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前払いです、よろしく!

 砂地には野生の野菜があるらしいと聞いていたのだが、奇妙な形をした野菜が転がっている。

 何故野菜かと分かったかと言えば、


「これはカボチャですね」

「こっちには、きゅうり」

「こっちはトマトね。……あ、ジャガイモの木」


 ミルル、シルフ、サーシャとミィも次々と見つけてくる謎野菜。

 知っている物とはちょっと形が違うのだが、これは野菜の原種らしい。

 ゲームでは特にこういった謎の物体は見かけなかった。


 謎の木と蔓はゲームのグラフィックで見たし、何か実の様なものがなっているような気がしたが……これは無かった。

 それでも見覚えのない形をしたあの野菜をどうしようかと思って、俺は蔓状になった人参を手に入れてから、


「こんな風に野菜が一杯取れるなんて、八百屋が必要なくなるんじゃないのか?」


 そう俺が呟くとそこでミルルが、


「でもここに来るまでに、そしてここにも魔物がいますからね。遺跡も近いですし。それにここにあるのは時期の野菜の原種ですし」

「そうか時期もあるし危険だから取りにこないのか」

「いえ、やっぱり品種改良された野菜のほうが美味しいので。栽培されたものばかり大抵の方は購入していますから」

「……でもこの野生の野菜は美味しくないのか?」

「いえ、以前採ってきて料理すると以外に素材の味もしっかりしていておいしかったですよ? ただあくが強くて甘みが少ないので調理法によるかもしれませんが」

「……なるほど」


 この世界でも品種改良されたものが美味しい、というのはあるらしい。

 そういえば、俺達が食べているバナナに入っているあの黒い小さなつぶつぶが実は種らしいが、原種のバナナの種は凄く大きいらしい、といった話を聞いたことがある。

 そういった品種改良のようなこともこの魔法のある世界では行われていたらしい。


 それが意図的か、それとも偶然そういった良かったものを選んでいくのかの違いはあるだろうが。 

 でもこうやって放置されている野菜は勿体ないような気がするのでミルルに聞いてみると、


「といっても面白半分で町の人も採取しに来ますし、スラムの方々も結構この辺りで食料をえているようです」

「そうなのか」


 そこで盗賊のようなボロボロの格好をした、いかにも悪そうな男たちが俺達の眼の前に現れる。

 そんな彼らにミルルがため息を付いて、


「スラムがあると以前タイキにお話しましたよね?」

「そういえばしたな。治安が悪いからとか何とか」

「そこにいる悪い奴らが食べ物と売るのを目的にこの辺りを縄張りにしているのも、町の人達が近づかないる理由なんですよね。もっとも、ここを通らないと遺跡にはたどり着けませんが」


 そこで鎌を持った男が俺達に向かって言う。


「痛い目に遭いたくなきゃ、有り金全部おいていきな! 俺は……ごふっ!」


 男が名乗ろうとした瞬間、ミルルが矢を放ち地面に落ちると同時に爆発させる。

 それを見てお頭ぁああと叫んで、追いかけていくように見せかけて逃げていく盗賊たち。

 彼らは強いものに従順だ。

 とはいえ、話を聞くつもりもなく倒したミルルは何事もなかったように周りを見て、


「あ、こんな所に苺まである。すっごく大粒で赤くて香りも良くて……美味しそうですね。少し多めに持って帰ってジャムにしましょうか」


 そう言って楽しそうにミルルは苺を回収している。

 このたくましさを俺は手に入れるべきなのかもしれない、そう俺は思ったのだった。







 砂漠のような砂地だが、そういえば思いの外暑くないと遺跡についてから気づいた。

 確か砂漠は昼と夜の寒暖差が激しかったような気がするが、どうしてそれを今ここで思い出したのかというと、あれだ。


「さ、寒い……何だこの遺跡」


 砂漠のような砂地に埋もれるようにある入口。

 そこにぱっくりとっ洞窟のようなものが入り口を作っているが、その入口の天井からはつららが垂れ下がっている。

 そこでミルルが、


「入り口だけが、凍りついているだけですから。中は大丈夫です」

「そうなのか? 寒いならそれ用の装備を用意したのにと思ったが、それならいいか」


 そう言って中に入り込むと、ミルルが言うようにそれほど寒くはない。

 むしろほんのりと暖かい春の日差しの下にいるようだ。

 本当に遺跡ってなんだろうなと思いながら俺は、中に入り込む。


 ゲームの中でこの遺跡に潜った事がなかったので、試しにミルルに聞いてみる。

 野菜についても知っていたしミルルはこの遺跡について知っているのかもしれないと思ったから。


「ミルル、この遺跡に来たことはあるか?」

「無いです。この付近の野菜で満足してしまいましたし、先ほどの山賊のような方がうっとおしくて」

「そうか……じゃあこの入口に“アリアドネの糸”でも付けておくか。確か深さ50階までは引っ張りあげてもらえるんだったか」

「貴重なアイテムですね、ここで使うのですか?」

「知らない遺跡だし、早めに戻りたいからな」


 そう答えながらアイテムを設置して、そういえばとこのアイテムの説明を思い出す。

 たまたま見たこのアイテムの説明は、俺が知っているあの話とは全く違っていたのでよく覚えている。

 内容はこうだ。


 ある時、怪物のいる迷宮に落とされてしまった王子がいた。

 だがその迷宮には深く長い涸れ井戸と繋がっており、迷宮にて怪物を倒した王子はそこまでやってきた所でアリアドネは糸を垂らし、アリアドネは王子を引っ張りあげたらしい。

 そしてそこの後は、王子と幸せに暮らしたそうな。


 そんな理由からこのアイテムを設置しておくと、緊急時に入り口まで俺達を引っ張りあげてくれるのだ。

 ただ材料が結構いい値段だったり貴重なものなので、今まで使っていなかった。

 とはいえ、1回使ってみてどんな感じなのかも知りたいので、今回はいい機会だろうと思う。


 そして準備を整えた俺達は、中に入っていく。

 砂地の中の遺跡だからか、砂を固めたような平坦な壁に囲まれた部屋、階段。

 所々に窪みがあって、そこで小さな炎が揺らいでいる。

 

「魔物があまりいないな」

「ええ、食料が取れるので近場は採り尽くされていると聞きますから、魔物もやってきた冒険者や先ほどの盗賊のような方たちに全てかられてしまっているのでしょう」

「……そうなってくると少し深くまで潜らないといけないな。ゲームだとでては戻りで採れていたからな。近くで手に入るといいな」

「米でしたか。あまり馴染みのないものなので楽しみです」


 そう微笑むミルルに、やっぱり可愛いなと俺が思っていると、そんな視界の端でシルフが膨れているのが見え、そこでサーシャが話しかけてくる。


「いいなー、元に戻ったら私にもごちそうしてくれますか?」

「別にいいぞ、そんなに手間もかからないし」

「わーい、タイキ、愛してる!」

「わぁあああああ」


 そこでサーシャが俺に抱きつくようにしてほほにキスして来たので、突然の事に俺は悲鳴を上げると、


「前払いです、よろしく!」

「分かったよ、約束は守るよ」


 俺はこんなに食い意地が張っているからあの杖の精霊もそうなんだろうなと思う。

 そうして、騒ぎながら俺達は更に深い場所に向かっていったのだった。

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