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あの箱は本当に異次元に通じているのかもしれない

 茫然と呟いた俺に、怪盗バンバラヤンが、


「……君達もあの偽怪盗に狙われる可能性があるわけが。冒険者で魔石を持っているわけだし」

「いえいえ、俺達は全く関係がないので、というか早くあれを捕まえて下さい。今日も遺跡で遭遇しましたし」

「! あの偽物に会ったのか!」

「ええ、冒険者は魔石を持っているからと遺跡に待ち伏せされて……」

「何処だ! あいつは……あまりにも危険すぎる」


 そう叫ぶ怪盗バンバラヤンに俺は、


「もしや一戦交えていたりするのですか? そういえば追いかけていましたね、昨日」

「そうだ! 人を傷つけないようサーシャ姫の捜索をしてきたのにあいつが現れて、何とかけが人を出さないよう今の所は事前に防御が出来ているが……今日は見かけないと思って安心していたらこれか」

「……どうやってあの、偽者の怪盗を見つけているのですか」


 これだけ広い町だ。

 どこに潜んでいるか分かりそうなものだがそこで、怪盗バンバラヤンが、


「あいつは、遺跡からやってくる」

「遺跡?」

「そう、“空中の花園”と呼ばれる遺跡からやってくる。つけていってその遺跡まで行くと忽然と姿を消すので、何時も取り逃がしているが」

「姿を消す、ですか? 見失う、ではなく」

「こう見えても我々の仲間は力も強いしある程度は戦闘慣れしているので、追いかけるには追いかけるが、途中で忽然と姿を消して見失ってしまうのだ」


 その奇妙な言い回しを聞きながら、相手にしている物が得体の知れない存在だと俺は思う。

 そもそもそれと戦わせるために女神様は俺をこの世界に呼んだようなのだ。

 ならばその正体くらいは事前に知りたいし、あの強い力を見ると、それなりの準備をするかここりが前が必要に感じる。


 更に付け加えるなら、強い力のある魔石を見抜く力がありそうなのだ。

 そこで俺はふと気付く。

 あの遺跡であの偽者に会った時、あいつは俺に、敵とは認識していたが魔石を寄こせとは言わなかった。


 俺はあの時、サーシャや“魔法の精霊ステッキ”の精霊ミィの魔石を持っていたが、あいつは気づいていなかった。

 もしかしたならあの箱は本当に異次元に通じているのかもしれない。

 そしてそれ故に、あの偽者の怪盗は気づかなかった。


 それを考えれば箱の中に魔石を隠しておけば、ある程度気付かれないか。

 だが俺達を襲ってきた時は魔石に気付いていた。

 もしかしてその魔石は、あのサーシャと“魔法の精霊ステッキ”の精霊ミィの魔石だったのか?


「何か考え込んでいるようだが、気付いた事でも?」

「いえ、一度俺達が家にいる時でも、あいつに襲われた事がありまして」

「何だって! サーシャ姫達にも何かあったのですか!」

「上手く撃退したから大丈夫なのですが、何だか少し離れた場所からでも魔石が分かるようでした」

「何かそういった道具を使っているのかもしれない。……捕まえられないのが面倒だ。しかも、一度撃退したならまた君達の前に現れる事になるかもしれないのか」

「そうですね」

「よし、君達を張っていれば彼はまた現れるかもしれないな」

「いえ、何だか遺跡を拠点にしようみたいに言っていたように見えましたが」


 そう俺が怪盗バンバラヤンに対して話すと、彼は少し黙ってから、


「……その遺跡からまず追い出して、君達に囮になってもらおうか」

「その前に遺跡で追い詰めて倒すわけにはいかないのですか」

「したいのは山々だが見失うし、それに、見たこともないような奇妙な珍しい魔物が大量に現れて、しかも強くて遺跡内では追いかけるのは難しそうなんだ」

「見た事のない奇妙な魔物?」


 それを聞いて俺は思う。

 ゲーム内でいたかな? と思う魔物。

 そしてそれが、女神様が俺を呼んだ理由に関係するあの偽者と、同じ場所で沢山いる。


 安易に結びつけるわけではなく、あくまでも偶然の可能性だってある。

 そうは思うのに、ゲームとい世界が違う以上に、何か違う物がこの世界に存在しているのではという違和感がある。

 ただ、それは確実な話ではない。


 そもそもここに来て俺は、数日しかたっていないのだ。

 それこそ一週間もたっていないのだ。

 それでこの世界を知った気になるのもおかしい。


 事前にゲームとしてこの世界を体験していたとしてもだ。

 そこで怪盗バンバラヤンが、


「何か思い当たる節でもあるのか? 奇妙な魔物に」

「いえ、遺跡で妙に強い魔物がいたので、ああいったのが出てくるのかなと」

「……それはあの、“空中の花園”か?」

「いえ、他の場所です」

「……それで、その偽物と出会った場所には、あの奇妙な魔物はいたか?」

「そういえばいませんでした」

「となると、あの偽者の怪盗がいるからといってあの奇妙な魔物が出るわけではないのか?」


 いわれてみれば確かにそうだ。

 偶然の事象を結びつけないようにと俺は思うが、かといって別の要因がからんでくれば話が変わる。

 どちらにせよ、あの偽者怪盗を捕まえない事には推測しか出来なさそうだ。

 そんな事を俺が考えていると怪盗バンバラヤンは、


「話していてもらちが明かないな。とりあえずはもうすぐ姫様の影武者がここに来るので、その時に姫様の体もこちらに持ってくる予定です。その時まで何とか奪われないようにすれば、姫様の安全も確保できるでしょう」

「それならサーシャはそちらで保護しますか?」


 こうなってしまったので今のうちにサーシャを知り合いに預けた方が良いと思った俺だがそこでサーシャが、


「えー、もう少しタイキ達と一緒にいたいです。その方が楽しいですし」

「いやいや、きちんと知り合いがいたんだから見ず知らずの俺に頼るのではなく……」

「……酷い、タイキ。私の初め手を奪ったくせに」

「お前が勝手に俺にキスしたんだろうが!」


 だからそんな意味深な発言をするなと俺は言いたかった。

 だが、そこで怪盗バンバラヤンが、


「キス、だと? しかも勝手に、だと?」

「! 頬にされただけです! ああもう、さらに状況がややこしくなってきた……サーシャが魔力目当てで、そういう事を言ってそういう事をしただけ! 俺から無理やりさせたわけではありません!」

「自発的に、だと?」

「ああもう、サーシャ達は返して俺は平穏な生活に戻りたいんだ!」


 そう俺が叫んだ所で、再びリズさんの屋敷で爆音が響いたのだった。


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