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あの魔石は絶対に美味しかったはずです!

 次の日、俺は少し空いたカーテンから差し込む朝日に目を覚ます。


「……あまり眠った気がしない」


 目を開いた俺はそう呟いて大きなあくびをする。

 そして次に、風通しの良くなった俺の部屋――つまり、蹴り破られたドアを見る。

 金具も随分と曲がっているので買い替えも必要そうだ。


「ホームセンターみたいな場所で購入か。ついでに植木鉢も買ってきて、後他に何が必要か……でも明日にしよう。晩御飯はカレーだし。お昼を持って朝から遺跡かな」


 鈴との約束もあるしなと思っていると何処で、ミルルがドアの無くなった場所からこっそり中を覗いている。

 ここからは半分しか見えないが、随分と顔色がいい。


「おはよう、ミルル。少しは体調が回復したか」

「は、はい。あの……」

「何だ?」

「昨日はすみませんでした」


 顔を赤くして謝ってくるミルルに、俺はつい昨日の夜の出来事を思い出してしまう。

 俺まで顔が真っ赤になってしまう。

 シルフが止めてくれたから良かったものの、あのまま……。


「そうだよな好きな相手は自分で選びたいものな。でも何もなくてよかったよ」

「は、はい……タイキは優しいですね」

「はは、まあ、頑張ってお婿さん候補の恋人を探してくれ」

「……そうですね」


 ミルルが微笑んだ。

 ただ何となくミルルの表情が仮面をかぶったようなものに変わったような気がしたがそこで、


「お姉様? タイキ、ごはんできたよ?」


 そして呼びに来たシルフと一緒に朝食を俺はとったのだった。






 サーシャの機嫌が悪い。

 食事をしている間もずっと頬をふくらませて、俺の周りを恨めしそうな表情で何も言わずに浮遊している。

 コレでは取り憑かれているようだ。

 

「確か幽霊を成仏させるには……」

「いやぁああっ、というか、何ですぐ成仏させようとするんですか?」

「幽霊だからだ! というかさっきからどうして俺の周りをふよふよと」

「……魔石の件です」


 ぼそっとサーシャが呟いた。

 魔石、魔石……昨日の怪盗以外に何かあったかなと思って、俺は思い出した。


「まさか魔石を拾う時間をやらなかったのを恨んでいるとか?」

「……確かにミルルの体調が悪かったのは気の毒ですし、急いでいたのはわかりますが……あんな高純度の魔石を放置なんて信じられません! あれが1個あれば、1ヶ月は食いつないでいけるのに!」


 サーシャが俺の顔の目の前にやってきて俺に言う。

 ただ女の子の顔がこんな目の前にあって、怒っているとはいえサーシャは美人で、俺は顔が赤くなってしまう。

 そこで、ミルルが微笑みながらサーシャの魔石を掴んだ。


「サーシャ、何をしているのですか?」

「私は、私のご飯が目の前で無残にも捨てられていくのを目撃してしまったのです! ひもじい思いをして消えかけていた私の気持ちがあなたにはわかりますか!」

「……元はといえば全部貴方が撒いた種なのでは?」

「う、ぐ……でもあの魔石、素晴らしく美味しい天上の甘露のような私の魔石が……」


 それを聞きながら俺はふと思う。

 つまりこの幽霊であるサーシャだが、


「魔石に美味しさってあったりするのか?」

「もちろんです! 純度が良ければよいほど至福の味! ……段々吸い取っていくと味が薄くなって魔力のなくなって、石自体が灰色になり砕ける頃にはもう味もない、ぶよぶよしたものを噛んでいるような感触なのですが、あの魔石は絶対に美味しかったはずです!」


 そんなサーシャに、あれ、そんな豪華な食事にサーシャには見えていたのか、幽霊な状態が板についてきているなと思いつつそこでシルフに、


「預けていた魔石を返してもらえないか?」

「……分かりました」


 そう言って取り出された魔石をサーシャの前において、


「この中から選ぶのだ!」

「……今こんな味の口じゃないんです」


 サーシャが我儘を言う。

 なので一緒に食事をとっていた、“魔法の精霊ステッキ”のミィに俺は、


「なんとかしてくれないか?」

「サーシャは昔から食い意地をはっていますから」

「分かった。では、こうしようではないか。サーシャ好みの魔石を買ってやる!」


 俺がそう太っ腹な宣言をした。

 それにサーシャが少し考えて、


「幾つ?」

「一つ」

「……まあいいや、一つよろしくです。隠れて気に入ったらこそっと伝えるのでよろしく」


 そしてサーシャは機嫌を直す。

 それから、俺はそんなサーシャに、


「それでそのミィも今度から持ち歩きたいが、その大きな杖ごとはキツイんだが」


 そもそもあの可愛らしいデザインを持ち歩くのは俺に耐えられない。

 なので聞いてみると、ミィ自身が、


「そのステッキの赤い石の部分が本体だから取り出してね。私は自分でそれから抜けられなくて、好き放題使われちゃって」

「分かった、サーシャの魔石と一緒に入れていこう」


 それに頷くミィ。

 やっぱり飼い主のサーシャが好きなんだなと思っているとそこでミルルが、

 

「それで、今日は何処に行くのですか?」

「……ミルルの体調は?」

「もう大丈夫です。薬も飲めば一晩で治ります」

「そうなんだ、それなら昨日行くはずだった遺跡で野菜がほしい。それにあの変な偽物な怪盗が襲ってくるかもしながら皆一緒でいたほうがいいよな」

「そうですね。それにあそこで野菜が取れますから」

「そうそう、カレーをつくろうと思うんだ。俺達の世界の食事なんだ。鈴も夕方来るし」


 それを聞いて、ミルルも楽しみですという。

 シルフもいいというので、俺達はその遺跡に向かったのだった。






 遺跡に向かう途中の大通りの怪しげな露天商が品物を売っている。

 その男の風貌は何処と無くあの窃盗団の人間に似ているし、売っているものもどことなく高級に見える。

 そして置いてある魔石がいくつかあってそこで、


「タイキ、タイキ、あの緑の石がほしいです」

「? そうなのか?」

「約束♪ 約束♪」


 楽しそうなサーシャに言われて俺は値段を聞き、ミルルに聞いて妥当だと聞いて購入する。

 そして、人のいない場所でそれをサーシャに渡すと、


「これ、美味しそう、さっそく頂きます! もきゅ、もきゅ……もきゅ?」


 そこでサーシャが首を傾げる。


「何だかコレ、変なものが……あれ?」


 そこでサーシャの幽霊の体の周りに、光の輪がくるりと一瞬まわる。

 けれどそれは一瞬にして消失してそこで、


「何だったんだろう今の?」

「バカサーシャ! 何かがサーシャに張り付いているじゃない! 妙なものを食べて!」

「うにゃああ、頬を引っ張らないでよ!」


 サーシャが俺の周りを飛び回りミィから逃げようと飛び回っている。

 そんなミィとサーシャを放置して俺達は歩き出したのだった。

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