私の初めて、あげちゃった
どう考えても勘違いされて、いるような気がしてならない。
そして現在進行形で俺の危機が、更に増大している。
これは今のうちにどうにかしておかないと後々禍根を残すフラグ。
「え、えっと、もう少し話を聞いて頂きたいかと俺は思うわけですが……」
「……いいだろう、言ってみろ」
どうやら話を聞くだけの冷静さはあるようだった。
一応、一国の姫というかサーシャ姫と関係がある程度に力を持つ貴族……なのだと思うので争いたくない。
平穏な生活を手に入れるためには、彼のような人物に目をつけられることだけは避けたい。
だからどうあっても誤解をとかなければと思う。
そもそも俺がどうしてサーシャと出会ったかといえば、
「実は、たまたま借りたリズさんの部屋に、サーシャ姫のとり憑いた魔石が転がっておりまして」
「もう少しマシな嘘は付けないのか」
「……いえ、本当の事なんです」
「……まあいい、続けろ」
全く納得していない口調で怪盗バンバラヤンは告げた。
偉そうな口調だが、俺はどうにか話は聞いてもらえそうだと思いつつ、
「それで俺の部屋に入った所、たまたまサーシャ姫が潜んでいまして。どうやら記憶をなくしていたらしく、俺に“飼ってくれ”と言われまして」
「姫様に自分から飼って下さいと言わせただと!」
「違いますよ! 俺に寄生して生き延びようとしたんです! こそこそ人に見つからないように隠れていたら、たまたま空き家になって魔力を補給できなくなっていた所で魔力を俺が補給したんです。いわば俺は命の恩人です!」
俺は必死になって説明した。
だってどう考えても俺がサーシャ姫と特殊なプレイをしたとしか思えない話になる。
俺にそんな嗜好はないのだ!
そこで怪盗バンバラヤンが深々と嘆息して、
「今の話を聞いていて気づいた点がある」
「な、なんでしょうか」
「お前は何故、その人物がサーシャ姫だとわかった?」
それを聞きながら俺ははっと気がついた。
そういえばサーシャは記憶喪失だった。
自分が誰なのかも分かっていなかった。
けれどそれを聞いたのは女神様だった。
その辺りをお話したとしても、絶対に信用されない。
それどころかお前は一体何者だといった話になるわけで……女神様に連れて来られた異世界人で、力は多分この世界で最強……とか?
そんな話をしたなら俺はどうなってしまうんだろう。
俺が悩んでいるとそこでミルルが、
「私がたまたま以前お見かけしたサーシャ姫に似ていると思いまして」
「……貴方は?」
「ミルル・シーファリン。魔族のシーファリン家の長女です。ご存知ありませんか?」
「……確かにそのような貴族の名前は存じておりますが、なるほど。貴方がシーファリンケの貴族であると仮定して、貴方ならば似ているかはわかりますね。ですが……サーシャ姫だという断定は何処で出来たのですか?」
そこでミルルは黙る。
だって女神様に聞いたし、なんていうのも頭を疑われるだけの気がする。
そこで俺は思いついた。
そう、この前窃盗団を倒した時に、
「じ、実はこの前リズさんの家に窃盗団が襲ってきまして、“夜露死苦”という……」
「ああ知っている。一応我々も追いかけてはいたからな。だが、サーシャ姫の“魔法の精霊ステッキ”にひどい目に合わされたからな」
「そうなのですか。それでその“魔法の精霊ステッキ”の精霊ミィに聞きまして……」
「何故お前がその“魔法の精霊ステッキ”を持っているんだ?」
警戒するように怪盗バンバラヤンが俺に聞いてくる。
それに俺は自分の失敗を悟る。
だってこの“魔法の精霊ステッキ”、勝手に俺達で回収したわけだし……。
「え、えっとたまたま手に入ったので」
「ほう、たまたま、ね」
「……はい」
「まあいい。それで、本当はどうしてサーシャ姫だとわかった? そっくりな別人かもしれないじゃないか」
またそこに戻ってきてしまう。
俺は嫌な予感がしていると、
「お前も窃盗団の仲間か何かじゃないのか? だからサーシャ姫の場所を知っていた。もしくは利用するために……」
そう言い出した怪盗バンバラヤンに俺は、
「お、俺は違う!」
「そうです、タイキはそんな悪い人じゃないです!」
「そうそう、見かけがいいだけのお前とは違ってタイキはちょっと性格が悪いけれどいい人です!」
ミルルとシルフが援護してくれる。
それに俺は仲間がいてくれて本当に良かったと思っていると、
「ミルル様、貴方はその男に騙されていると思わないのですか?」
「そんな事はありません! タイキは悪いことをするような人ではないです!」
「……話にならないな」
話にならないのはお前の方だと俺は言いたかった。
そこで怪盗バンバラヤンは俺の方を睨みつけ、
「それでお前は何者だ? 普通っぽく装っているが……只者ではない魔力を感じる」
「え、あー、善良な一般市民です」
「嘘をつくのは大概にしろ! ……敵であれば、そこにいるリズが容赦しないだろうから装っているのかもしれないがな」
段々俺は何でこんなものすごい悪者にされているんだよと思った。
なのにその当事者のサーシャといえば、気持よく眠ったままで……俺はそう考えたらむかっときた。
サーシャの眠っている箱を叩いて、
「おい、サーシャ、お前も手伝ってくれ」
「むにゃ~、何か後ようですか? 昼間の変な魔石に触ってから眠くてたまらなくて……わ、イケメン!」
サーシャは面食いらしい。
顔で男を判断しやがってと俺は恨めしく思いながらもなんとか状況を改善できないかと思っていると、
「サーシャ姫、お久しぶりです!」
「……誰?」
「クロードです。良かった……ご無事だったのですね」
「はあ、そうです」
「それでサーシャ姫とそこの男の関係は、どんなものか今すぐサーシャ姫の口から聞かせて頂けないでしょうか」
ここで俺が命の恩人だとサーシャが告げれば、俺への疑いは晴れるだろうと思った。
だが、その相手はあのサーシャだったのだ。
そこでサーシャは頬を赤らめて、
「私の初めて、タイキにあげちゃった」
しんと周りが静まり返る。
ミルルの方からぎりっと歯ぎしりする音が聞こえたが、それよりも、
「お前……幽霊であるサーシャ姫に何をした」
「な、何もしていない」
「ふ。そういうことをした男は皆そういうものらしいのだよ。だが、相手が悪かったな」
「ま、待ってくれ、全部誤解なんだ!」
この怪盗バンバラヤンの様子ではどうにもならない。
俺の話を聞くどころかいろいろな話が合わさって更に俺が危険人物な話になっていく。
もうこうなったら奥の手を使うしか無い。
「め、女神様、お願いします」
スマホを取り出して呼ぶが、女神様からの返事はない。
出てくる様子もない。
何でだと俺が思っていると、そこで怪盗バンバラヤンが、
「それで、今度はどうするつもりだ? とうとう観念して神様にお祈りでもするつもりか?」
「ああもう、何でこの世界の人間じゃないのに巻き込まれて俺はこんなことになっているんだよ! もう嫌だ、元の世界に帰る、絶対に帰ってや……」
そこで、ふっとスマホに女神様が写って、にゅっとそこから現れた。
「ちょっと遅れて出てみたわ。タイキも私の有り難みが分かったかしら?」
女神様が、クスクスと楽しそうに笑いながら、涙目な俺の前に現れたのだった。




