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しょうげきのじじつ

 俺だけで無くミルルとシルフまで驚いていた。

 二人とも魔族なのに知らなかったのかと俺が思っていると、魔王ロリィが深々と嘆息し、


「なんだ。たかだか数百年たった程度で忘れてしまう物なのか」

「いえいえ、魔王様。私達は全くそんな話は聞いておりませんので親の世代ですでに途切れているかと」

「そうなのか? まったく……まあの世界から追いやられてきたのは事実だから、忘れたかったのかもしれないな」


 そうロリィは呟いて、何処かぼんやりと遠くに思いをはせる。

 それを見ながら俺は、そういえば以前異世界からの侵略があって撃退した時は、魔王との戦いがと言っていたような気がする。

 つまりこの幼女ロリィ達は、


「以前、この世界を侵略しに来た異世界の存在って、貴方方ですか?」

「む? 随分詳しいな。それとも試しに言っているのか?」

「いえ、女神様に聞いたので」

「……何だお主、女神様に会った事があるのか?」

「はい、女神様に、どうやら俺と鈴がですが、異世界の人間が来た時に対抗する為に連れてこられたみたいで」

「なんと、女神様が……」


 魔王ロリィはとても驚いている。

 そういえば異世界の侵略者であった魔王達、魔族がここにいるのは不思議にも思えるが、女神様を信仰していそうなのだ。

 それは一体何故なのだろうと俺が思っていると、


「女神様はこの世界に我々が残る事をお許しになって頂いた恩がある。あちらの世界では、我々魔族は力が強いが数が少なくて、結局居場所を無くしてしまいここに侵略という名のもとに移住してきたからな」

「そうだったのですか。でもこの世界に馴染めたのですか? 食糧やら何やらは……」

「強い魔族である私の様なものは、回復しにくいとはいえ何も食べずとも生きていける。けれど魔族といっても弱い者は食事が必要だが……この世界の存在と、我々の世界は似ていたようですんなりと適応出来た」


 この世界とあちらの世界が似ている……だからあの謎生物の羽でこういった錬金術の道具が作れたのだろうか。

 俺はそんな事を考えつつ、


「この世界の物質とそちらの世界の物は似ているのですか?」

「もちろん、文化からなにから……しいて言うなら食生活はこちらの方が良いかもしれない。こんな多様な食べ物や香辛料、料理法まで楽しくて堪らない」

「そうなのですか。実は以前その異世界の生物から採った羽がありまして、それを使って錬金術の道具を作ってみたのです」

「ほう、どんなものだ?」

「こんな感じです。“翔べ”」


 そうつぶやくとオレの背中から羽根が生えて、ブーンと言う格好の悪い音が響く。

 そしてふわりとオレの体が宙に浮くが、それを見ていた魔王ロリィが、


「ふむ、ハネテントウムシの羽か。確かにあちらの人間どもも錬金術で、そのようなものを作っていたな」

「錬金術? あちらにもそれが有るのですか」

「うむ、まあ、我々魔族以外は基本的に魔法が使えないのも理由の一つだがね」

「え? あちらの人間は魔法を使えないのですか?」


 そう聞きながら俺は不思議に思った。

 あの偽怪盗は魔法のようなものを使っていた。

 そしてそれが俺達にとっても危険な威力を持っていた。

 話が矛盾する、そう思っていると、


「その代わりの“錬金術”だ。その道具を使えば魔法のような現象を起こすことは出来る。まあ、それでもあの当時は我々魔族よりも弱かったが……人間との混血も進み、我々魔族の力も弱まってきたからな」

「つまり、呪文を唱えて魔法が使える、この世界の普通の人のようなものがあちらの魔族、ということなのでしょうか」

「……それは少し違うな」


 そこで魔王ロリィがちらりと“魔法の精霊ステッキ”の精霊ミィを見やってから、


「我々魔族は魔法の呪文もなく、多少の魔法がもともと使えた。魔力が強いことに起因しているのだが、あえてこの世界の存在で似ているものといえば……そこにいる猫のような“精霊”だ」


 そう告げた魔王ロリィだがそれにミルルが、


「ですが私も、シルフも呪文を唱えなければ魔法が使えません。そもそも私は、魔法使いを選択していませんので今はもう無理ですが……」

「人との混血が進んでその能力を失った者も多い。特に淫魔族なお前達の場合は、新しい血を求める傾向が強いからまっ先にその能力は失われたがね」

「……知りませんでした」

「ふむ、世代交代もあったし仕方があるまい。すでに魔族の貴族達もその能力を大半の者が失っている状態だからな。それに、その職業選択か。あれは自身の能力を固定して特化させる、そしてそれ故に強くさせるのは女神の計算によるものだ。ただ途中で合わないとわかった時に変化させた方が効率がいいのと、人間側の思惑とが一致した結果現在のゆるゆるなシステムに成ったがね」


 余りにも衝撃的な話に、ミルルもシルフも黙ってしまう。

 でも“精霊”やら、力の強い魔族の話を聞いていると、


「それだけ強いのに何で追い出されたんだ? 抵抗しなかったのか?」

「数の暴力はきつかった、そういうことだ。それに世界を隔てれば彼奴等はおうのも難しくなるのでこちらに来たのだが……まあ色々あって、この世界の滞在を女神様に許された、ということだ」

 

 魔王ロリィが笑う。

 それを見ながら俺は、


「その人間達の力は強いのですか? というか錬金術しか無いと?」

「うむ、実際に錬金術で魔法のような現象があの当時もすでに起こせていたから、あれから何百年もたった今、どのように進化したかわからない」

「そうですか。あった相手はずいぶん強力な力を持っているようでしたので」

「! ……そういえば女神様にそれようにお前達は呼ばれたんだったか。そしてすでに接触しているのか。……ふむ。もしも我々の力が必要であればいつでも頼るが良い」

「ありがとうございます」


 そう俺は答える。

 と言うか魔王様でしかもあちらの世界出身ならばこの先何かあっても色々聞けるだろうと思う。

 そもそも女神様はこの世界には詳しいが他の世界には疎いかもしれないのだから。


 そんなことを思いながらも錬金術について俺はなにか引っかかりを覚える。

 何でだろうなと悩んでから、そういえばあの羽根は魔法では使えなかったと想い出す。

 もしかしたなら、あちらの世界には人間達の使う魔法が存在しないので、上手く使えないのかもしれない。


 代わりに錬金術であればあちらの世界のものでも隠したり使ったりが出来る、そういうことなのだろう。

 そうやって俺が黙って推測を立てている所で、サーシャが現れた。


「うう、みなさんばかりずるいですぅ」


 そんな悲しそうな声のサーシャだが、そんなサーシャを見た魔王ロリィが、


「お主、一体何に触れた!」


 驚きの声を上げたのだった。


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