイキは嘘が顔に出やすいです。もう、こう見えても一応貴族のはしくれなんですよ?」

「ええ! 貴族のお嬢様がこんな危険な事を?」


 普通優雅にお茶を飲んでいるイメージが俺にはあったのだが、ミルルは怒ったように、


「そんな凡庸な貴族令嬢と一緒にしないでください! 私達“淫魔”は、自分の有能な夫は自分で見つけるんです!」


 そう告げたミルルだが、俺は目を瞬かせた。

 今彼女、“淫魔”って言わなかったか?


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