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ただの変態さんにしか見えません

 現れた女神様は楽しそうに俺の首に手を回し、


「どう? 私の助けがないと困った事になるでしょう?」

「というかもう家に返して下さい! 何だかよく分からない内に犯人に仕立て上げられたんですよ! あいつに!」

「あら、イケメン」


 そう言って女神様の声が弾んだ。

 俺は何となくむっとしていると、口を開けて茫然としている怪盗バンバラヤンに近づいて行って、


「ふーん、ふむふむ」


 何かを見て楽しそうに頷いている。

 そこで怪盗バンバラヤンが、


「め、女神様が、どうしてこんな場所に……まさか、偽物……」

「あら、貴方には本物と偽物の区別がつかないのかしら」


 女神様が歌うように呟く。

 けれど何処か冷たい声音が混ざっていて、俺はびくっとしてしまうが、怪盗バンバラヤンもそれを感じたようで慌てて、


「い、いえ、この神々しさは間違いなく女神様かと」

「でも、貴方はまだ私に疑いを持っているようね。それに私の可愛いタイキをいじめた罰として、どんな天災がお望みかしら」

「! ま、待って下さい。私は決してそのような……」


 必死になっている怪盗バンバラヤンを見ながら俺は、この女神様、実はとっても怖い人だったりするのかなと思っていると、


「……全く人間て本当に面倒よね。少し脅かしてやらないと、すぐに疑心を持って本当の事を言っても信じなくなるし。あー、面倒臭いわ」


 女神様がぶっちゃけた。

 そこに神々しさの欠片もない。

 見ると怪盗バンバラヤンも、えっという顔をしているが、そこで更に女神様が、

 

「そこの幽霊が、本物のサーシャ姫だと教えたのは私。全てを見通す女神であるのだからその程度は分かるわ。そこまでは納得したかしら?」

「は、はぁ」

「……納得していないわね」


 女神様の言葉に、びくっと震える怪盗バンバラヤン。

 そんな彼に女神様は、


「仕方がないから更に教えてあげるけれど、あのサーシャ姫の記憶は別の魔石に飛び散っていて、貴方の屋敷の宝物庫にあるわ」

「! その話は本当ですか?」

「ええ、さらに続けるなら、その魔石は全部で九個。貴方に預けるとサーシャ姫が渡しておいた魔石よ。その数は貴方とサーシャ姫以外知らないでしょう?」

「そ、そうです。……やはり本物の女神様なのですね」


 怪盗バンバラヤンが驚いたように呟く。

 そこで女神様が悪戯っぽく笑った。

 あ、これは弄ぶ時の顔だと俺が気付いた所で、


「ふふ、貴方サーシャ姫の体を覆うあれを、毎日毎日アルコールで殺菌消毒するように丁寧に磨いていたようね」

「な、何のことでしょうか」

「そうよね、ただ大事に扱っていただけだものね。それに、サーシャ姫ファンクラブの……」

「わ、分かりました。もう止めて下さい、嘘はつかないと信じますから!」

「あら、私が何時嘘をつかないと言ったかしら」


 女神様が笑って怪盗バンバラヤンに問いかける。

 ここに来てそういう辺りに、この女神様もちょっと性格が悪いと思いながらも、確かに一言も嘘はつかないと言っていないのだが、なので俺は、


「それで俺は、本当にいつか元の世界に戻して頂けるのでしょうか」

「ええ、もちろんよ。目的が終わった所で、戻してあげるわ」

「……でも嘘かもしれないんですよね?」

「それはないわ」

「でも嘘はつかないとは一言も言っていないわけですし」


 そこで女神様は慌てたように俺に、


「う、嘘はついてないわ。名残惜しいけれど、目的が果たせたなら元の世界に戻すわ」

「やっぱり、全部放り出して、元の世界に戻る方法を探すか……。確か携帯の電波は届くみたいだから、そうして……」

「ふ、ふん。そんな事を言っていいのかしら」

「……何をするつもりですか」

「だって貴方、すでに巻き込まれているんですもの」


 自信満々に女神様が言いきる。

 一体何処で俺は巻き込まれつつあるんだろうと思って、ちらっと怪盗バンバラヤンを見た。

 しばし彼をじっと見てから、


「俺と怪盗バンバラヤンの関係があまり良くないと、困るのですか?」

「……そうね、それは正解かもね。でも、一応権力者と仲良くしておいた方が良いと思うし、それに……」

「それに?」

「意外に話が合うと思うわよ? タイキとそっちのクロードちゃん」

「え? これとですか?」


 俺は心外だと思った。

 少なくともお姫様のファンクラブをやったり、こんな変な格好をして怪盗をやったりなどするような変態的な趣味はない。

 俺はごく普通の一般人である自信がある。そう思っていると、


「これとは何だ! これとは!」

「……俺、そんな恥ずかしい恰好で外は出歩けないです」

「いや! こういうのもまた格好いいのではないかと私は思う!」


 そこで俺はミルルに振りむき、


「格好いいか? あれ」

「いえ、ただの変態さんにしか見えません」

「シルフは?」

「……イケメンだから許されるレベルです」

「リズさんは?」

「……私も年なので若い子のセンスはちょっと分からないかしら」

「サーシャは?」

「格好いいです! あんな風にマントを翻す怪盗っていいですよね!」


 ミルルやシルフ、リズに言われて落ち込んでいた怪盗バンバラヤンがサーシャの一言で復活した。

 それを見ながら俺は、


「もしかしてサーシャがこんなだから、あの怪盗バンバラヤンと気があっていたのかもな」

「! まるで私が変人みたいじゃないですか!」


 サーシャがそう怒りだすが、それ以上俺は言わなかった。

 代わりに女神様に俺は、


「俺とあいつの感性は違いすぎるので仲良くなれないと思います。なので俺はあいつに関わらないようにします」

「えー、でもすでに関わっちゃっているし、今回巻き込まれるのも確定なんだけれどね?」

「全力で拒否したいです!」

「でも今逃げても、何処かで巻き込まれると思うわよ?」

「何でですか! 面白がっていないで教えて下さいよ!」

「でもそうすると逃げちゃうのよね?」

「当り前です! 分かっていて危険に飛びこむ人間が何処にいるんですか!」


 それに女神様は困ったように呻いてから、


「でも貴方に与えた力でどうにかならない事はないと思うのだけれど」

「……ですが、危険には近づきたくないですし……待てよ。今逃げても巻き込まれる?」


 そこで俺は女神様のその言葉に気付いた。

 そんな俺に女神様は、


「あら、気付いてしまったかしら」

「怪盗バンバラヤンがらみで、今にげても、必ずまた現れそうな……まさか」

「そのまさかは正解よ。タイキ。それじゃあ私は貴方も疑いは晴らしたし、戻るわね」


 消え去ってしまう女神様に、どんよりした気持ちに俺はなりながらも呟く。


「それは、怪盗バンバラヤンの偽物が関係するってことじゃないか」


 そう茫然と俺が呟いた、その時だった。



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