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真っ青になっていたのだった

 更に奥深くまでやってきても何もない。

 相変わらず空っぽの壁に地面からは何だかよく分からない得体のしれない植物が生えていたりしている。

 もしかしたなら使えるのかもしれないが、使い方を調べるのも面倒なのでとりあえず放置だ。


「米さえ手に入れば後は要はないんだが、こうも何もないと……逆に疲れる」


 単調な景色が延々と続き、敵すらも襲ってこない。

 こうやって気を抜くのは命に関わるというのもわかるが、こうも単調すぎると眠くなる。

 欠伸が出てしまいそうだ。


「そういえばこの世界の米って、どうやって出来ているんだ?」

「確か、草のような植物で、花の部分に透明なガラス瓶のような膜に覆われたものが実るそうです。その中に、米が入っているんだと昔図鑑には書かれていました。それが熟すと四方八方に飛び散るので、完全に熟し切る前に収穫しないといけない草だそうです」

「……精製された白米がその中に入ってきている予感がした。でもそろそろ深く考えないようにしよう」


 今の所食べていても何の問題もなさそうだし。

 そう思いながら進んでいく俺達は、ようやく敵と遭遇するが、


「暇過ぎて耐えられないからもらったぁあああ!」


 シルフが現れた鼠の魔物に向かって、大鎌を振るう。 

 それを魔物は白い歯で受け止める。

 けれどそこでシルフは笑い、


「蠢く炎の蛇よ、敵を喰らい尽くせ“火炎の蛇(フレア・スネーク) ”」


 そう呪文を唱えて、鎌に抵抗するので精一杯な魔物を焼きつくす。

 断末魔の悲鳴が聞こえて、後には銀色の石のようなものが落ちる。

 錬金術に使う、鉱石の一種だ。


「ふむ、あまり高くないですがお持ち帰りです」


 シルフがふんと鼻で笑って、自分のポシェットに入れる。

 そして更に奥へと俺達は進んでいく。

 明かりの感覚も等間隔な階段を降りること、10階。


 未だに、先ほどの鼠以外の敵もいなければ有益なものも採れていない。

 ましてや米など何処にあるのか分からない程度だ。


「どこかに隠し部屋でもないかな。きっとそこなら取られていないだろうし」


 俺が疲れたように呟くと、それにミルルが、


「でもそんな隠し部屋は、この前のような場所であればすぐに戻ってこれましたが、ここでは戻れなくなるかもしれません」

「というと?」

「遺跡はそういうものですから」


 肩をすくめるミルルに俺は小さく笑う。

 でもここの人たちは米を食べないのに何で収穫するんだろうと思う。

 もしくは別の目的があるのだろうか?

 疑問に思った俺だが、すぐに気づいた。


「ここの米って、元々そんなに生えていない貴重なものなのか?」

「……そういえば、珍しい種だと昔見た図鑑には書かれていましたね」

「余計に見つかりにくくなったな。米ってそんなに貴重だったのか……やはりあれは魔法の調合で作るべきだったのだろうか」


 そうすればそれで人参やらその他野菜はスーパーに行って購入で……新鮮野菜、とれたてという言葉に俺は惑わされてしまったのだろうか。

 今更ながら湧き上がる後悔。

 そこでまた俺達は広い部屋にやってくる。


 もう天井にでも生えていないかなと俺が見上げるとそこには、沢山のそれらしい米の実が。

 それを見ながら俺は少し悩んで、


「もしかして高い場所にあるから採れなかったのか? それとも高い場所にあるのだけ残っていたのか……まあいい。“翔べ”」


 そう呟くと同時に、ぶーん、という叩き潰したくなるような虫の音がする。

 そしてそのまま地面をけって、天井付近に近づき、5個ほど収穫する。

 この米のガラスで覆われたような実だが、一つ一キロ程度の米、精製されたものが入っているようだったから。

 そこそこ人数がいるとはいえ、ここの主食は米ではないので、あまり必要じゃないだろうと思ってそれだけ回収する。


「よし、コレで米が手に入ったから帰ろうか!」


 地面に降りた俺は革袋に最後の一つを入れながら、俺がミルル達に行った所で悲鳴が聞こえたのだった。






 悲鳴が聞こえたのは下の階だった。

 俺達は慌ててそちらに向かうが、そこには倒れて怪我をして呻く、男性らしき冒険者に気づく。

 けれどまだ彼の仲間であるらしい男二人はその敵と戦っていた。


「魔石をよこせ。ここにいればお前達のような魔石を持っていそうな冒険者と接触しても、ジャマが入らないからな」


 やはりあの偽の怪盗らしい。

 それに冒険者らしい男が、


「くそっ、何でこんな強いんだよ、さっきから全然ダメージが……」

「俺達も手伝います!」


 俺が叫ぶと同時に炎の矢がその偽怪盗に向かう。

 それを振り払うように消してしまうその偽の怪盗だが、それにシルフが更に炎の攻撃を加え、ミルルが弓を打つ。

 その間に俺は、呻いて倒れている男の怪我を癒やすことにした。


 体力がだいぶなくなっているが、この魔法が少しでもいいかと思って説明を思い出しながら呪文を調べ、指を触れる。

 触れると同時に俺の口から呪文が溢れて、魔法陣がその怪我をした男の下にも広がる。


「“神聖なる癒しの明かりホーリー・ヒーリング・ランプ ”」


 同時に魔法陣が輝いて、光の小さな粒が生まれてその傷口に入り込み、みるみる皮膚が再生される。 

 それと同時に男が呻くのを止め目を開いた。


「た、助かった……すみません、まだうまく動けなくて」

「ムリしないで、俺が肩を貸します。でも良かったです。

「ああ、君達が来てくれて助かったよ」


 お礼を言いながらぐったりしているその男。

 早めにこの世界の医者に見せたほうがいいか、さっきので完全に治っているのかわからないしと思いながら、戦闘の状況を見る。

 一緒にいて強さが少しは分かる俺が見て、ミルル達でも劣勢のようだ。


 どういうわけかは知らないが、ミルル達の攻撃はすべてあたっているように思えるのにあの偽怪盗には効いていないようなのだ。

 しかも次々と魔法攻撃もしてくる辺り、とても面倒な相手だった。

 以前襲ってきた時は、直接だったのだがまるで、ただそこにそういった形の幽霊がいるように感じる。


 もしかしたなら幽霊のまま攻撃できるのだろうか。

 このサーシャは魔法を使っている所は見たことがないが、魔力自体はある。

 さてどちらだろうかと俺は考えながらも、


「攻撃が効かないなら引き上げた方がいいな。ミルル、後他の皆もここに集まってくれ!」


 そう俺が告げると、その怪我をした男の仲間も全員俺の周りに集まる。

 逃すかとばかりに偽怪盗は攻撃してくるが、


「“アリアドネの糸”発動!」


 それと同時に俺達は何かに引っ張られるようにしてその場から動き出し、気づけば全員、入り口に立っていた。

 攻撃が当たる前にここにこれたのは良かったが、


「気持ち悪い……」

「私もです」

「私も……」


 俺の言葉にミルルとシルフがうなづきながら顔を青くして、助けた冒険者達も真っ青になっていたのだった。


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